第41話 九州の情勢 肝付家、伊東家
ハイペリアン乗組員
坂本リョウマ 日系アジア人 28歳 男性 中佐 戦略参謀
西郷たかお 日系アジア人 28歳 男性 中佐 内政参謀 内政担当
大久保トシオ 日系アジア人 28歳 男性 中佐 外務参謀 外交担当
勝りん太郎 日系アジア人 25歳 男性 少佐 海軍参謀
乾タイスケ 日系アジア人 25歳 男性 少佐 陸軍参謀
福沢ゆー吉 日系アジア人 25歳 男性 少佐 財務参謀 財政全般
ヘレン ダルク フランス人 25歳 女性 少佐 医療参謀 医療技術
服部ハンゾウ 日系アジア人 25歳 男性 少佐 警察参謀 情報捜査
杉原 ねね 日系アジア人 20歳 女性 少佐 教育参謀 教育全般
橘商会 敦賀支店 支店長 道川兵三郎 元敦賀港の川舟座の頭
奥州地区 支店長 蠣崎義広 元安東家家臣
横須賀港 店長 蠣崎光広
1496年7月
幸太郎
「さて次はどこへむかうかなあ」
服部少佐
「そうですね、肝付家から伊東家がよろしいかと両当主も
なかなかの人物に見受けられますので、新政府に取り込めば」
幸太郎
「よし、スタートだ!」
大隅国、肝付領
霧が立ち込める浜辺の道を、
ひときわ異様な“装甲車”が走っていた。
装甲車が吐き出す低いエンジン音に、港の人々は鍬を投げ出し、
腰を抜かして逃げ惑う。
その奥で、漁網を束ねる女房たちが、
目を見開いて震えていた。
装甲車が砂浜を離れ、小高い丘の上に築かれた
大隅高山城の門前に静かに止まった。
甲冑をまとった肝付家の家臣たちが、恐る恐る槍を構える。
だが車体の側面が開くと、そこから現れたのは、
橘幸太郎だった。
その後ろに、無骨な軍服姿の服部少佐が無言で控えている。
広間に通された二人の前に座っているのは、
若き大隅の獣――肝付 兼久。
「はじめまして。橘商会の幸太郎と申します。」
「私は副会長の服部ハンゾウと申します。」
「私は第14代当主の肝付 兼久である。」
兼久は目を細め、面白そうに笑んだ。
「薩摩の山を越えて、鉄の獣に乗って来るとは。
何を持って来たのだ? 」
幸太郎はゆっくりと頭を下げた。
「免税の権利をお願いに参りました。」
幸太郎は小さな地図を広げた。
そこには大隅国の沿岸と、蝦夷国へ伸びる航路が描かれている。
「志布志港を橘商会の交易船が自由に使えるようにして
頂きたいのです。」
服部少佐が口を挟む。
「免税特権を頂ければ、商会は塩、鉄器、芋の種――
村に必要なものを優先して供給できると思います。
そして、私どもは、硫黄、杉、檜などの木材を頂きたく存じます。」
兼久は肩を揺らし、小さく笑った。
「鉄砲は無いのか?」
幸太郎は肩をすくめて、
「蝦夷国と新政府は臣従しない国への武器の輸出は禁止されて
おりますので私どもにはどうにもなりませぬ。
でも、もし、どこかの大名が大隅を攻めて来て、
窮地に陥った場合は、兼久様とご家族を蝦夷国が命を賭けて、
お守り致します。
蝦夷国は、戦さを好みませんが、自国の商会の危機の場合は、
攻めくる敵には容赦は致しません。
まあ、この国に蝦夷国に戦いを仕掛ける愚か者は、
いないと思いますよ」といつもに悪代官顔で言った。
兼久は立ち上がり、障子の向こうの海を見た。
鋭い視線が幸太郎に突き刺さる。
「もしもの時は、家臣も頼む。」
幸太郎は静かに頭を下げた。
「もちろんです、蝦夷国は、人材不足なの大いに助かります。」
こうして、橘商会は肝付家から志布志港の免税特権を得た。
数日後――
志布志湾に、朝の潮風が白く靄を巻いていた。
霧の向こうに見えたのは、見慣れぬ巨船の影。
岸の船着き場では、肝付家の役人と港の人夫たちが、
半ば呆れたように、その異国船を見上げていた。
「あれが……橘商会のガレオン船”か……。」
船体は波を割り、きしむ音を立てながら桟橋へと近づく。
甲板の上では蝦夷国の商会員たちが、積み荷の帆布をほどいていた。
