第40話 島津家のコンタクト
ハイペリアン乗組員
坂本リョウマ 日系アジア人 28歳 男性 中佐 戦略参謀
西郷たかお 日系アジア人 28歳 男性 中佐 内政参謀 内政担当
大久保トシオ 日系アジア人 28歳 男性 中佐 外務参謀 外交担当
勝りん太郎 日系アジア人 25歳 男性 少佐 海軍参謀
乾タイスケ 日系アジア人 25歳 男性 少佐 陸軍参謀
福沢ゆー吉 日系アジア人 25歳 男性 少佐 財務参謀 財政全般
ヘレン ダルク フランス人 25歳 女性 少佐 医療参謀 医療技術
服部ハンゾウ 日系アジア人 25歳 男性 少佐 警察参謀 情報捜査
杉原 ねね 日系アジア人 20歳 女性 少佐 教育参謀 教育全般
橘商会 敦賀支店 支店長 道川兵三郎 元敦賀港の川舟座の頭
奥州地区 支店長 蠣崎義広 元安東家家臣
横須賀港 店長 蠣崎光広
1496年6月
― 坊津寄港 ―
異国の黒船、坊津に現る
春の潮風が、坊津の湾をなでる。
どこまでも透き通った青い海を裂くように、その姿は現れた。
甲板には、蝦夷国の旗がたなびいていた
「なんだありゃ……船か!? 鉄でできとる……!」
「海賊か!? いや、異国船か!?」
漁民や町人たちが浜辺に集まり、誰もが目を疑った。
その船の蒸気笛が一声鳴ると、港の空気が張り詰める。
蒸気船の甲板に、黒い軍帽をかぶった一人の男が立っていた。
橘幸太郎は、その穏やかな笑みを浮かべた
「桜島がよく見えるね、」と呟く。
甲板の後方には、無骨なシルエットの96式装輪装甲車が二台、
黒光りして並んでいた。
薩摩の人々には得体の知れぬ威圧感を与えている。
「では――行うか。」
幸太郎が帽子のつばを軽く抑えた瞬間、装甲車のハッチが開き、
整備兵と護衛兵が慌ただしく上陸準備を始める。
船のタラップを降りると、護衛の一人が人混みを割るように道を作った。
浜辺の向こうで、薩摩武士たちが集まっている。
「な、なんじゃありゃ……馬も牛もなしで、
鉄の車が……走るのか……?」
「斬るのか……? 銃か……?」
不安と敵視の入り混じった視線が、幸太郎の姿に注がれる。
だが、幸太郎は軽く会釈をし、澄んだ声で言った。
「蝦夷国、橘商会の会長、橘幸太郎と申します。
坊津の港をお借りいたします。」
その穏やかな口調に、場に漂う緊張がわずかに解けた。
護衛のアンドロイドたちが、蝦夷国の米【夢ピリリ】
を領民に配布すると大歓声が上がった。
子どもたちには、蜂蜜で作った飴を配った。
もちろん、口入れた子どもも大人も、皆幸福感に味わっていた。
もともと、薩摩は、火山灰が多く、米作には適した土地ではなく
米は貴重な物であった。
だが、武士たちの手はまだ刀の柄から離れない。
――ドオオオオ……
96式装輪装甲車がうなりをあげて始動する。
浜辺の砂を弾き、黒い鉄の獣が坊津の村道をゆっくりと北へ進む。
沿道には、鍬を持つ百姓、子供を抱えた女、
武士の家の者まで、口をぽかんと開けて見送っている。
先頭の装甲車の車内で、幸太郎は窓から外を眺めていた。
幸太郎
「薩摩には飢饉の対策のため芋の栽培を広めよう。」
横に座っていた服部少佐
「はい、早速、ハイペリオンからイモの種芋を転送させます。」
幸太郎は笑って、ポケットから飴を取り出し、
ひょいと口に放り込んだ。
坊津から半日。
山道を抜ける装甲車は、ついに伊作城の門前にたどり着いた。
装甲車が唸り声をあげて停まると、幸太郎は静かに降り立った。
伊作城下の侍たちもまた、遠巻きに装甲車の音を
聞きつけると、城門の周囲に緊張が走った。
伊作城 本丸。
第11代当主、島津 忠昌は、
白磁の杯に干物酒を注ぎながら、庭先に現れた装甲車を見下ろしていた。
