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4話  長崎港   改

イラストを入れてみました。

 1492年 6月

 1492年6月 長崎沖・南蛮船団 停泊中

 初夏の潮風が帆をなびかせる。

 大久保少佐と勝少佐は、計4隻の南蛮船を率いて、

 長崎沖に停泊していた。


 海は穏やかだが、その先に広がる陸地は――寂れていた。


 この頃の長崎周辺は、ほんの数軒の漁村が点在するだけの、

 静かすぎる土地。

 人影もまばらで、港としての体を成していない。


 だが、それがいい。


 この“空白地帯”こそが、未来から来た橘屋にとっての

 “入り口”になるのだ。



 この地は、名目上肥前国・有馬氏の支配領域。

 だが、実効支配が行き届いているわけではない。


 本格的な開発と領地化が進むのは、

 次の当主,有馬 晴純はるずみの代になってから。

 今の当主は、彼の父にあたる有馬 尚鑑なおあき

 本拠は日野江城にあり、長崎の沿岸までは目が届いていない。


 まさに、誰の目も光らぬ空白地帯。


 長崎の周辺

挿絵(By みてみん)


 1492年6月 深夜 長崎沖・南蛮船団内部

 月も雲に隠れ、漆黒の海に波音だけが響いていた。

 そんな中、南蛮船団からひっそりと、小舟と揚陸艇が出撃する。


 彼らが運んでいるのは――人類の切り札。


 夜の帳に紛れ、戦闘用アンドロイド100体が静かに上陸。

 続いて、工作用アンドロイド1000体が次々と上陸を完了する。


 彼らの動きは、人間の目では捉えきれないほど滑らかで、正確だった。

 無音・無光・無痕――まさに“影”の軍団。


 そして夜明け――。


 まだ地元民が目をこすっている頃には、

 長崎の未開の海岸地帯に重機械音が響いていた。


 工作用アンドロイドたちは、事前に

 プログラムされた設計図に基づき、

 未来式のドック施設・桟橋・補給倉庫・居住区画を

 次々と建設し始める。


 ユニット建築型モジュールを展開し、資材も艦内から即時供給。

 現代の常識では数年かかる港湾建設が、

 わずか数日で形になっていく。


 同時に、戦闘用アンドロイド部隊が拠点周囲に展開。

 完全な周辺警戒態勢を敷いていた。


 その中央には――10両の鋼鉄の巨人が、沈黙を守っている。


 配備されたのは、2011年に陸上自衛隊が配備した


「10式戦車」をベースにした強化モデル。

 口径44の120mm滑腔砲を備え、

 最新式のFCS(射撃統制装置)を搭載。

 装甲は自己修復機能付きのカーボン複合素材。

 電子戦能力も標準装備。


 要するに――“現代兵器の化け物”が、

 戦国時代に降臨したということだ。


 勝 少佐(遠望しながら)

「……もはや、敵になる者はいないな」


 こうして、長崎は無血のまま未来の軍港へと変貌を始めた。


 歴史の改変は、すでに静かに、確実に進行していた。



挿絵(By みてみん)


 翌朝――長崎沿岸

 ドオォォン……! ギイイィィ……!


 ――重機の音が山あいにこだまする。


 未来の重機械が放つ轟音に、周辺の村人たちが驚き、

 山を越えてわらわらと集まってきた。


 年寄りも子どもも、男も女も、みんな口を開けて言葉も出ない。


「……なんじゃ、あの……金ピカの、でっかい鉄の化け物は……?」


「魔物じゃろうか……いや、仏の乗り物か……?」


 長崎周辺は一時、騒然となった。


 だが、その中に、まるで違う空気を持つ男が立っていた。


 大久保 少佐(制服姿のまま登場)

