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異世界コミュ障戦記~スマホでググって大賢者~  作者: あけちともあき
第九章 北の傭兵王国シュヴェルト編
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第八十二話 初めてのプレゼン(喋るのはアイナ)

「では説明します」


 アイナの言葉に合わせてプレゼン画面が映し出されると、集まった都市の代表者達が、おおっ、とどよめいた。


「壁に絵が……!」

「いや、まるで遥かな上空から見下ろしたような光景ではないか。私は転移の魔術で空を飛んだことがあるから詳しいんだ!」


 彼らが見ているのは、ルシー湖の衛星写真である。

 イリアーノ側、フレート側双方の都市も写真には収まっており、ルシー湖に対して、どのような位置に存在しているのかを一望にできる。


「仰る通り、これはルシー湖沿岸を上空から見下ろした絵です」


 写真というものが存在しないので、克明な絵だということにした方が分かりやすいのだ。

 こうして見てみると、イリアーノ側とフレート側は不自然なほど近い距離にある。

 ともに、国家側に穀倉地帯が広がっており、めいめい湖から用水路を引いて農業に使用しているのだ。


「これをご覧になって気付かれませんか」

「む?」

「むむ?」


 代表者達が身を乗り出し、目を細めた。

 ここで俺は、プレゼントポイントアプリ、通称プレポを操作する。

 すると、イリアーノとフレート、双方の街の上に赤丸がついて強調された。


「非常に距離が近いために、このように街と街が農業用水を争っている状況ですが、本来用水を使っているのは」


 ここで、用水路に青い丸。

 結構離れているのだ。


「このように遠いところから採水しています。ご覧のとおり、ルシー湖は湧水ですが、素晴らしい水量をたたえた湖です」

「うむ、そうだろうそうだろう」

「ルシー湖は素晴らしい湖だからな」

「はい。調べた結果、この湧水も、アルベール山脈の雪や、山脈にぶつかった雲が降り注がせた雨水、それらが地中深くに染み込み、湧き出していることが分かっています。アルベール山脈に雨が降り、雪が積もる限りは無尽蔵と言えるでしょう。それに、みなさんの街の反対側には大きな川が存在し、海に注いでいます」


 いわゆる地中海だな。

 落花生型なので、反対側というのが実に遠い。

 昔は船を使って、対岸行き来していたようなのだが、今ではいがみ合いのために、船の行き来すら妨害しあっているありさまらしい。

 だが、と、このプレゼンは彼らに冷水をぶっかけるのが目的なのだ。


「それぞれの農地は被らず、水も枯れる心配は無い。市場も、互いの国に農産物を出荷しているのですから……。ならば、どうして水の利権を奪い合っているのです?」

「そ、それは……そうだ、国境線がおかしいのだ! 奴等が主張するのは教皇猊下のお決めになられたものと大きく違う!」

「なんだと! 国王陛下がお決めになったものは、遥か昔からあるのだ!!」


 顔を突き合わせて睨み合う二人の代表者。


「落ち着いてください」


 アイナの声が響いた。

 そう、これにも対応済みだ。


「これが、教皇猊下の定めた国境線」


 画面写真に赤い線が引かれた。

 フレート側がぐぬぬ、と唸る。


「そしてこれが、フレート国王陛下の定めた国境線」


 イリアーノ側とは完全に交差する形で、青い線が引かれた。

 イリアーノ側がむぐぐ、と唸る。


「これじゃあ、どちらに決まっても禍根が残りますよね」


 二人の代表者、強く頷いた。


「ということで……大賢者セブン様がお決めになられた国境線です!」


 バーン!

