5話 琉球王と南蛮船 改
ハイペリアン乗組員
坂本リョウマ 副司令 日系アジア人 28歳 男性 中佐 戦略参謀 陸海の軍事作戦担当
西郷たかお 日系アジア人 28歳 男性 中佐 内政参謀 内政全般担当
大久保トシオ 日系アジア人 28歳 男性 中佐 外務参謀 外交担当
勝りん太郎 日系アジア人 25歳 男性 少佐 海軍参謀
乾タイスケ 日系アジア人 25歳 男性 少佐 陸軍参謀
福沢ゆー吉 日系アジア人 25歳 男性 少佐 財務参謀 財政全般
ヘレン ダルク フランス人 25歳 女性 少佐 医療参謀 医療技術向上、
服部ハンゾウ 日系アジア人 25歳 男性 少佐 警察参謀
公安、情報捜査、隠密捜査
杉原 ねね 日系アジア人 20歳 女性 大尉 医療副参謀 教育全般
1492年 7月
蝦夷国の海軍部隊は、いよいよ次のステージへと進んでいた。
勝 りん太郎 少佐は、太平洋ルートの開拓任務を受け、
1隻の南蛮船を率いて横須賀方面へと向かう。
一方、大久保トシオ少佐は、交易品を満載した3隻の南蛮船を率い、
琉球王国との交易交渉に出発した。
目的はただ一つ、
「明との交易ルートに割って入る」
琉球は東アジア交易の要。そこに蝦夷国が入れば、
東南アジア〜日本〜明のシルクロードを“握る”ことになる。
【南蛮船の正体】
今回の航行に使用された南蛮船は、ただの帆船ではない。
ガスタービンエンジン×1基
ディーゼルエンジン×2基
最大巡航速度:30ノット(約56km/h)
車両30輌を搭載可能
外見と武装は、2023年に就航した海上自衛隊
「もがみ型護衛艦」のコピーだが、
内部は完全に蝦夷国仕様へとカスタムされている。
「これが、"南蛮船"? ……いや、まるで要塞じゃ……!」
当時の人々にとって、それはまさに“鉄の海竜”だった。
勝と大久保――
海の南北に分かれ、それぞれの任務へと旅立っていく。
大きく時代が動き始めたことを、まだ誰も知らなかった――。
以降、南蛮船は、もがみ型護衛艦と表記します。
大久保少佐の率いる南蛮船――もがみ型護衛艦は、
無音に近い航行で那覇港沖へと姿を現した。
その異様な艦影は、「空飛ぶ龍」とでも称されるべき鉄の巨艦であり、
島の民はそれを“神の船”と噂した。
数日の外交交渉を経て――
琉球王・尚真は、その“南蛮船”に乗艦する機会を得た。
【護衛艦・艦内】
尚真王は、信頼する重臣3人を引き連れ、乗艦。
まばゆい金属の通路、滑らかな自動扉、冷気漂う艦内――
まるで異世界の楼閣であった。
大久保少佐
「ようこそ、尚真王。蝦夷国の最新鋭艦へ。
本日は内部をご案内いたします」
王たちが最初に案内されたのは――艦首の甲板。
そこで彼らを待っていたのは、62口径5インチ砲。
光を吸うような黒鉄の砲身が、無言で王を見下ろしていた。
大久保少佐
「これが本艦の主砲でございます。
発射速度は毎分20発、最大射程はおよそ24キロメートル――」
王の顔がこわばった。
尚真王
「に、二十四里……? それは、村がいくつも入る距離ではないか……」
大久保は静かにうなずいた。
「この艦は、ただの交易船ではありません。
同盟国の安全を守る、“未来の城”でもあるのです」
その後、艦内のCIC(戦闘情報センター)、医療室、
宿泊区画などを見学。
すべてが、琉球王国の常識を遥かに超えていた。
艦内で出された食事――レトルトだが栄養価と味は完璧。
特製缶コーヒーにすら、重臣たちは「異国の仙薬か」とどよめいた。
そして、見学を終えた尚真王は、帰艦前に静かに語った。
尚真王
「大久保殿……これはもう、“国”ではないな。
そなたらは“時代”そのものを運んできたのだ……」
大久保は少しだけ笑みを見せた。
「未来を共に歩める国々とならば、
我々は喜んで“時代”を分かち合います」
こうして――
琉球王国は、蝦夷国と真の信頼関係を築いた。