「村の皆さん、ご安心ください。私たちは、敵ではありません。

 この土地に害を成すつもりは一切ありません」


 言葉の意味こそ完全に通じているわけではなかったが、

 その語調と雰囲気に、村人たちの緊張がゆっくりと解けていく。


 続いて、大久保は満面の笑みで手を広げた。


「……というわけで、こちらをどうぞ!」


 アンドロイドが荷を開くと、中からは

 食料・衣服・塩・調味料・生活用品がずらり。

 特に精白された白米と織物の鮮やかさに、村人たちは目を輝かせた。


「ほ、ほんまに……もろうても、ええんか……?」


「なんて上等な……! わし、初めて見たぞ、このツヤのある布!」


 配布された「迷惑料」は一気に村民の心をつかんだ。

 朝の緊張感が嘘のように、笑顔があちこちで広がる。


 子どもたちはアンドロイドに近づいて興味津々。

 お年寄りは、重機械を「神の道具」と拝みだす始末だった。


 その日の午後、大久保は村の中心に立って呼びかけた。


「我々は、この地に新しい港と道を作ろうとしています。

 ついては、働いてくださる方を募集したい。

 昼食付き、さらに白米も配給します!」


 ――この言葉に、村人たちがざわつく。


 ちょうどこの数年、凶作が続き、農村は

 慢性的な飢えに苦しんでいた。

 そこに現れた「飯付きの仕事」など、まさに“神の救い”そのもの。


 数時間後には、200名近い村人が志願していた。



 大久保は、ただ人を使うだけではなかった。

 未来の技術――アスファルト舗装の基礎を、

 丁寧に教え始めた。


「これは“ローラー”という機械だ。こうして踏み固めることで、

 雨でも滑らない道ができる。

 土だけじゃないんだ。“石と油”で作る道だ」


 彼は、理解の早い者を順に現場の班長として登用していった。

 作業効率は目に見えて上がっていき、やがて地元民の間にも、


「“橘屋”で働くと、メシもうまくて知恵もつく」


 という噂が広まっていった。


 こうして、“未来人の軍港”は、地元民の力も巻き込みながら

 急速に形を成し始める。

 武力だけではない、融和と技術の力。

 橘屋の「静かなる征服」は、着実に進行していた。




 6月中旬


長崎の海岸線に、突如として現れた巨大構造物。


 全長600m、複数のバースを備えた“未来型軍港”が、


 わずか2週間で完成した。


 その港に、4隻の南蛮船が優雅に入港する。


 それを目にした村人たちは、声も出せず、ただただ見上げていた。


「な……なんだあの船! 村が丸ごと入るぞ!?」


「空でも飛ぶのか……!? 龍の骨か……?」


 軍港の背後には、建設途中の巨大な防護壁がそびえ立っていた。


 高さ20メートル、素材は強化ミスリル鋼ブロック製。

 ハイペリオン内の工場で鋳造され、

 現場にワープ転送→即組立てという未来技術。


 だが、それでも組立て作業は“人海戦術”が有効。


 そこで、大久保少佐は再び村人に声をかけた。



「この城壁建設に協力してくださる方、再募集いたします!」


 その呼びかけに――


 今度はなんと、周辺の村々から1000人以上が殺到した。




 すぐさま、大型プレハブ食堂を建設。

 さらに希望者には住宅を提供し、商店、役所も即日着工。


 建物はすべてハイペリオン製のプレハブ構造。

 材料は転送、組立3日で完了という超効率。


 この地域は、すでに「未来の港町」へと変貌を始めていた。


 将来的には**人口10万人規模の都市国家「新長崎」として、

 蝦夷国の西の玄関口になる予定である。



 一方、その動きを遠くから見ていた者がいた――


 長崎の地元豪族、長崎 一朗太(40歳)である。


「……マズい。完全に異国勢力が根を張っておる……

 船も兵も桁違い、戦では勝てん……

 領民が皆あちらに行ってしまえば、我が家は滅びじゃ……!」


 重臣の一人が、口を開く。


「殿、一度ぶつかって武勇を見せ、

 臣従という形で取り入っては如何でしょう?」


 長崎 一朗太、目を細めた。


「……うむ。確かに、ただ屈するだけでは器が疑われよう。

 よし、出陣じゃ! 我らの覚悟、見せてやるわ!」


 翌朝――長崎家の兵200人を率いて出陣。

 だが、港の防護壁と巨大な大砲を目にした瞬間――


「……な、なんじゃこりゃ……! 壁の高さ、二十間以上はあるぞ!

 大筒がズラリ並んどる!? まるで天守そのものが

 海に浮いておるような……!


 ……ムリじゃ。これはムリ。命を捨てる戦じゃない。臣従する!」


 すぐに白旗を掲げ、使者を派遣。


【ハイペリオン司令室】

 クララ

「総司令、大久保少佐から通信です」


 幸太郎(総司令)