「……これが噂の蝦夷の鉄馬か。
蝦夷国とは戦えないな、
こんな物が攻めてきたらひとたまりもないな。」
町田久徳、筆頭家老
「殿、ここは、勢力拡大して国力高めて実績を作ってから、
新政府に臣従すれば要職に取り立てられると思いますぞ。
橘商会の力を利用するのが得策かと存じます。」
島津 忠昌
思案顔であった。
忠昌は若くして分裂していた奥州家・総州家・相州家を
まとめ上げた剛腕の当主であり、南蛮貿易の利益で
火縄銃と大砲の量産体制を築きつつあった。
腹心の武士たちが、物陰から橘商会の護衛をじっと見つめる。
やがて、装甲車の扉が開くと、幸太郎が悠然と降り立った。
「はじめまして。蝦夷国 橘商会の幸太郎と申します。
この者は、副会長の服部ハンゾウです。」
服部少佐もペコリと頭を下げた。
忠昌は腰を上げ、杯を置くと、豪放に笑った。
「ようこそ伊作へ。噂は聞いておる……蝦夷の鉄馬を
目にするのは初めてだ。」
幸太郎は隣の服部少佐から干物の包みを受け取り、庭先の台に置いた。
「坊津の干物、港で少し頂きました。
うちの船員たちも絶賛ですよ。
これは交易のご縁と思いまして。」
忠昌は目を細め、干物を手に取ると鼻先に近づける。
「蝦夷の商人が我が薩摩の魚を褒めるとは……面白い。」
侍たちの目の前で、幸太郎は言葉を続けた。
「忠昌殿。坊津の港を橘商会の交易の中継地として頂けませんか?
干物などの海産物、薩摩杉、竹、炭を売って頂きたく存じます。
こちらからは、鉄、米、鮭の加工品、京の絹織物、
陶磁器などをお持ちします。」
忠昌の目が鋭く光る。
「蝦夷国の鉄砲や大砲は無いのか」
幸太郎は笑みを深め、応える。
「申し訳ございません。
蝦夷国は武器の売買は禁止しております。」
続けて、橘幸太郎は懐から小箱を取り出した。
それは銃でも金貨でもなく、土の香りのする一つの袋だった。
「その代わりと言っちゃなんですが――
島津殿にはこちらを進呈させていただきます。」
忠昌が目を細める。
袋の中には、小ぶりな芋がいくつか転がっていた。
「……芋、か。」
幸太郎は笑った。
「はい。蝦夷国では【甘藷】と呼ばれております。
痩せた土地でも育ち、米が取れぬ時でも
【命を繋ぐ救荒作物】として重宝されております。
山間地や水の乏しい台地でも栽培が可能です。
作付けが広がれば、耕作地は増え、民は飢えずに済みます。
結果として、農村が安定し、年貢の滞納や一揆を
抑える力ともなりましょう。」
忠昌は黙って芋を一つ手に取った。
皺だらけの指が、土の香りを確かめる。
「……蝦夷の商人が、薩摩に芋を植えるか。」
幸太郎は、にこりと笑って頭を下げた。
「もちろん、作付けの方法は橘商会が責任を持ってお伝えします。」
忠昌の顔に、わずかに笑みが走る。
「――うむ、わかった。
よろしく頼むぞ、橘殿」
こうして、橘商会は島津家との交易を正式に開始した。
数日後――
薩摩のとある寒村にて。
赤土の畑の端で、橘商会の役人【情報局員】が村人たちを集めていた。
その足元には、小さな木箱に入った種芋が並んでいる。
農民の一人、腰の曲がった老人が不思議そうに芋を持ち上げた。
「……こん小さか芋ば、土に埋めてどうすっとな?」
役人は笑い、両手で土をすくって見せた。
「畑に埋めて半年もすれば、この芋は十倍にもなります。
乾いた土地でも、水が少なくても育ちます。
飯の代わりになるのです。」
若い百姓が目を丸くした。
「稲が取れん年も……腹が減らんちゅうことか!」
隣の農婦が、手のひらの芋をぎゅっと握りしめた。
「あん人らは……刀も鉄砲も持たんと、芋をくれるとね……」
やがて、橘商会の役人は、村から村へと歩いた。
塩と紙と共に、種芋を背負って。




