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ステータスが表示されないのは僕だけですか  作者: サイケデリックを君に
2話 存在するまでの可能性とやら。
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ヴォイニッシュ

 圧倒的なステータスの差だった。大剣をその剛腕で暴れまわすグレインは、鬼神のアーマーナイトだ。素早い動きでシイナ達を翻弄していたボスの足に、疾風の如く斬りを入れた。転んでしまった敵に、躊躇なく彼女は真っ二つにした。HPは0になり、たったの数分でミッションが終わってしまうという悲劇に、イルミネイトはぽかんとしていた。先日スケイズと二人が初対面したとき、協力はあくまでイルミネイトの成長のためだと伝えていたからだ。寄生して実績だけ稼ごうという野蛮な考えを、シイナは持ち合わせていない。ただその状況を飲み込むことで精いっぱいだった。


『グレインちゃんさー、もうちょっと気を使わないと。彼の成長のためにやってるんでしょー?』

『は? 私そんなこと聞いてないんだけど……本当ですか?』

『一応、そのつもりで……』


 グレインが鋭い眼光でスケイズを見つめると、その場に「あっやっぱりこいつが原因だな」という雰囲気が流れた。もちろん彼女以外が攻めることはない。理由は今ここで判明したが、そこまで悪魔のような人間たちではないことを、シイナは理解していた。

 シイナは、グレインの冷静かつ脅威的なステータスから「破壊神」というあだ名を勝手に想像していた。ただ「こんな雑魚相手していたら成長しないよ」と発言した辺り、もはや太刀打ちできる存在ではないと自覚していたようだ。そしてイルミネイトは涙目になり、自身の才能を確認した。そう、ステータスは一時的なものだ。自分の力ではなく、仮のものである。もう、泣いていた。


『グレインちゃん……子供泣かせちゃダメでしょ!』

『そらアンタだ』


 かくしてロビーに戻った4人衆は、あまりにも体がなまっていたのでもう一戦受けることにした。それこそ「こんな雑魚」と豪語していたグレインチョイスのミッションだ、それなりに骨のある相手なのだろうと、シイナも身を投じるイルミネイトも感じていたのだろう。シイナは母親の様に彼を見つめる。心配しているように見える表情。言い難い感情ではあったが、確実に可愛らしさのようなものを感じていた。


 転送先は再び学校で、だが以前とはプレイスが違う。どうやらそこは中庭のようだ。シイナが左右を見渡すと、棟がいくつか見受けられる。大学だ。どこか既視感を感じていた彼女は、足を一歩踏んだ。その刹那、辺りから草やツルが茂り始め、一帯が大草原と化した。それは建物を食いつぶし、大自然のフィールドへと変貌したかのようだった。


『わお……なんかのマジック? いや、私もマジック使えたわ』

『緑魔ね、でもここまで侵食力のある魔法は見たことが無い。なかなかのバケモノに捕まったのかも』

『マップによると、敵はあそこですね』


 シイナの指差す方向を、3人は一斉に向く。それは棟と棟を結ぶ連絡通路で、そこには翠色のローブを羽織った敵がいた。その緑の元凶は確実に奴の仕業だった。ガラスを通して見える敵の足元には魔法陣が張られており、そこから左右に大きな茎の様なものが伸びていた。スケイズが身構える。


『まかせな! 辺りもろとも中火火力のコンロで焼き払ってやるわ! 〈ライトレンジ・ブレイズ〉!』


 その詠唱から約1秒も経たず、辺りはスケイズの言う通り「中火」程度で焼かれ始めた。ただ、あまりにも中火だったからか、それとも植物に含まれる水分のせいか、すぐに鎮火してしまった。決して雨などは降っていない良い天気だったが、怪しい雲行きだった。


『ありゃー、もう消えちゃったよ……』

『いいわ、本丸を叩けばいいだけだもの。二人とも、行くわよ』

『うぇっ、私は?』

『遠距離あなたしかいないんだから、地上待機よ。牽制もお願いね』


 スケイズを一人残し、グレインを先頭に一向は魔法使いの下へ向かって行った。下駄箱を通り廊下を進んでいると、やはり触手のようにつるが舞う。そんなことをお構いなしに大剣を振り回し、大きな茎を切り上げる。だがやはりそこには多量の水分が含まれており、彼女の鎧もろともびしょ濡れにさせた。そしてそれを防ぐために一時的な視界を奪われ、付近から現れた触手が襲いかかる。そこは冷静なシイナが対処した。的確に維管束を槍で貫き、イルミネイトのマシンガン斬絶する。


