第八十話 大好きなのは嫌がらせ
俺が暗殺されかけたというので、急遽俺達のスイートルームに、全員が集まった。ABCも呼んである。
「セブン様を暗殺しようだなんてぇ……! ゆ、許せないぃ……!!」
わなわなと、握りしめた拳を震わせるクリス。
温厚なクリスが本気で怒っている。こんなに怒っているのを見るのは初めてだ。
「ええ、許せません!! 七郎さんが殺される謂れなんて無いですから!!」
あっ、うちの正妻であるアイナさんも激怒している。
ニナとセレーネは、俺の身を心配しているようだが、アリスは実に冷静に、
「暗殺されそうになる理由もわかるな」
「どうしてですかぁ!」
「七郎さんは何も悪いことをしてないですよ!」
「あなた達から見ていればそうでしょうね。だけど、物の見方っていうのは一つじゃないのよ」
年の功である。
アリスは十歳以上若い少女達に、俺が殺されそうになった理由の説明を始めた。
「例えば、ルキフルスは聖王国と宗教的な意味で対立しているわ。ルキフルスにとっても、聖王国の立地は宗教的聖地なのよ。だから、そこを取り戻すという大義名分がある。だからそのために賛同する領主達を集めて戦争を起こすのね。同時にこのルキフルスの聖王国遠征は、北部諸国連合の領主達にとっても、遠隔地から略奪を行ったり、その地域を支配することで領土を拡大して豊かになるための手段でもあるの」
「うんうん」
ニナが頷いている。
なんか、お話をしてもらっている気分なんだろうか。
「これを指揮することで、ルキフルスと教皇は権威を示すわけなのだけど、今回、その教皇がよりによって黒貴族の傀儡だったと暴いてしまった人がいたわけ」
「セブンの旦那だな!」
「ご明察。教団大教会から、アリトンの城に光が繋がり、しばらくしてからアリトンの断末魔を聞いたという人が多いそうだわ。そしてその前に、悪魔を物ともしないまるで勇者のような人々を引き連れた男がルキフルスに向かっていったのを、イリアーノの人々が目撃しているそうなの」
「なんと……アリスさん、よくご存知ですね……!」
「さっき、七郎からスマホを借りて調べてみたのよ。この世界の事も彼から聞いたわ」
アリスの理解力に俺は舌を巻く。
俺の説明と、それを受けながらスマホでちょちょいと検索しただけで、彼女はこのような事実にたどり着いてしまった。
賢者をやるのはアリスの方がいいんじゃないかな!!
「ダメよ。私はグググールを使う事しか出来ないわ。さっきアプリを起動しようとしたけど、管理者権限が無くて動かせなかった」
そこまでやったのか!
油断ならない人だな。
「今、七郎の事は巷でなんて呼ばれてるか知ってる?」
彼女は俺からスマホを借りて、何やらググり始めた。
全員がその手元に注目する。
「”勇者を統べる賢者、セブン”よ。大衆の間では、既に神様みたいに崇められ始めてるみたい」
「ほへー」
俺はバカっ面をした。
だってこんな事実、どう反応すればいいんだよ。
俺はただのコミュ障な三十男だぞ? それで可愛い嫁さんが四人いるだけの男だぞ?
「でも実際、今までのセブン様がやって来たことを考えると、ここまで注目されなかったのがおかしいくらいですよね」
セレーネがは指折り、俺達がたどってきた道のりを数える。
「登場と同時に勇者を復活させ、アスタロトに喧嘩を売り、彼が殺す気で寄越してきた死の迷宮を突破した上に、悪魔ゼパルを滅ぼして勇者エドガーを解放し、傭兵都市ディアスポラを悪魔の陰謀から救い、聖王国に入り込んでいた悪魔ダンタリオンの正体を暴き、ゴーラムとラプラスという二つの伝承を復活させ、ラスベリアでベルゼブブと邂逅し、ガルム帝国に悪さをしていた悪魔を滅ぼして、新たな勇者を仲間に加え、海を渡ったかと思えば、発生する直前だった、北部諸国と聖王国側の戦争を止め、その首謀者である黒貴族アリトンを、歴史上初めて滅ぼした、と」
「我ながら頭おかしいな。ていうかほとんどやったの勇者じゃないですかー」
ABCはキラキラした目で俺を見つめている。
やめろ! 俺をそんな尊敬に満ちた目で見るな!
