第七十四話 傭兵王国の姫
程なくして、俺達を取り囲んだのは、どこかで見たことがあるデザインの鎧だった。
「傭兵王国シュヴェルトの鎧ですね。かの国の傭兵は売り込みや宣伝も兼ねて、決まった意匠の甲冑を身につけます。国家からの補助もあるようですよ」
シュヴェルトは北部諸国連合では珍しく中立主義で、今回アリトンが唱えた南征……一歩間違えれば十字軍の再来となっていたあの活動にも参加していなかったらしい。
ただ粛々と、ルキフルスを防衛するのみである。
「見かけない格好だな。そんな姿でここまでやってきたのか? 武器も持っていない」
「上等な布を使っているじゃないか! もしや、どこかの貴族か? それに、女も多いな」
おっ、なんか不穏な空気になってきたぞ。
こいつらがただの傭兵なら、国家への侵入者は殺せばいいし、持っているものは奪えばいいし、女は犯せばいいのだ。
というわけで、うちの嫁達を差し出すつもりなんて全く無い俺は、こっそりとゴーラム起動の準備をしているのである。
「七郎、彼らは何を言っているんだ? 友好的ではないことだけは私にも分かるが」
「彼らは七郎さんたちを疑っているんです」
アイナの説明に、ふむ、とアリスは納得したようだ。
脇の下にぶら下げていたのか、拳銃に手を伸ばす。
「アイナ、説明は任せていいか?」
「はい! この国の言葉も随分覚えましたから」
俺は状況の説明をアイナに任せた。
周囲の男たちは、なんというかあまり汚らしくない。
この世界は衛生面で実に未開だが、聖王国方面はそれでもかなりましだった。
北部諸国連合ともなれば、未開度マックスである。
何せまともに下水も無いし、排泄物の処理という考えがあまり無い。
だが、彼らは比較的、きちんと手入れされた装備をしていたし、服装はくたびれているものの、汚れは少なかった。
きちんとした立場がある傭兵では無いだろうか。
「問うが、お前たちは何だ? ただの野盗には見えんし、それに……」
傭兵の隊長格らしい男が、何かと俺の顔を見比べている。
「人相書きにある、万魔の賢者セブンと言うのはお前か? 貧相な見た目の男だと書いてあるが……よく似ている」
余計なお世話だよ!
「用件はなんでしょうか? 私達は皆さんとことを構えるつもりはありません」
アイナの言葉に隊長は頷いた。
「それはこちらでも理解している。わが国が手に入れた情報では、お前が勇者達を指揮し、黒貴族アリトンを滅ぼしたとあるが……」
どうなんだろう。
事実だと認めたほうがいいんだろうか? 指揮してるわけじゃないが、アリトンを滅ぼせたのは、俺があいつを影から引っ張り出したせいだとおもう。
俺は返答を躊躇した。
だが、アイナは基本、空気を読まない子であるところは変わらないのであった。
薄い胸を張り、自慢げに。
「その通りです!! 七郎さん……セブン様は凄いのです!!」
「アッー」
おばかーっ!!
相手がベルゼブブの意向で動いていたりしたら大変じゃないか!!
アリスが銃をギュッと握り締めた。
いつでも動ける準備が整っている。
だが、俺達の心配は杞憂だったようだ。
「おお、それを聞く事が出来れば安心だ。どうか、わが国にもやって来て欲しい。あなたの存在は、勇者”万色のニックス”が遥か昔に預言を残していたのだ。シュヴェルトを訪れ、新たな勇者を呼び覚ますと」
という事で……俺達は、北の傭兵王国、シュヴェルトへ迎えられた。
「本当に……異世界なのね……」
アリスは未だに信じられないものを見るような目で、周囲を見回している。
シュヴェルトは、巨大な山々、山脈に囲まれた国だった。
冷涼な気候だが、山に阻まれてさほど雪は降らず、山からは雪解け水が流れるので、海に面してはいなかったが水は豊富だった。
人々は、牧畜と傭兵を生業として暮らしている。
俺のイメージでは、アルプスとかスイスとか、そんな印象だった。
俺達が通された城というのも、なんと木造の館だった。
城壁などは無い。
一階建ての巨大なログハウスが、シュヴェルトの城なのだった。
なるほど、ここから見渡せる距離に、針葉樹の広大な森が見える。
首都であるシュヴェルト(国名と一緒だ)ですら、高度は1000メートルを超え、山間から見渡せば、まさに絶景である。
「そなたが、万魔の賢者セブンか」
「はあ」
俺は誰何の声に、気の抜けた返事を漏らした。
ここは謁見の間であろう。
あろう、というのは、ちょっと広い部屋にしか思えないからだ。
一応、派手なパターンで彩られた布が敷かれており、巨大な怪物の頭が壁にかかっていた。
数人の兵士が立っていて、彼らの間に、木製の簡易な玉座がある。