『なんか、久しぶりに動いた気がします』

『そうね、ここからは私たちもしっかりしなきゃ』


 彼のマシンガンは確実に、かつ素早く実弾を埋め込む。今までは召喚魔法ではなかったため手こずっていた彼だが、目標が現れると対処に困ることは無かった。うごめく植物群を潜り抜けながら、おそらくずっと同じポジションにいるはずの敵の場所へ。階段を上がり、連絡通路手前でようやくその姿を拝んだ。

 強張る体を奮い立たせ、武器を構える一陣。翠魔は動いていなかった。ただ流れる空気のままに、ローブを振り、そして本を開きもせずに仁王立ちしていた。シイナ達は不審に思っただろう、本来の敵ならばそこまで知恵を持ったAIではないはずだからだ。ならば何故止まっている?


『そうか、お前は私と同じわけだな。同じ雇い手ボスなのか』

『機械制御ではないのか、だが、こちらも手加減はしない』

『やるわよイルミネイト』

『はい!』


 次の瞬間、シイナ達の目の前は暗黒に包まれた。本当は少し違う。辺りはただの緑色だったのだ。樹木の集まりで鎧を形成し、魔法使いは逃げ場を塞いだのだ。


『〈ナナカマド〉。まだ炎なんか撃って……耐火性の強い緑魔法だというのに』

『喋る、ということはやはり派遣者なのか?』

『ええ。だけれど、初対面って訳じゃあなさそうね、一人だけ』


 シイナは口をつむった。ローブが‘翠’色だったのはそのせいか、黒ずんだどこかで見覚えのあるローブのようだ。だがシイナは正体を口にはせず、ただフードの下に隠れる素顔を見つめていた。くまの酷い顔。白い肌。彼女の、愛しの友人。


『あれ、もう忘れちゃった? 唯一の友達なのにぃーい。いけずぅー』

『そうよ、私の求める人。だけど、今は敵』

『そう、じゃあ、さっそくバトりましょ。天才さんよぉ』


 狭まったナナカマドの樹木から迫りくる多数の、槍のように尖った花と茎。シイナ達を拘束するように、イルミネイトの弾速ですら間に合わず交叉していく。まるで鋼の音の様に絡み合うその音色は、どこか悲しみを内含していた。


『〈ティスール〉私を守るように取り囲んで。あの野郎の首を掻っ切るまで‘安心’を私に』


 シイナの金髪が、やけに派手に見えるだろう。彼女はフードを脱ぎ捨てた。黒いままだった彼女の髪は、生前よりもずっとずっと長く、腰元辺りまで伸びていた。深碧の服は長袖で、律儀にスカートも長めだ。しかし何度も転機は訪れる。ナナカマドの一点は突如として燃え始めた。それはもちろんスケイズのいた方面だ。一気に入り込む空気。何故か溜りに溜まっていた嫌悪感だった。燃え尽きた空をシイナが見れば、雨水が鼻へと落ちた。


『雨だがギリギリ、何とかなったな。太陽光を利用した一点集中〈焦点射〉さ! いくら燃えにくいたって、獄炎を与えちまえば、なんとかなるってやつだ』

『そんなこと、可能なのか?』

『知らない! ただ、やっぱこの世界は数値世界だろ? その枠に取り込まれているんだから、なんだってできるのさ』


 スケイズの指先が純名一点を指していた。彼女の謎理論に振り回され、植物たちは次第に衰えを見せていく。そうしてジュンナは叫ぶ。


『ふふふ……やーっぱ天才集団は違いますなー。おみそれしやした、さすがっすわぁ』

『純名……』

『ああ、もうその名前で呼ばないで。私は〈ヴォイニッシュ〉。遙か昔の手帳の様に、私を解読、しきれるかしら?』

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