「だけど、これってセブン様がこの世界に現れた後の、たった五ヶ月間で起こった出来事なんですよ。短期間でこれだけの事件が起こったことは、かつて無かったはずです」
「そんなー」
特別扱いは嫌だ。だって、特別な人間って仕事をしなくちゃいけないじゃないか。
俺は仕事などせずに、嫁達とエッチなことをしながら美味しいものだけ食べて暮らしたいんだ。
惰眠をむさぼる豚でいたい。
「でも、私達が狙われるならまだしも、七郎さんを狙ってくるなんて卑怯な……!!」
アイナが怒りに燃えている。
だが、俺としては、アイナ達を狙われる方がきついし、そんな卑怯な真似をされるのは腹が立つな。
あれ?
なんだか。
とっても。
腹が立ってきたぞ。
これ、下手をすると、嫁達の誰かが死んでたんじゃないか?
いやいやいや。それはダメだろう。許せんだろう。
俺は、人にやられた恨みを絶対に忘れないタイプだ。何らかの形でそれを返すまでは、絶対に記憶の中から消えない。
今回俺にされた暗殺だが、俺としては割りと冷静だった。
別に自分が凄く大事なわけでもないし、殺されるときは殺されるんだろうと漠然と考えていた訳だ。
だが、いざ嫁達が殺されると考えた瞬間、俺の脳味噌が沸騰したかのように熱くなった。
許してはいかん、この暗殺。
あの王様にも同じ恐怖を……いや、もっと嫌な気分を味あわせてやる!
俺は、嫌がらせが大好きなんだ……!!
ところで、俺達が反撃の案件を相談し始めた時、セレーネが外に俺を連れ出した。
「実はセブン様に打ち明けなければいけないことが……」
「何さ」
アイナ達が、喧々諤々と論議を重ねる声が聞こえてくる。
ネタは嫌がらせなのに、活発な意見交換だ。
「はい。実は私」
「うん」
「妊娠してまして」
「う……はいぃ!?」
俺は目を剥いた。
妊娠って!? 妊娠ってあれだよな、お腹の中に赤ちゃんがいる、あれ。
「はい……」
「お、俺の」
言いかけてやめた。セレーネなんか四六時中俺といるし、初めての相手が俺だし、俺の初めての相手でもあるではないか。
明らかに俺だった。
「いつからだろう」
「ガルムに滞在している頃に、来なくて不思議に思っていたんですが……マリー様が私の状態を教えてくれまして。今は、マリー様が胎児の時間を止める魔術とやらで安定させているんですけど……」
「それって、母体は大丈夫なの?」
「はい。栄養供給も含めて、完全に凍結させている状態ですけど、セブン様の許可が出れば解除されて、どんどん育ち始めるそうです」
「そうかあ……」
俺はなんか脱力した気分だった。
そして同時に、なんとしてもこの嫌がらせを完遂させ、さらには嫁達を守りぬかねばならないと決意したのである。
何せ、嫁達だけではない。俺の息子か娘の生命がかかっているのである。
「でも、どうしてずっと黙ってたのよ」
「それは、その……アイナさんやクリスさんに申し訳なくて……。お二人共、セブン様の子供が欲しいのに」
「でも、セレーネが妊娠したって伝えても、あの娘達なら祝福すると思うよ」
「はい。ですけど、ダメなんです。私は一番後でもいいので……」
「うーん」
俺は考えこんでしまった。
どうも、セレーネは知識欲以外の部分では、自分を犠牲にしようとする。
何気に彼女、自分の知識以外には自信がない娘のような気がするのだ。
コンプレックス系女子である。
確かにこの世界の女性としてはのっぽだし、視力も悪いから高価なメガネの世話になっているし、体力は無いし、魔力も無い。
ただ、俺はこれはこれで親近感を抱くキャラだし、色々な解説で助けられてるし、何より初めての相手なのでそういう思い入れもあるんだが。
「俺の中に仕舞っとくけど、絶対無理しちゃだめだからね。必ず俺に言ってね」
「はい……」
多分、隠しきれなくなって来たというか、精神的に我慢の限界が来て打ち明けたんじゃないかと。
そうか、俺が殺されてしまったら、父無し子になってしまうんだしな。それに打ち明けることもできなくなる、と。
涙ぐむセレーネを、俺は精一杯背伸びして、グリグリ頭を撫でてやった。
「と、とりあえず、落ち着けるように俺も俺で頑張るから、ね。今はこの状況なんとかしよう」
「はい……!」
うわ、目が真っ赤じゃないですか。
このまま戻ったら確実に俺のせいじゃないですかー。
それでも、今の状況でセレーネを独りにしておく気は無かったので、連れて戻ると案の定追求されたのであった。




