第八十九話 神聖プロイス帝国始動(最初はこじんまりと)
「うむ……悪くないな」
緊張の面持ちで、ヴィルヘルムは呟いた。
突然、プロイス統一の旗頭にされたのである。
平然としている方がどうかしている。
だが、このお子様は案外、王の器らしい。
「分かった。余の力が必要なのだな。お前たちの御輿に乗ろうではないか」
親族をことごとく暗殺され、自身も、すでに護衛らしい護衛をつけてもらえない状態になってた王子である。
ローダン将軍いわく、王族を抱えることでイリアーノとの折り合いが悪くなり、さる家柄からの権力を使った嫌がらせが激しくなっていたらしい。
ゼンターも所詮都市国家、度重なる嫌がらせに疲弊し、象徴であった王族を差し出そうと、そういう段階になっていたようだ。
まあ気持ちは分かる。
誰だって自分が大切だもんな。
だが、そういうの俺は好きじゃない。
子供が犠牲になるのだけは俺は許さんぞ。気持ち悪いじゃないか。
「セブン、ロットバルト、余に力を貸してほしい」
「おう。頼りにしてくれ」
俺が胸を張って発言する様を、嫁達は目を丸くして見つめていた。
アリスでさえ、
「何、どうしたの!? 悪いものでも広い食いしたんじゃないの?」
ひどい事を言う。
だが、勇者達と、愛しき我が正妻は全面的に認めてくれたようだ。
「ようやく本気になってくれたんですね、七郎さん! あなたは凄いんです。それに私もついてます! ドンと行きましょう!」
「なに、いざとなれば俺が武力でなんとかしてやる。大船に乗ったつもりでいろ!」
「男前ですわねえ。わたくしもキュンときますわ!」
ゼンターを管理する首脳三名が本来は、執政を行う宰相となるのだが……正直、信用が出来ん。
嫌がらせに折れて、こんな子供を差し出そうとした連中だ。
なので、ここはロットバルトが……。
「セブン、君がやりたまえよ」
「えっ」
な、なんだって!
「うむ、余も、名高い賢者セブンが補助をしてくれるなら心強いぞ」
「七郎さん、受けちゃいましょう!」
「おっ、いいんじゃないか」
「いいと思いますわね。それと」
俺でいいのか!? そんなん未経験だぞ! という不安が湧き上がるが、そこのところはオードリーが考えてくれているようだ。
「真っ先にですが、シュヴェルトを併合致しましょう。と申しますのも、見たところ、ゼンター一国では戦力が少なく、帝国を運営していくにも人材も不足しておりますわ。シュヴェルトでは、手前味噌ですが、ハミル伯爵の執政能力をわたくしは買っておりますの。シュヴェルト一国に収まる器ではございませんわよ」
「よ、よし分かった、それ採用」
「セブン」
ヴィルヘルムが笑った。
「それを宣言するのは余だぞ? でも、セブンが決めたなら、余もそれで良いと思う」
「なんかヴィルヘルムえらそーだな!」
ニナが恐ろしいことを言った。
この子は空気を読まないんだからー!
「良い。今まで誰も省みなかった余を、突然皆が持ち上げてかしこまるのだ。気が詰まっていかん。セブン、一つ頼みがあるのだが……」
「なんですかね」
「ニナを余の友人として置いてもらえぬか? 余に気兼ねなく口を利いてくれる者は貴重でな」
おっ、皇帝の友人!
俺はニナを見た。
「ん? あたいは別にいいぞ。ヴィルヘルムに友達がいないなら、あたいがなってやってもいい! だけど、今度ソーセージの機械を回すときはあたいが先だからな!」
「それはだめだ。ソーセージの機械は余が先に回すのだ!」
「なに! 皇帝のくせに心がせまいぞ! けちー!」
「それとこれとは話が別だ!」
むきー! とお子様二人が言い合い始めた。
首脳三人組や、クリスやセレーネ、アリスがハラハラしながら見守るのだが、俺は全然心配していなかった。
ちょっとしてから、二人とも笑い出したからだ。
「セブン、君には色々動いてもらうことになるが、その間ゼンターを留守にすることも多いだろう。彼女は皇帝の無聊を慰める友人であり、護衛でもあると思ってくれ」
「あー、ゴーラムいるしなー」
俺以外でゴーラムと意思疎通できて、言うことを聞かせられるのはニナだけだ。
案外理にかなっているのかもしれない。
それにこいつらはお似合いのような……。
「いちおう、あたいはセブンの奥さんだからな! そういうのはだめだぞ!」
「そういうのとは何だ! 余は皇帝だからな、お前みたいなちんちくりんなど別になんとも思ってないぞ!」
うむ。
かくして、俺は神聖プロイス帝国の初代宰相になってしまった。
無役からいきなり血筋が関係ない地位の頂点である。
「そもそも、セブン、君の成果と実力で、今まで在野だったことがおかしいのだ。随分そういう勧誘から逃げ回ったのではないか?」
「不思議と、事が起こるところに居合わせて……。でも、どうやってシュヴェルトを併合するんだ? 俺はそういう交渉ごとはよく分からなくて……」
すると、オードリーはさも可笑しそうに微笑んだ。
「あら、何を仰いますのセブン様。あなたは既に、シュヴェルト王国の戦力を正面から打ち破っているではございませんの」
おお!
