3話 敦賀港 改
登場人物は、歴史上有名人物以外は、空想の人物でございます。
1492年5月 戦艦ハイペリアン・オペレーションルーム
巨大なモニターが静かに光を放つ中、
軍服を着た男たちが次々と席に着いた。
彼らは未来から来た選ばれし人類の中枢。
今、遥か過去の地球で、新たな覇権を築こうとしている。
今日の議題は――貿易戦略の再構築だ。
出席者一覧
橘 幸太郎:総司令
坂本 リョウマ:中佐/副司令・戦略参謀(陸海軍作戦担当)
大久保 トシオ:中佐/外務参謀(外交担当)
福沢 ゆー吉:少佐/財務参謀(財政全般)
勝 りん太郎:少佐/海軍参謀
服部 ハンゾウ:少佐/警察参謀(公安・情報・隠密捜査)
幸太郎
「諸君、お疲れさま。
今日は、今後の貿易方針について話し合う。
まずは情報共有から始めよう。
服部少佐、日本国内の流通状況を報告してくれ!」
服部 少佐
「了解しました。
密偵用アンドロイドからの最新報告によりますと――」
服部は資料をホロ投影すると、静かに語り始めた。
「現在、近江商人が敦賀から蝦夷地・松前へ渡り、
海産物を買い付け、京や堺で販売しています。
また、アイヌ民族には鉄製品、漆器、米、木綿などを取引しています。
海外との交易では――
明(中国)からは、琉球経由で博多・坊津を通って
京や堺に物資が流れています。
輸入品は、永楽通宝(明銭)、生糸、織物、書物など。
一方、琉球からは馬や硫黄を輸入しています。
日本側の輸出品は、銅・銀といった鉱石、刀剣、扇子、漆器などです。
なお、太平洋側には、現時点で商船の往来は確認されていません」
幸太郎
「ご苦労。――さて」
幸太郎は中央ディスプレイに映る日本列島を指し示した。
「我が“橘屋”商団の本拠は、小樽港に置く。
敦賀、長崎、琉球を結ぶ“日本海ルート”、
そして釜石、横須賀を経由する“太平洋ルート”の二本立てだ。
敦賀は地元と協調しつつ、経済的に支配力を高める。
だが、長崎・釜石・横須賀は――我が領地とする」
司令部内に一瞬の沈黙。だが、全員が無言でうなずいた。
幸太郎
「大久保中佐。
まず敦賀で地元商人と有力豪族に貢物を配って、
融和を図ってくれ。
何事も最初が肝心だ。
福沢少佐、艦内の鋳造工場で“明銭”を大量に生産し、
大久保中佐に渡してくれ」
幸太郎
「勝少佐、敦賀での商談がまとまったら、
大久保中佐とともに長崎へ向かってくれ。
軍港の建設を頼みたい。あのあたり、
まだ村しかないから今のうちに“抑え”ておくぞ」
大久保・勝
「了解!」
坂本 中佐
「総司令、“橘屋”商会の成り立ちについても考えておく必要がありますね」
幸太郎
「ああ、そうだな。ルソン島から東南アジアにかけて
“南蛮貿易”で巨万の富を得た橘屋。
その始祖は、都を追われた公家の末裔で――
海洋国家の王として蘇った……って設定にしよう!」
数日後――敦賀港・沖合 ガレオン船内
波間を切り裂いて、一艘の小舟がガレオン船に近づいてきた。
乗っているのは、敦賀の商業を束ねる
“川舟座”の頭領・道川 兵三郎。
大久保は笑みを浮かべながら立ち上がる。
商談開始
「まずはこちらを……」
大久保が絹織物、昆布、干物、塩を広げると
、道川の目がまさに“点”になる。
道川
「こ、これほどの品……見たことがありませんっ!
ぜひ、お売りいただけませんかっ!」
彼らが持ち込んだ品は、ハイペリアン内の工場で
精製された“未来クオリティ”。
その品質に驚くのも、当然だった。
道川はすぐに専売契約を持ちかけてきた。
大久保は「越前の大名・朝倉家を紹介してもらう」
ことを条件に、これを承諾。
さらに、敦賀に“橘屋”の支店屋敷を建てる許可まで取りつけた。
3日後。
地元の大工たちが支店建設に取りかかった。
大久保はひとり呟く。
「――道川、意外とやるじゃん?」
完成までの間、支店にはアンドロイド支店長を常駐させ、
地元対応を任せた。
この専売契約により、道川は“敦賀の豪商”として台頭。
その名は京の商人たちにまで広まり始める。
やがて道川の紹介で、越前守護代・朝倉貞景へ貢物を贈る機会が訪れ、
“橘屋”は晴れて商売保護の公認を得ることに成功した。
後日。
道川が銅、銀、刀剣、扇子、漆器を大量に持ち込み、
大久保がピカピカの“明銭”で支払うと、道川は満面の笑みを浮かべた。
もちろん、朝倉貞景には蝦夷製の高級陶磁器を手土産に
持参することも忘れていない。
1492年 5月中旬――
3隻のガレオン船が敦賀沖に到着。
勝少佐が率いる部隊が、小樽港から持ち込んだ
交易品をガレオン船に積み込む。
だが、小舟での積み込みは効率が悪く、1週間もかかってしまった。
大久保 少佐
「……港そのものを整備すべきかもしれないな」
勝 少佐(苦笑)
「すぐに総司令に進言しておきますよ」
1492年5月下旬――
“橘屋”のガレオン船は、静かに帆を上げ――
次なる拠点、長崎へと向かった。
読みやすくするため、会話は現代風にしました。