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異世界コミュ障戦記~スマホでググって大賢者~  作者: あけちともあき
第七章 海洋王国イリアーノ編
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第六十三話 運河の魔方陣

 ヴェナティーゼ滞在二日目。

 ルキフルスにすぐ向かう事は出来るし、例え警備が厳重であっても強行突破は可能だろう。

 だが、アリトンを相手にするかもしれないという状況で、人間まで相手に回していてはやっていられない。

 そういうことで、ルキフルスの中央教会へ渡りをつけて、正式な客として訪れたほうが楽であろうという話になり、今はマリーの伝手を使って段取りを組んでいるところだった。

 ヴェナティーゼにも有翼の兎の支部があり、これを使って使者を出した。

 返答までは一週間掛かるだろうというのがおおよその見込みである。

 一応、飛行魔術が使える人間を高い金で雇ったのだが、それでもイリアーノを斜めに横断するのだから時間が掛かるのだ。


 そんな訳で、俺達はヴェナティーゼの散策中である。

 徐々に観光地としての名前が広まり始めているのか、北部諸国から裕福な連中が観光にやってきている。

 こうして金持ちを見ている分には、そこまで聖王国方面と変わらない文化程度に見えるんだが……貧富の差が激しいんだろうか。


「セブン様、今日はどうしましょうか」

「今日もゴンドラに乗るんですか? 大体昨日の時点で、ゴンドラの歴史や機能は調べつくしたんですが」


 セレーネは仕事が速いなあ。


「んーと、あたいは別にどこでもいいぜ! この街、色々珍しいものが多いしな!」

「私としてはぁ、この辺りの建物を見て回りたいんですけどぉ」

「じゃあ、今日は陸路で行くか」


 そういう事になった。

 馬が入れないほどの狭い路地が連続する都市である。

 あちこちに広場があるが、基本は細い路地、開けた場所、そして路地。

 運河には幾つも小さな橋がかかっており、これを渡って石造りの街の中を歩く。

 ゴンドラからは伺えない、都市の生活観が見えてくる道行きである。


 ただ歩くのも何なので、遊び心を入れることにした。


「えーと、ここに確かこの間ダウンロードしたアプリが……あった」


『ストリートウォー』と言うアプリである。マッピングアプリと連動しており、特定の店に入ったり、路地を通ると、そのルートがマーキングされる。

 どれだけマーキングされたかでそのスマホ所有者の勢力が決まる、リアルを利用したウォーゲームで、いい感じの来店誘致アプリにもなっていた。

 ちなみに、特定の店舗や路地に陣取り、やってくる相手を撃退する事もできる。

 俺は嫁達にこのゲームを説明し、みんなでスマホをやりとりしながらわいわいと歩く。


「あっ、セブン様!! あの路地を攻めればポイントアップですよ!」

「よし、急げ!」


 対戦相手なんかいないのだが、気心が知れた仲でこうやって騒ぐのは楽しい。

 俺も集団の楽しさと言うやつを分かってきた気がする。

 リア充万歳である!


「はあ……ぜえ……ダッシュは……だめだな……」

「私は……ず、頭脳労働……専門なの……にぃ……」

「ふひい……もう……動けない……」


 俺とアイナとセレーネがダッシュしてばてた。

 ハッスルし過ぎはいけない。

 こういう時、ニナとクリスだけが元気なのはもうお約束になりつつある。

 クリスが目標地点の服飾店を覗いている。

 裕福な観光客向けの、イリアーノ様式の衣服を売る店だ。一着一着が目玉が飛び出るほど高い。

 まあ、今の俺の資産からするとはした金ですがね!! ははは!!