あれってそういう事になるのか。
俺がシュヴェルト王と、彼が率いる傭兵達と一戦ぶちかまし、シュヴェルト最強戦力であるオードリーをうちの鉄砲玉ジャスティーンで破った件だ。
「あれは、セブン様がプロイス帝国宰相として、シュヴェルトに仕掛けた戦いだったのですわ。シュヴェルトは全面戦争に敗れ、王女を人質に取られた、と」
「あれ、でもオードリーは廃嫡されてるでしょ」
「他国に、元でも王女が行くということは、政治利用される危険がある事でしてよ?」
つまり、彼女は自分を政治利用しろと言っているのだ。
「いいのではないかな? 話を聞けばセブン、君の仕業で、シュヴェルトはここ数年の収入に困る有様になっているそうではないか。プロイス帝国の武力としての役割を与え、国家の主権はあくまでかの国の管理者たちに渡す形式で話をしてみる価値はあると思うよ」
「そうですわね。このままでは、王家はともかく、民が干上がりますもの」
うへ、国民のことは何も考えてなかったなあ。
「でも、それじゃ金をどうするか考えないといけないよな。シュヴェルトの傭兵を雇うには必要だろ?」
「ふむ、確かに。天使と戦うとしても、彼らは倒すと光になって消えてしまう。戦利品を奪うと言うわけにも……」
「天使から何か奪えればいいのですけれどもね」
「そもそも、天使はなぜ倒されると消滅するのかしら?」
アリスが疑問を口にした。
もっともである。
悪魔も死ぬとなんか消滅するよな。
なぜだろう。
「そういえば、アリトンを一度倒した後、セブンが奴の影から本体を引きずり出したことがあったな! 案外連中の本体はこちらにはいないのかもしれんな!」
ジャスティーンの言葉にピンと来た。
「それは調べる価値がありそうだよな!」
早速アプリを起動した。
これは、動画サイトであるウィーチューブに直接アクセスできるアプリだ。
一つくらいは天使の動画が上がっててもいいんじゃないか、うちのスマホなら……。
お、あったあった。
遠景で捉えた映像である。
天使が地上に光線を放ち、反撃の砲弾を食らって消滅するところだ。
何度かリプレイして、消滅具合を確認してみる。
「ほう……! これは便利なものだね。遠見の魔術……? いや、状況の巻き戻しができるのか……! これは凄いな。何度も確認できるなら、記録と分析には持って来いだ」
ロットバルトは強い興味を抱いたようで、スマホをじっと覗き込んでいる。
途中で、ふむ! と大きく頷いた。
「そこで止めてくれ。あ、いや、もう少し前だ。ああ、そこそこ」
ロットバルトが指差すのは、まさに天使が消滅する瞬間。
四散する天使の中央に、金色の石のようなものがある。
死んだ天使の肉体は、石に吸い込まれて吸収されてしまう。そして、石もまた砲弾の衝撃で一拍遅れて砕け散った。
残像のように天使の光だけが残っており、それが薄れていく。
「この石が天使の本体……あるいは、本体とこの世界をつなぐ扉なのかもしれないな」
「この石をなんとか回収できて研究できれば、金になるんじゃないか?」
「一考の余地があるな」
俺とロットバルトが額をつき合わせて相談する。
「あの、セブン様」
セレーネが声を上げた。
「もしかして、戦場のどこかに、無事だった石が残っているのではないでしょうか。一個くらいは……」
その手があったか。
「旦那! ヴィルヘルムが退屈そうだぞー」
「うむ。お前たちが何を話しているのかよく分からぬ。余にも分かるように話せ!」
おっ、皇帝とその友達がお怒りだ。
俺は端的に述べた。
「天使が金になりそうって話ですよ。これが上手くいけば、シュヴェルトを簡単に取り込めると思います」
「なるほど、分かりやすいな」
ヴィルヘルムは満足気に目を細めた。
「セブンの物言いは分かりやすくて余は好きだぞ」
「そりゃどうも。子供に難しい事言っても仕方ないですしね」
「すげえ、旦那が有能みたいだ」
「みたいじゃなくて、有能なんですよニナさん!」
アイナが二ナの感想を訂正した。
アイナの俺に対する期待とか評価が最近高いなあ。
「じゃあ、ちょっと俺達調べてきます」
「兵士に任せるわけにはいかないのか?」
「それはですね陛下。まだ俺達には権力があんまり無いので、帝国の兵士と言っても他の方々の私兵でしょう? ぶっちゃけ信用できないんですよ。それに、どうせ天使を金に出来る裏づけが出来ないと、身動きが取りづらいです。せっかくなんでこの足で行ってきますよ」
「そうか、全てセブンに任せるぞ」
「あまり期待しないで待っててください」
俺は、ロットバルトとアイナ、セレーネ、クリスを連れて外に出た。
ジャスティーンとオードリーでは、あの金色のものを拾い上げても壊してしまいそうだったからな。
アリスは護衛として、ニナと一緒に皇帝陛下のところに残ってもらっている。
ゼンターを中心として、プロイス連邦を統一する話は街にも広まっているようだ。
俺を見かけると、誰もが挨拶をしてくる。
「こりゃあ宰相様! どうもごきげんようです」
「宰相様、どちらへ行かれるんです?」
「宰相様、ヴィルヘルム殿下……じゃなかった、陛下をよろしくお願いしますよ」
「セブン様は全て任せておけと言っています!」
アイナさん!!!
勝手にビッグマウス叩かないでください俺の名前で!
「こんな事もあろうかと思ってね。あらかじめセブンを宰相として公表しておいた。つい先ほどのことだが」
ロットバルトも変に手回しがいいし。
そして、俺のこの貧相な容姿はなかなか宰相としても都合がいいらしい。
どう見ても小物にしか見えないので、相手が俺を舐めて油断するのだそうだ。
余計なお世話だよ。
てな訳で、俺の宰相生活開始なのである。




