第36話 博多攻略 蝦夷国サイド 2
登場人物
国王 橘幸太郎 橘商会 会長 移民船ハイペリアン号船長。総司令
勝りん太郎 日系アジア人 25歳 男性 少佐 海軍参謀
秘書官オトハ(アンドロイド・女性型・外見年齢20歳)
杉 隆景 筑前の守護代 杉 興運の嫡男
1495年5月末
博多湾沖
翌朝 午前7時00分 第一護衛艦 艦橋
朝靄に包まれる博多湾に、蝦夷国連合艦隊の黒煙が低く垂れこめる。
勝りん太郎少佐は、宣戦布告とも言える拡声マイクで、
声は澄んで静かだが、その芯には鋼の意志がこもっている。
「筑前・博多に展開する大内水軍各将に告ぐ。
我が蝦夷国艦隊は、帝の宣旨に基づき、上洛戦における
大内家の不法攻撃に対する報復、
および勘合符返還を目的として出動した。
抵抗する理由はもはや存在しない。
直ちに艦船を放棄し、港に退避せよ。命は保障する」
声は湾内に響き渡り、波の間を抜けて敵陣へ届いた。
午前7時20分 大内水軍本陣船上
総大将・杉隆景は、端正な顔を引き締め、
通信士の伝えを黙って聞く。
彼は筑前守護代・杉家の嫡男であり、主君・大内義興の信任厚い若き将。
その眼差しには恐れも動揺もなかった。
「殿の命、すなわち我らの忠。博多は死守せよとの仰せ、
違えるわけにはまいらぬ」
暫くすると、小早舟に使者を乗せて接近してきて、大声で叫んだ。
「敵将に告ぐ。博多死守は我が宿命。誠心誠意、
徹底抗戦を遂行する所存なり」
午前8時00分 第一護衛艦、
艦橋に立つ勝少佐は、通信士の報告を受けて微かに笑みを浮かべた。
「……やはり、そう来たか。いい武将だ」
秘書官・オトハが控えめに声をかける。
「攻撃開始、よろしいですか?」
勝少佐は頷いた。
「全艦へ通達。作戦フェーズBに移行。
人命優先――砲撃目標は敵艦のマストおよび舵機構のみ。
制圧弾で航行不能に。
火薬弾は禁止。砲撃開始は0900より」
午前9時00分 博多湾全域
一斉に煙を上げ、蝦夷国艦隊が火を噴く。
ドドドーーーン
だが、その砲弾は人を傷つけるものではない。
無火薬制圧弾が静かに飛翔し、正確に敵艦のマストや船尾を叩く。
安宅船――すべて航行不能。
関船――半数が浸水または座礁。
小早舟――威嚇射撃が波を起こし、数十艘が転覆する。
その間、尚真王は艦橋に設置された望遠レンズから戦場を見つめていた。
「……これほどの破壊力を、ここまで制御するとは。
蝦夷国の軍は、ただの“強兵”ではない。戦を“管理”している……」
勝少佐は王の背に向けて短く応じた。
「武とは本来、律すべきものです」
30分後、
唯一砲撃を受けなかった杉隆景の本陣船から、白旗が掲げられる。
船の舷側から、自ら水に飛び込む兵もいた。
すぐに救助艇が出される。
勝少佐はその様子を見届けると、杉に向けて使者を送った。
「杉殿、まずは白旗に敬意を表します。
海に投げ出された貴軍兵士の救助をお願いします。
捕虜の扱いは不要、全員そのまま博多に返します。
尚、博多市街の住民に避難勧告をしてください。
3時間後の、
午後2時より博多湾沿岸に対し艦砲射撃を行う。
これは敵勢力拠点の完全無力化のためであると。」
すぐに杉隆景は、救助した兵士と共に
博多港に帰還するとともに、住民の避難を開始させた。
住民は驚きながらも、杉隆景の指揮のもと、
混乱は最小限に抑えられた。
勝は言った。
「戦争は、終わらせる手順までが戦術だ」
午後2時 博多への最終艦砲射撃、
都市機能のない廃墟と化した軍施設跡、放棄された倉庫、
に向けて、精密な射撃が開始される。
博多の豪商街は更地化したのであった。
煙と爆音の中、海上から新たな時代の影が射し込む。
こうして博多は、一つの時代を終え、
蝦夷国と新政府による「南方戦略拠点」――すなわち、
新たな軍港建設地として、静かにその胎動を始めるのであった。
博多湾の戦いから数日後。
艦砲射撃により更地と化した旧港区に、
仮設の指令センターが建設されていた。
勝りん太郎少佐は、軽食をつまみながら報告書に目を通していた。
アンドロイド秘書官・オトハが静かに言う。
「杉隆景殿が、ただいま到着されました」
「通してくれ。例の件、ちゃんと返事をもらわんとな」
数分後、武士の礼装に身を包んだ杉隆景が姿を見せる。
戦後も変わらぬ端正な佇まい。静かに礼を取る。
「このたびは、勝殿のご慈悲、痛み入ります。
兵の命を無為にせずに済みました」
「私の名は勝りん太郎。
今後は肩肘張らず、”指揮官として”話してくれて構わない」
「では……改めてお聞きします。
あの戦のあと、私に何の御用が?」
勝は立ち上がり、部屋の窓から復興作業が進む博多の街を指差した。
「杉殿、君のような律義な武将が、
ただの“敗将”で終わるには惜しすぎる。
蝦夷国の一員として、我が艦隊の陸戦部門を率いる
”地上機動戦術官”として仕官してほしい。」
杉隆景の瞳が鋭くなる。
「この私を……蝦夷国軍に召し抱えると?」
「そうだ。身分も立場も保証する。
君には、君のやり方で、部下を率いてほしい。
君の兵は忠義に厚い、指導力もある。将として、理想的だ」
「……大内家の家臣として生きてきた私が、
今さら他国に仕えるなど――」
そう呟きかけた杉に、勝が言葉をかぶせた。
「君の主君・義興公もまた、明との交易に依存しすぎた
旧体制に取り残されつつある。
今、我々は大きな時代の転換点に立っている。
“主君のために命を懸ける”時代から、
“国の未来のために力を貸す”時代へと移り変わっているんだ」
杉は黙して数秒考え――深く、静かに頭を垂れた。
「この命、蝦夷国の未来に賭けます。どうか、お導きください」
その後、杉隆景は父に手紙で事の顛末を書き、小樽港へ訓練のため
数名の部下とともに旅立った。