 俺からスマホを受け取ってぽちぽちやっていたニナが、おっ、と声をあげた。


「旦那! もうちょっと向こうの路地を制覇したら、これって四角形の形になるぜ!」


 広場の片隅で休んでいる俺に見せに来る。

 なるほど、確かにマーキングされたルートが、綺麗な四角形を描きつつある。

 そして、この四角形と斜めに交わるようになる四角を、俺は見つけた。路地を貫いて走る運河である。


「ニナ、この運河をゴンドラで行けば、こっちも制覇になって、八芒星になるな」

「お、ほんとだ! でもなんで四角を合わせた感じなんだろう」

「角が八つになるだろ? これが三角だと、こうなる」

「おおー!」

「あれ、それって魔方陣で見たことがありますね。限定的に黒貴族の力を借りる様式の魔術なんですが」

「六芒星が?」


 セレーネは頷いた。

 この世界にも六芒星や八芒星が存在しているわけだ。

 そして、八と言うといやーなものを思い出す。


「確か黒貴族の数って……」

「ええ、八人ですね。これは、彼ら全ての力を借りる完全な様式の魔術です。ヴェナティーゼに魔方陣が隠されていたんでしょう」


 俺は、ブティックで嫁達に洋服を買ってやると、目的の路地を制覇し、次は運河を行って見ることにした。

 本日もゴンドラである。

 昨日とは違うおじさんだ。


「こういう、四角いルートで漕いでもらえますか?」


 アイナに通訳してもらって、ゴンドラを移動させる。

 既にイリアーナ語をそれなりのレベルでマスターしたアイナである。すごい! うちの嫁は有能だ。

 明らかに観光ルートでは無かったらしく、おじさんは首をかしげながらも、漕ぎ出してくれた。

 このルートは、八つの橋をくぐり、外に四つ、内に四つの広場を望む流れである。

 正確には、海へ向かっていく流れの方向が存在しているのだが、偶然この場所だけが、四角く運河が区切られている。


 念のために、勇者達に今やっている事を連絡した。

 反応ありはエドガーである。

 彼は実にフットワークが軽い。

 マリーは交渉ごとや事務全般をやってもらっているので、今は大忙し。

 ジャスティーンは酒場だろう。


「角を曲がってもぉ、同じような風景ですねぇ」


 クリスが感想を述べたとおり、この四角い運河は、曲がっても曲がっても、出現する光景が同じである。

 狙って同じように作ったとしか思えない。


「セブン様、上を」


 橋の下をくぐる時、セレーネが指差したのは頭上。

 橋の裏側に、文字が刻み込まれたタイルが貼り付けてある。

 あれは……ペイモン、と読める。

 橋の一つ一つが黒貴族に対応しているのだ。

 ともすれば、広場一つ一つもそうなのだろう。


 俺が手にするスマホの中では、辿ったルートが確実にマーキングされていく。

 それに伴い、なんとなくなのだが、ルートであった道が、運河が淡く光っているように見えるのだ。

 魔力が通ってるんだろうか。


 アイナが不安げに、俺に手を絡ませた。

 俺だって不安だ。彼女の手のひらをぎゅっと握り返してやる。


 最後の角を曲がる時だ。

 頭上で、エドガーが併走しているのが分かった。

 ゴンドラの速度は対して早くないが、遮るものが無い運河を行く。

 それと並んで走るならば、路地では用を成さない。エドガーは屋根の上を小走りで移動していた。


『魔力が溢れてきているようだね。何かが起こるよ。セブン、気をつけるんだ』


 分かっている。気をつけたいところだが、何をどう気をつけるのか分からん。

 まあ何かがあったらエドガーが助けてくれるだろう。

 やがてゴンドラは、運河を一周した。

 その途端。


 運河の底が緑色の輝きを発した。

 路地は赤く輝く。

 広場は青く輝いた。

 魔力とか良く分からない俺にだって分かるほど、濃密な何かが下からあふれ出してきて、空に上っていく。

 一瞬、ニナがびくりと震えた。


「に、ニナ!?」


 心配して声をかけると、彼女は振り返って、


「大丈夫、なんでもない。少々驚いただけだ」


 そう答えて微笑んだ。だが、なんだその口調は。ニナ、キャラが崩壊してるぞ!

 アイナ、セレーネ、クリスは気付かない。

 そりゃ気分で口調を変えるとかはよくあるかもだが、俺はアニメやラノベで腐った感性を養った人間だ。キャラクター崩壊に関しては看過できんなあ!


「ニナ、キャラが変わってるぞ! っていうか誰か別のやつが乗り移っただろ!」


 とりあえず突っ込んでみる。

 オリエンスからのペイモン疑惑があるニナである。俺は信じてはいないが、だがこういうイベントだと、仲間の正体がまさか! 何てこともよくある。


「ボクの事は気にしなくていい。この娘を守る安全装置のような存在だ。それよりも、魔力を逃がすなよ、賢者セブン」


 間違いなく、ニナの体に何かが宿ってる。

 だが、そいつのアドバイスも無視できるものじゃない。

 俺はスマホを確認した。


『一件のアプリがダウンロード待ちです』


 俺は、許可をする。

 すると、吹き上がる三色の魔力が、俺のスマホに吸い込まれるように集まり始めた。


『マクスウェルの魔鍵をダウンロードします』


 そいつは、勇者カイルが残した伝承の欠片の名前だった。

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