「うむ、つなげてくれ」


 画面に、大久保少佐の顔が映し出される。


 大久保

「総司令。長崎港に、臣従を申し出てきた地元豪族がいます。

 方針をお聞かせください」


 幸太郎

「うむ……それなら、臣従の条件を設定せねばな」


 すぐに幕僚たちを集め、協議が始まった。


【臣従条件案】

 案1:蝦夷国直轄地モデル


 領地は没収し、蝦夷国直轄とする


 当主は代官として行政を担当


 家臣は地方官・役人として登用


 俸禄は従来どおり、明銭で支給


 案2:本領安堵・自衛責任モデル


 現領地はそのまま維持、自主運営を許可


 ただし、武力支援は一切行わない


 条件として「蝦夷国の旭日旗」を掲げ、抑止力とする


 幸太郎

「よし、長崎港の新たな司令官として、

 司令用アンドロイドを派遣せよ」」


 クララ

「了解。転送準備に入ります」


 翌日,

 司令用アンドロイド「武田 鉄芯」が長崎へ転送された。


 見た目は、アジア系40歳の男。どこか武田鉄矢に似ていると評判。


【長崎港・役所 応接室】

 長崎 一朗太は、案内されるまま応接室に通される。


 慣れない椅子に戸惑いながら、護衛に促され着席。


 部屋の中央には幅10m・奥行3mの巨大なテーブル。

 その奥のドアから、武田鉄芯が入室してきた。


「初めまして。長崎家当主、長崎 一朗太と申します」


「私は、長崎港の責任者、武田 鉄芯です」


 一朗太は、深々と頭を下げる。


「突然ではございますが……当家、臣従を申し上げたく存じます。

 ご存知の通り、我が家は名目上、有馬家の支配下にございますが……

 近年の勢力争いで支援は望めず……このままでは、滅亡です」


 武田鉄芯は、穏やかに微笑んだ。


「ご安心ください、長崎殿。我々に敵意はありません。

 この港は交易拠点として整備中であり、

 目的はあくまで海産物と交易です。

 我々は友好的関係を築くことを望んでおります」


 だが、一朗太は首を振った。


「……貴殿らの軍容を目の当たりにし、我が決意は揺らぎませぬ。

 どうか、配下の末席に加えていただきたく……!」


「……わかりました。それほどのお覚悟であれば、

 臣従を受け入れましょう。


 ただし――条件がございます。

 家臣ともよく相談され、改めてお越しください」


「はっ! 速やかに返答いたしまする!」


【三日後】

 長崎家は案1=直轄地化の条件で正式に臣従。

 以後、長崎は蝦夷国の西部直轄地として再編される。


 その後すぐ、有馬家・福田氏・松浦氏・戸町氏・深堀氏

 ・浦上氏・矢上氏・江浦氏らに

 使者を派遣し、臣従を知らせると同時に,

「次は、あなたの番ですよ」と暗に伝える外交戦が幕を開けた。



挿絵(By みてみん)


【肥前・日野江城 有馬家本陣】


 長崎からの知らせを受け、重臣たちの顔色が変わる。


 蝦夷国――未来の艦隊と要塞を有する、未知の勢力。


 その脅威が、ついに自分たちの領地の目前に現れたのだ。


 有馬 尚鑑

「……うむ。致し方あるまい。

 長崎には援軍も送れぬ状況だし、一朗太の判断は間違いではなかろう」


 酒を片手に、静かに言葉を紡ぐ。


「南蛮船を四隻も保有する国……いや、

 もはや“国”どころの話ではないのかもしれんな」


 尚鑑はそうつぶやくと、そっと盃を置いた。


 有馬 晴純(嫡男・若き武将)

「父上――ぜひ、私を使者として長崎港へ遣わせてくださいませ!」


「この目でしかと、あの“蝦夷国”とやらがどれほどの存在なのか,


 見極めたく存じます」


 真っ直ぐな瞳が、静かな闘志を秘めていた。


 尚鑑は、わずかに目を細める。


「……うむ、わかった。行ってまいれ。

 己の目で確かめたものこそ、真の価値があるからな」


 しばしの沈黙のあと、尚鑑はふと、空を仰いだ。


「……そろそろ、儂も隠居の潮時かもしれんな」


 未来からの嵐の前で、老将は静かに時の流れを感じていた。


【一方その頃――九州西部各地】

 長崎港から届いた“蝦夷国軍港建設”と“長崎家の臣従”の情報は、

 周辺の豪族たちを確実に震わせていた。


 戸町氏、福田氏、松浦氏、浦上氏、深堀氏、江浦氏、矢上氏,

 それぞれが独自に間者スパイを長崎に送り込み、

 防護壁の構造、南蛮船の武装、軍備状況、

 村人の動員まで調べ上げようと動き出す。


 しかし、誰もが――すぐには動かなかった。


「うかつに関われば、火傷する……」


「いや、逆に好機か……?」


「まだだ。まだ観察の時だ……」


 こうして、九州西部の空気は静かに、しかし確実に揺れ動き始める。


 蝦夷国の出現は、ただの辺境国家の進出ではなかった。


 それは時代そのものを揺るがす“侵略”ではなく、

 “革命”の始まりだったのだ。

 当時の九州の勢力図

挿絵(By みてみん)

























 

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