毛皮が掛かったそこに、国王が座っていた。ムキムキである。
そして彼の横には小さな座席があり、ここには金属質な光沢の金髪をした、アイナくらいの年齢の少女が座っていた。
「そなたの訪れが新たな勇者を呼び覚ますと言う。これは、わが国を訪れた勇者ニックスが残していった預言である。そなたが、彼の伝えた時分に訪れたと言う事は……勇者もまた目覚めるのだろう」
「ふむ」
「そこでだが、そなたに見て欲しい者がおる。風の噂に、そなたはあらゆる真実を見抜く目を持ち、悪魔の正体すらもたちどころに見抜くと聞いているが」
「うえ!? どどどど、どこでそんな」
「わが国は傭兵の国。南のディアスポラとは親交もある」
な、なるほどー。
「で、だな」
王がひそひそ声になった。
「お主が本物かどうか確かめさせてもらおうと思ってな」
彼が手を叩くと、従者らしき人々が何やら持ってきた。
十本ほどの剣である。
「この中に一本だけ、我が祖先が使っていた剣がある。全て五百年以上昔に打たれたもので、切れ味はどれも変わらん。素材も一緒だし、意匠もほぼ変化は無い。当時、わが国には魔術師がいなかったため、魔術武器も無かったからな。この中から一本を見抜くのだ」
「はい、もし失敗したらどうなりますか」
「セブンの名を騙った偽者ということで、処刑だな」
「ひえっ」
「ひえぇ」
「ひゃあー」
「うへえ」
「グエー」
「あああ、こんな世界にどうしてやってきてしまったのだ! 弁護士を呼んでくれ!!」
久々に漏れそうになった。
こ、ここは責任重大だぞお。
嫁達はすがるような目で、アリスはもう諦めきった顔で天を仰いでいる。
アメリカ人はオーバーリアクションだなあ。
俺はスマホで剣を撮影する。
でも、正直ほとんど違いが分からない。
こ、こういう時は、ヤッホー知恵袋だ!
俺は撮影した写真をアップし、質問文を書き込んだ。
『実はただいま、この剣の中から由緒正しいものを言い当てる問題をもらって困っています。
当方、剣に対する造詣は深くないのですが、これを当てないとなかなか洒落にならない事になってしまいます。
なんとか見分ける方法は無いものでしょうか。
直接答えを教えてくださっても結構です』
書き込み終わると、俺は王に言った。
「ちょっと、まってね」
「うむ」
王の横では、姫様らしい子が興味津々で俺のスマホを見ている。
「オードリーはそなたに興味を持ったようだのう」
あの姫様、オードリーって言うのか。かなり可愛い。
この国の王様やお姫様の服装って、派手さがあまりない。このままの格好で鎧を上から身につけられそうだ。
あ、返答来た! 速い!
”通りすがりの智者ヴォラク”『お久しぶりですセブンさん! あの後、謎は解けましたか?
この問題ですか。アチャー、これは意地悪問題ですね。
私が思うに、これはシュヴェルト傭兵王国の武器だと思うんですが、よく見ていただくと柄の意匠が違いますよね。
実は四百年前に傭兵王国の紋章が変わっているんです。
王族に新しい血が入った事で、ラストン家の紋章が加わったんですね。
ということは、この中に一本だけ、ラストン家の意匠が無い柄の剣があることが分かるわけです。
それはこの一本ですね。
参考になれば幸いです。
たまにはこういう頭の体操もいいものですね!
ではでは』
ヴォ、ヴォラクさん久しぶり!! 具体的には第十話から再登場するとは思って無かったよ!?
俺はあなたに足を向けて眠れないよ!!
俺はヴォラクさんに教わった通りに剣を選ぶ。
指先が震えたが、今はヴォラクさんを信じるしかねえ!
俺の選んだ剣を見た王は、目を丸くし、口をほころばせた。
「間違いない。我らが剣国王、オーガスタスの剣である! そなたを真の賢者セブンと認めよう!」
「おめでとうございます、大賢者セブン様」
オードリー姫が花のように微笑んだ。
「こ、こりゃどうも」
嫁達も会釈する。
アリスはしばらく呆然としていたが、ハッと我に帰ると、
「せ、成功したのか? 私達は助かったんだな? おお、神様……!」
とかやり始めたので放っておく。
明らかに状況が、軍人が対応できるマニュアルの範疇を超えているもんな。
アリスを見て笑いつつ、俺はヤッホー知恵袋で、ヴォラクさんの返答にベストアンサーの認定をした。
そして、ブラウザを閉じた。
そこには、まだカメラアプリが展開されていたわけで。
アプリはオードリー姫をしっかりと捉え、俺の意思ではなく、彼女を撮影した。
グググール画像検索が始まり、結果が表示される。
『勇者:鋼鉄王女オードリー』
なんですと……!?




