第六十一話 魔導エレベーターを探せ
俺達は飯を食いながら、ちょっと窓から身を乗り出してみた。
すると、なるほど、頭上をゆっくりと、巨大な岩の塊が旋回していく。
あれがアリトンの城というわけだ。
ジャンボジェットが頭上を飛んでる位の高さというと分かりやすいだろうか。
「あれかあ……。とんでもない高さにあるなあ。どうやって乗り込むんだ?」
「時折、アリトンは地上に姿を見せるらしいよ。城が空から降りてきたという話はないから、恐らく何らかの手段で、地上に扉でも繋げているんじゃないな」
「黒貴族達は、みんなゲートを開くことができるからそれじゃないのか?」
「セブン様、実は、アリトンは多数の軍勢を率いて地上に降り立ったという記述があるんです。その逆も然り。自分に従う大量の軍勢を、一度に城へ連れて行ってしまったとか。ゲートは見た限り、個人用か、多くても数人程度を対象にした魔術に見えます」
セレーネはこの国の伝承を聞き出していたようだ。
その気になれば、イリアーノの文献に当たることも出来るだろうが、今は時間が無い。
いや、あるといえばあるのか? 聖王国相手に戦争を起こすと言う噂だが、いつ起こすという話は聞いていない。
「ま、今日はもう遅いわ。船旅の疲れもあるのだし、休みましょう」
マリーの言葉で、本日は解散となった。
勇者達はそれぞれ、大部屋でも構わないようだったが、俺だけは四人の嫁達と泊まらねばならないので、高い金を出して広い部屋を取った。
高い金と言っても、イリアーノの首都でもない港町だ。たかが知れているのだが。
あ、マリーさんは情報収集をすると言いながら、夜の街に消えていきました。
あの人、ああやって百年も世界を渡り歩いているんだなあ……。
ちょっと感心してしまう。
「セブン様ごめんなさい。私、先に休ませてもらいますね」
宿で沸かしてもらった湯で体を拭いた後、疲れが溜まっていたアイナは気絶するように眠り込んでしまった。
これでも前よりは体力が増えたのだが、やっぱりうちの嫁達の中だと、アイナが一番一般人に近いんだろう。強行軍なんかは彼女の体に危険すぎて出来ない。
俺が弱音を吐いても、勇者どもは絶対気を遣ってくれないだろうが。
「じゃあ、小さい声で作戦会議しよう」
「はい」
「あいよ」
「はぁい」
俺達はお夜食のナッツ類をつまみながら、今後の方針について話し合う。
マリーが事情に詳しいとは言え、やはり情報収集の要は俺のスマホになる。
問題は、グググールでの検索はあまりにも自由度が高すぎて、調べるために必要なキーワードがわからないのだ。
「空を飛ぶ城から地上に降りる場合、幾つかの魔術を使って降りる事ができます」
セレーネがパピルスのメモを千切り、そこに羽ペンを立てた。
「”染料よ”」
彼女が詠唱すると、羽ペンの先端が黒く染まった。
セレーネが使える僅かな魔術のうちの一つ、染料の魔術だ。
羽ペンの先端にインクを染み込ませる事しか出来ないが、これがあるお陰で、彼女はどこでもメモをとることが出来る。
「まずは、飛行。最も自由に飛行ができる魔術です。ただし本人にしかかからず、しかも自在に飛ぶには、飛行することそのものへの熟練を要します。これは、バツですね」
書かれた飛行の文字を、セレーネが大きくバッテンした。
「あたいも空を飛べるなら、魔術を覚えてみたいけどなあ」
「飛行の魔術は才能がある魔術師でなければ、使うことが出来ませんからね」
「高いところは怖いですぅ」
「ふーむ、次はどうなの?」
「はい。次は、浮遊。これは他人にもかけることが出来ます。同意した相手をある程度浮かせることが出来ますね。ですが、これはある程度の高度に浮かせることは出来ても、この魔術であの高い空にある城へ登ることは出来ません。降りてくるならば可能なのですが」
書かれた浮遊の文字を、セレーネが大きくバッテンした。
「そして最後は、転移。複数の仲間を巻き込むことができますが、莫大な魔力を消費する魔術です。予め決まった地点にポイントを作り、任意の箇所からポイントへ移動します。ポイントは、魔法陣と言う形で固定されます。見た目のイメージは、光のチューブが目的地に向かって繋がり、その中を高速で移動するものですね」