 と音がしそうな感じで、アイナが胸を張った。

 厭味ったらしいくらいド派手な、虹色の線が登場する。

 イリアーノと、フレート側のどまんなかである。

 一切の権力を恐れぬ、堂々たる線引。

 きちんと、双方の面積が等しくなるように計算してある。


「いかがでしょう」

「むう……しかし、猊下の定められた……」

「これは……しかし、陛下の定められた……」

「ですので、アリトンを滅ぼすという偉業を成し遂げたセブン様が、その権威を持って裁定してくださるのです。今まで紛争に用いていた労力を農作に用いれば、収量も増え、街は豊かになることでしょう」

「う、うむ」


 Win-Winの関係である。

 ここでダメ押しだ。


「湖での船の運行でも、それぞれ問題があったと聞いています。ここは、このように」


 湖にもザーッと虹色の線が引かれた。


「航行出来る領域を明確に定めてしまえばいいのではないでしょうか。あとは互いに知らんぷりをしていればいいのです」


 お互いがお互いを侵さないようにして、没交渉になれば、とりあえず問題は出ない。

 互いの領域に引きこもるのだ。

 なんと平和な世界だろう。


 結果、双方にとって理想的な解決にはならないが、間違いなく双方ともに損をしないプランを提示出来たはずだ。

 代表者同士が顔を見合わせて、バツが悪そうに、頷きあった。


「では、その案で今回は」

「ですな。あまり長引いてしまっても、収穫の人出に影響が出る」

「良いことです」


 アイナがニッコリ笑った。


「では、もう、シュヴェルトから傭兵を借りて紛争をする必要はありませんね。良かったですね、余計なお金を使わなくてよくなって。あ、契約解除のお金がかかるんでしたっけ?」

「あ、ああ。だが継続して雇うよりは遥かに安い」

「うむ。余計な糧食を供出しなくて良いしな。だが、傭兵達が金を落とさなくなるのはいと痛いか……」


 大丈夫だ。手は打ってある。


「そう仰ると思いまして、ここにプランが用意してあります」

「えっ」

「えっ」


 代表者達の顔は見ものだった。


「ルシー湖で獲れる魚類は、対面の川から遡上する魚がいるお陰で、淡水、海水魚両方が存在します。これって、強みだと思うんですよ」

「ほう」

「強みか」

「ええ。だって、イリアーノとフレートでは、獲れる食材が一緒でも調理方法が全く違うでしょう? こんなに街が近いんだから、いっそ食べ比べをしてもらうようにすればいいんです。街道を繋げちゃって」

「なんと!!」

「その手が!!」


 フレートはまだ味わってないが、多種の食材を使った豊富な種類のソースで飯を食わせる食文化があると聞いている。油やハーブで、食材そのものの旨さを味合わせるイリアーノとはまた違うのだ。

 多様だっていうのは強みだからな。

 他所から客を呼びこむなりして、観光を出来るようにしちまえばいい。

 ……というのはアリスの考えなんだが。

 将来的な俺の案だと、ガルム帝国と国交を作って、そこから客を連れてこられるようにすれば強いんじゃないだろうか。

 とりあえず今は、フレートとイリアーノの住人が軽い気持ちで互いの国の飯を食いに行ける関係を目指そう。

 金が絡んでビジネスライクになれば、感情的な争いには……ならないんじゃないかなあ。多分。


「なんと……このような案は、考え付きも致しませんでした」

「流石はセブン様……いやいや、噂に違わぬ賢者ですな……。しかし、この投影する魔術は凄い。実に分かりやすい」

「うむ、感覚的にスッと飲み込めましたな。こうして絵で説明すると言うやり方があったのか……」


 徹夜で用意しただけあって、なんとかものになった。

 アイナのプレゼン能力もかなりのものである。アリスが舌を巻くほどだ。


「凄いわね、彼女……。七郎のワイフにしておくには勿体ないんじゃない?」

「冗談でもやめてくれ……。彼女がいないと俺、何も出来ないんだから」

「謙遜ね」

「いや、本気で……」


 かくして、徹夜作業をした俺とアリスは、そのまま夕方までぶっ倒れて睡眠を取り、のそのそ起きだして夕飯を食って、また寝た。

 翌日である。




 意気揚々とやって来たシュヴェルトの傭兵達は唖然としていた。

 何せ、依頼があってやって来た時には、既に自分たちの仕事は消滅していたのだ。

 傭兵仕事というのは日当制である。

 依頼がキャンセルされれば違約金が発生するが、それとて、長時間雇われて発生する日当と比べれば雀の涙だ。

 目の前には、勇者セブンを自称する男がおり、どうやらこの男が紛争をたった三日間で片付けてしまったらしい。

 彼はドヤ顔をして、その横にいた小柄な少女が言った。


「お前らの居場所、ねーから! とセブン様が仰ってます」


 ざまぁ!