そして尚真王は、この日から密かに計画を進めることとなる。
「蝦夷国とともに、この島を守るための、真の“海の防壁”を――」
「王よ、これ一基で、五十門の大筒にも匹敵しますぞ!」
艦首に鎮座する62口径5インチ砲を見た重臣たちは、
口をあんぐりと開け、呆然と立ち尽くした。
それ以上の火力――秘匿兵器は、あえて紹介せずにスルー。
大久保少佐は王と重臣たちを甲板から艦内へと案内した。
次は操舵室。
壁面の大型スクリーンには海図と周囲の船舶が
リアルタイムで表示されていた。
尚真王「これは……便利じゃな。カラクリはさっぱりわからんが、
すごい技術じゃ!」
大久保少佐「この“レーダー”が、敵や味方の動きを
すべて把握する“未来の眼”でございます」
最後に、彼らは階段を下り、動力室へ。
「こちらが心臓部。三基のエンジンで船を動かしています。
通常の南蛮船は平均3ノット(時速5.5km)ですが、
この船は30ノット――56km/hを超えます」
スクリューの原理を簡単に説明したが、尚真王たちは
「?」の顔を浮かべるばかり。
尚真王「……たまげたぞ! この船、いくらで譲ってくれるかの?」
大久保少佐「そればかりは、いかに王の頼みでも不可能でございます。
運用には高度な訓練と知識が必要です。しかし――」
彼はにこりと笑った。
「蝦夷国では、同盟国への技術支援を許可しております。
教官を派遣いたしましょう」
尚真王「おお、それは有り難い! わしも優秀な者を送り込むとしよう!」
7月中旬 ― 那覇港再編計画 始動
軍港司令官として派遣されたのは、学者然とした
風貌の教官アンドロイド・一条 実。
日系、30代、温厚な語り口と知性を兼ね備えた男である。
彼の指揮のもと、工作用アンドロイド1000体が那覇に投入され、
南蛮船10隻が寄港できる巨大軍港と、潜水艦整備用の
地下ドック建設が始まった。
人力作業も並行し、米支給と無料の昼食弁当の条件で、
たちまち3,000人を超える人足が集まる。
重機を操るアンドロイドに驚嘆する民衆の中には、
琉球王朝の重臣たちの姿もあった。
24時間稼働のロボットたちにより、半月で軍港は完成。
8月初旬、那覇は東アジア最大級の軍港へと変貌する。
那覇、新・交易都市化
軍港に集まったのは、明、南蛮、
本州の商人たち。
明の商館、西欧の蔵屋敷、本州の取次所が林立し、
那覇は国際経済都市へと進化する。
首里城と軍港を繋ぐ道は狭く、拡張工事を実施。
車両が通れる舗装道路を敷くと、領民5,000人が殺到し、
わずか1ヶ月でコンクリート舗装の大動脈が完成。
運搬は、ゴムタイヤの馬車によって行われ、後にこれが
小型蒸気機関車へと進化していく。
※なお、領民に紛れて薩摩の密偵も多数入り込んでいたが、
情報局の報告を受けた橘幸太郎は静かに笑った――
技術支援体制 ― 琉球近代化の幕開け
軍港の中央部に設けられたのは――
水軍訓練施設
造船所
農業試験場
各所には、教育特化型アンドロイドが配置された。
彼らは人間と見分けがつかず、ユーモアすら理解する“知性型”。
琉球の船大工、鉄工鍛冶、漁民、農民を分野別に集め、
徹底した技能教育を開始。
農業試験場では、用水設備、灌漑技術、農機具の支給などにより、
琉球農民の生活が劇的に向上していく。
ハイペリアン司令室 ― 橘幸太郎
大型ディスプレイに映し出される那覇港の発展ぶりを見て、
幸太郎は静かに笑った。
「フフフ……一年後の琉球が楽しみだな。
琉球水軍が完成したら――台湾を平定してもらおうか」
尚真は、琉球史上最高の王と称され、琉球王国の黄金時代を築きました。国政と外交に優れた手腕を発揮し、各地の按司を首里に集住させ、琉球王国で初めて中央集権制度を確立しました。また、領土拡大にも積極的で、1500年には八重山・久米島を、1522年には与那国島を征服しました