転移っていうか、魔導エレベーターって感じだなあ。
話を聞いてても、人間が剥き出しにならず、光のチューブの中を移動するわけだから安全そうだ。
「じゃあ、多分転移だよね」
「そうでしょうね。どこかへ拠点を作り、そこを起点に軍勢を行き来させているのでしょう。アリトン自身はイリアーナからあまり動きませんから、間違いなく転移の拠点もイリアーナの何処かにあります」
なるほど……。それがどこかを調べる必要があるわけだなあ。
なんという検索ワードにしようか……。
「転移、アリトンっと……」
検索結果が出る。
だがそれは、あくまでセレーネが話してくれた伝承の範囲の内容にすぎない。それに、イリアーノの人々の証言や言い伝えが全部拾われているようで、やたらに件数が多い。
もう少し絞込み必要か……。
「転移、アリトン、場所……だめか」
「難しいですね……。何か見落としている気もするんですけど……」
「あー、もう、あたいは頭使うの苦手だなあ!」
「うーん……どこか、決まった場所に降りてくるって言ってるんですよねえ?」
クリスが難しい顔をしながら腕組みした。
腕の間で、豊かな胸が寄せられてけしからんことになる。
「それって例えば、傭兵が集まってるところって関係あるんでしょうかぁ? お昼にお手伝いしてた時、聞いたんですけどぉ」
「あ、それですよクリスさん!」
セレーネがぽんと手を打った。
「何処に降りてくる、じゃなくて、何処から吸い上げるで考えていいんです! なら、今一番、アリトンが集めた戦力が多くなっているところがそうなのかもしれません!」
「はいぃ、お役に立てて良かったです! セブン様あ、これで調べられますぅ?」
「うん、ありがとう! いけそうだ」
集団……傭兵。うーん、どのワードが引っかかる?
アリトン、じゃないな。
イリアーノ、戦争の噂、傭兵、だろうか?
検索をする。
トップに、現地人たちの口コミを集めたまとめサイトが登場した。
無論こんなサイトなんて無い。恐らくはこのスマホが、情報集積の形を俺に分かりやすく見せてくれているんだ。
『【悲報】俺氏の自宅、傭兵たちに乗っ取られる』
こんな題名のまとめ記事で、つらつらと現地人達の反応が2ch方式で書いてある。
『特定。暁の星教総本山、ルキフルスだろお前の家』
『特定班はええよwww』
「セレーネ、暁の星教って?」
「あ、はい。北部諸国連合が進行している宗教です。暁の星ルシファーを信仰する宗教で、エルベリア聖教と対立しています。信仰する対象は同じなんですが」
うちの故郷の世界でもそういう対立があったな。
それに、ここがイタリアだとするなら、暁の星教総本山は、あの市国に相当するだろう。
警戒が厳重そうな気がしてならないが、かなり間違いないような気がする。
よし、転移で画像検索。
光のチューブが伸びている画像が見える。
チューブの中にいる姿は曖昧に見えるようになるのか。
この画像を現地の人に見せて確認かな。
ひとまず、この情報をツブヤキッターへ書き込む。
すると、勇者達からの反応が帰ってきた。
『了解だよ。さすがセブンだねえ、仕事が早いや』
『おう!! では明日から移動だな!! この国のワインは美味いから、買い込んでいこう!!』
『ちょ、ちょっと待ってね、今反応どころじゃない……ンッ――――!! はぁ……』
マリーさん!!!!
「と、とりあえずみんなには伝えたよ、ただ、マリーさんはもう、あれだな、もうだめだよ」
「あ、やっぱり、あれですかぁ」
一人だけ察して頬を赤らめるクリス。
船中で寝込んでいたセレーネとニナは首を傾げるばかりである。
さて、明日から移動でまた体力を使う旅だ。
しかしその前に……。
「約束のマッサージをクリスにしてあげないとなあ」
「うふふ、お手柔らかにですよぉ」
セレーネとニナが羨ましがったが、君達は今度ね! 今度! ということで片付けて……。
俺はマリーの書き込みでムラっとした気分を発散したのである。