 望まれずに滞在する事なんて出来ないし、例え残っても、食費や宿代が出て行くばかりである。

 シュヴェルトの傭兵達は、肩を落としてすごすごと帰っていった。

 隊長格の二人が、双方の街の代表者に食って掛かっていたようだったが、代表者達はすっかり俺のシンパに回ってしまっているのだ。

 これで一つ、嫌がらせを達成した。

 もう数年はシュヴェルトの出番は無いだろう。

 だが、所詮は人間がすることだ。何年かしたら、欲をかいた連中が出てきて、また紛争が始まるだろう。

 ただ、その時にまだシュヴェルトが存在していられるかは知らん。


 この件でおおよその紛争解決のコツを掴んだ俺。

 気付いたのは、大体の事件の陰に悪魔がいるってことだった。

 それも、アリトンが滅びてから悪魔の影響力も弱まっている。俺が名前を出して介入し、悪魔が焚き付けて盛り上がった紛争の種を消せばいい。


 この後、二件ばかり、フレート北部の小国が林立するプロイス連邦を巡って解決。

 意気揚々とシュベルトに帰還したのである。


 俺達を出迎えたのは……なかなか手荒い歓迎だった。

 国境を超えた俺達を、シュヴェルトの傭兵達が囲む。

 なんともまあ、なりふり構わぬ有様である。

 彼らの中心にいるのは、シュヴェルト王。

 俺は確かな予感とともに、彼をスマホのレンズで写しだした。

 やはり、というべきか。


 シュヴェルト王の背後に、鳥の頭をした男が立っている。

 その名はすぐに判明した。


”不和を撒く悪魔アンドラス”

 マッチポンプなんでもんじゃない。

 シュヴェルトに、紛争の種を撒き散らす悪魔が存在していたのだ。


「やってくれたな、賢者セブン……いや、お前は悪魔だ!」


 シュヴェルト王は俺を指差して叫んだ。

 彼の周囲を囲む腕利きの兵士達が、俺に向けて槍を構える。


「そ」

「そうは言うが、俺は向けられた悪意をそのまま全力で返しただけだ、とセブン様が」

「馬鹿者め……!! これでシュヴェルトは向こう数年の間は困窮することになる……!! ルキフルスの権威も失墜し、フレートもイリアーノに遠慮する必要を無くす! 北部諸国は瓦解するぞ!! 今まで、これでシュヴェルトも、イリアーノも、フレートも上手くやってこれていたのだ。必要なのは正論を吐いて事態を収めることではない! いかに長く、国が反映するかなのだ!」


 俺は耳を掃除した。

 本気でどうでもいい話だった。

 俺が口を開く前に、アイナが俺の気持ちを代弁する。


「知ったこっちゃ無い。俺が言えるのは、ざまあ見やがれって言葉だけだって、セブン様が」

「この、悪魔め!! 貴様のせいで、多くの血が流れる! 民が死ぬぞ!」


 王の言葉に、兵士達が怒号をあげた。


「ちょっと、なんかあいつらおかしいぜ!」


 ABCが戸惑っている。

 間違いなく、アンドラスの能力でおかしくさせられているのだろう。

 小さな不和の種を撒き、それをアンドラスが拡大させて紛争を産む。

 紛争を解決するためにシュヴェルトは傭兵を派遣し、紛争を長引かせて利益を得る。

 つまりはまあ、そういうことだ。

 オードリーを外に出したくなかった理由も、国内で飼い殺していれば、他の悪魔に牙は剥くまい。

 これも一種の封印だった訳だ。


 俺はツブヤキッターを起動する。

 今度は呟くんじゃない。

 彼女の名前がわかってるんだ。だから、呼べばいいのだ。


 俺は、画面上部にある機能を初めて使用した。

『ツブヤキッターを検索』

 入力する名前はオードリー。

 俺は、出現した彼女の名前を、即座にフォローした。


「やれ!!」


 シュヴェルト王の声が響く中、俺は彼女に直接メッセージを送った。


『今大丈夫? 俺、君のお父さんに殺されそうなんだけど』


 返答はすぐにやってきた。


『今行きますわ!!』

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