積まれていたのは、薩摩や大隅ではまだ
珍しい異国の塩の樽、耕作用の鍬、丈夫な鉄器、
そして――小さな木箱に詰められた淡い土の匂いの種芋。
港の人々が思わずざわめく。
「あれが……橘商会が言う“命を繋ぐ芋”か……。」
船から降り立った橘商会の役人が、港役人に書状を手渡す。
そこには――志布志港での橘商会の免税特権許可証。
「……本当に来おったな、北の商会が。」
桟橋の先で、港の子どもたちがガレオンの巨大な帆を見上げていた。
「すげーでかいなあ、おらも乗ってみたい。」
海風が吹き抜け、蝦夷国の帆が南の海に大きくはためいた。
幸太郎
「まあ、仕込みは終わったな。」
服部少佐
「そうですね、上々ですね。総司令、
このままガレオン船で伊東家の港に
行きましょうか。使者はすでに送っておりますので、
会談もスムーズかと思いますよ。」
うむ、いつもながら、手回しが良いね。
早速行ってみようー
1496年7月中旬
日向国・美々津の港――
まだ夜が明けきらない浜に、見慣れない巨大な船影が姿を現した。
朝もやの中、ゆっくりと波を割って進むのは、
北国から来た橘商会のガレオン船。
港の漁師たちが目を丸くする。
「なんだあのデカい船……船ってより、動く城だろ……。」
岸に繋がれると、船の側面から吊り橋のように舷梯が降りる。
そこから、幸太郎が姿を見せた。
後ろには、服部少佐が黙って立っている。
美々津港の伊東邸に向かった。
伊東邸、広間
幸太郎
「はじめまして、橘商会、会長の橘幸太郎と申します。」
服部少佐
「私は副会長の服部ハンゾウと申します。」
「お会いできて恐悦至極でございます。」とハモった。
伊東 尹祐
「うむ、はるばるご苦労様である。」
「あれが……噂の橘商会の船か。ずいぶんでかいな。」
幸太郎は軽く頭を下げて笑った。
「琉球からルソン、清国まで行きますので、この大きさは
必要なのです。」
伊東 尹祐
「ほう、そんな遠方まで交易しに行くのか。
で? 今日の用件は?」
幸太郎は即答した。
「伊東家の港での商館の倉庫の建設と免税特権を頂きたいのです。
代わりに蝦夷国から鉄器、織物、甘薯、蝦夷の昆布など
伊東領の村に必要なものを全部、優先的に供給します。
私どもには、杉、米を頂きたく存じます。
取り敢えず、今日は手土産に、越後の上布をお持ち致しました。」
尹祐
「お、これは貴重な品を、遠慮なく頂くぞ。
ところで、火縄銃は持っているか?
最近、島津の動きが怪しいのでな。
島津も火縄銃を生産を開始したとの情報があるのじゃ!
それで攻められて不利だからな。」
幸太郎
「残念ですが蝦夷国からは、武器の商いは禁止されて
おります。しかし、戦い以外に物であれば、ご協力は、
惜しみません。
もし何かあれば、伊東殿も家臣の方々もガレオン船で、
蝦夷国へお連れ致しますよ。
我が王も、伊東様の能力を是非、蝦夷国で発揮して
欲しいとおしゃっておりました。」
伊東 尹祐
「そんなおだてには乗らんぞ。まあ、いい!
港の役人には伝えておく。好きに荷を下ろせ。」
翌日
ガレオン船から次々と荷が降ろされる。
木箱には塩、鉄鍋、鍬、織物――
その横には、まだ見ぬ“甘藷の種芋”も並んでいる。
子どもたちが浜で箱を覗き込んで目を丸くした。
「これが蝦夷の芋……? これで村が腹減らなくなるのか……?」
船員たちが笑いながら子どもに小さな芋を渡す。
子どもは大事そうに胸に抱え、母親の元へ走った。
港役人たちはこそこそと顔を見合わせる。
「……ほんとに全部免税でやるんですか? 」
尹祐は背を向け、遠くの帆を眺めながらぼそりと呟いた。
「ああ、港は奴らに任せりゃいい。
代わりに――何かあった時、俺らが逃げ込む先は、
もう確保できたってわけだ。」
こうして、伊東家の港に橘商会のプレハブの倉庫が
わずか半日で建設した。
この年から、南九州に甘藷の作付けが始まり飢饉による
餓死者は減少したのだった。




