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第三十五話 温泉卵と全身浴

「んっ、おいひい!」

「んむ、いけるな」


 俺とニナは並んで温泉卵を食べていた。

 ニナは岩陰でささっと服を脱ぐと、腰に手拭を巻いてゴーラムを抱っこして走ってきたのだ。

 慎みというものが無い。だが、おじさんそういう元気な子も好きだぞ。

 俺も腰に手拭を巻き、二人で並んで湯船上の岩場に腰掛け、卵を食らう姿は親子のように見えるのではないか。


 ゴーラムは、温泉に住んでいるらしいカニの一種を見つけ、戯れている。

 カニがハサミでゴーラムの指をつまもうとするのだが、太過ぎてどうしようもないらしい。ゴーラムが指先でカニの腹をつんつん突くと、カニはつるりと岩場を滑って、温泉の中に落ちてしまった。

 あっ、茹で上がる。

 ……と思ったら元気に浮上してきて、また岩場を横向きに登ってきた。

 またゴーラムをハサミでつまもうとし始める。


「あっ、ゴーラム友達が出来たんだね!」


 ニナが楽しげに微笑んだ。

 しかし、年頃の女の子が腰巻タオル一丁というのはなかなか。

 彼女の体型をつるぺたと称した俺だが、それが誤りであった事をここで伝えたい。

 確かに彼女の体型は凹凸に欠けるが、それはぷにぷにした幼児体型だからではない。

 手足やわき腹など、繊細なラインを描きながらも、しっかりと筋肉がつき、いわゆるアスリート体型に近い印象を受けるのだ。

 うむ、胸もちょっと膨らんできている。

 大きく育てよ。


「あっ、何旦那、あたいのおっぱい見てるんだよ、えっち」


 そうやって急に意識して隠されると、堪らないものがあるな……。

 頬を膨らませて、足で俺のわき腹を突いてくるニナ。実に可愛い。あとその仕草をするとタオルの下に隠れた際どいところが丸見えだ。

 そうか、まだ子供か……。


 そんなことを考えながら俺が我が息子を元気にしていると、


「お待たせです!」


 三人娘が登場した。

 アイナは男らしく、手拭を肩から提げて何も隠していない。小脇に荷物の詰まった袋を抱えているが、もう、小脇という辺り隠す気が無い。

 うーむ、うむむ……。


「セブン様とはもう、何もかも見せ合った仲ですからね!」


 アイナが背後をフッと見返すと、クリスとセレーネが、ぐぬぬ、という顔をした。

 その表情可愛い。

 ちょっとやつれたアイナだが、全体的に線が細くなったように見える。

 元からあまり肉付きは良くなかったのだが、どこが細くなったかと言うと、とりあえず胸元とか。

 頭があまり大きくないので、さほど背丈は無くても全体のプロポーションバランスは良く見える。

 将来に期待である。

 そうか、下も赤か。


「そ、そのリードはあ、この温泉旅行で縮めてみせますからあ!」


 クリスは対抗意識をあらわにする。

 目下、アイナとはよきライバル関係である。二人にとってのトロフィーが俺というあたりがこう、胃に悪い。

 彼女の場合は語るべくも無い。

 両手に余るのでは無いかと言うほど素晴らしい質量を称えた胸。

 120%安産体型であろう腰周り。お腹周りも柔らかに肉がついていたが、流石は聖王女の元護衛。脂肪の下には鍛えられた筋肉があるのだろう。きちんと、ウエストがくびれに見える。

 二の腕と太もものむっちりさは愛嬌……むしろ魅力だろう。

 荷物と手拭いで前を隠しているので他はよく拝めなかった。


「まあ、私はお二人が隙を見せた瞬間に横からさらわせていただきます。どうぞ存分にお互いぶつかり合って下さいね」


 セレーネはメガネを外していた。

 彼女のパッチリとした目があらわになると、これはこれで新しい魅力だ。

 すらりと背が高い彼女は、俺よりも上背がある。

 足長っ!

 もう少し身長があればモデル体型で通ったかもしれない。

 手足は細いし、腰周りもスレンダー。ただし、胸元はそれなり。手のひらサイズというところか。

 彼女の手拭いは主に胸元を覆っており、お陰で髪色よりもやや濃いブラウンであることが確認できた。


「さっきからセブン様が私達のことを舐めるように観察しているんですけど」

「その通りだぞアイナ。君の将来性に俺は期待してる」

「なんて正直な……! でもセブン様、青い果実の私もいいものですよ!」


 アイナが荷物を放り出して、俺に飛び込んできた。


「うおあーっ!!」


 俺とアイナはくんずほぐれつしながら、温泉に転がり落ちてしまった。

 幸い、このあたりの岩は角が磨かれていて丸い。

 背中や尻に細かい石が食い込むが、それくらいは愛嬌だ。

 熱い湯から顔を出すと、すぐ目の前でアイナも顔を出した。


「うひゃあー!! あっつぅい!! 何このお湯、すっごく熱いんですけど!!」

「そりゃ、温泉は熱いだろう」

「セブン様あ、私たちも入りますねえ」

「あ、て、手拭いはお湯に付けない様にね」


 俺は自らの手拭いを絞りつつ、頭に載せた。


「おや、そういうルールだったんですか。そらべてもそういう情報は無かったので……」

「ああ、俺のこだわりなだけなんだけど」

「いえ、セブン様のお考えなら私も従います」


 セレーネが手拭いを岩場にかけて、そっとつま先から入浴してくる。

 クリスは手拭いを体から離すのに躊躇していたようだが、


「やっほーい!」


 素っ裸になったニナが俺目掛けて突っ込んでいくのを見ると覚悟を決めたようだ。

 って、ニナ、当たる当たる!!


「むがっ」


 俺はニナに顔に馬乗りになられて、また温泉の底へ。

 深さはさほどでもない。底に尻をつければ、胸下まで浸かるくらいだ。

 ニナやアイナにはちょっと深いかもしれないな。

 俺は湯船の中で、ニナの足をキャッチしてひっくり返した。

 浮力が働く水中なら、非力な俺でもニナに対抗できるのだ!


「うわあ、旦那め! もがあっ」


 うーむ、物凄いインパクトだった。女の子がそこから突っ込んできてはいけませ……。


「えぇーいっ」


 く、クリスさん!?

 今度は俺目掛けて、真っ白でふっくらした体が飛び込んでくる。

 温泉は飛び込み禁止ーーーーっ……!


「がぼおっ……!」


 胸の柔らかな感触を顔全体に喰らって、俺は沈没した。



「セレーネは熱いの平気なんですね。いがーい」


 膝下を温泉につけてちゃぷちゃぷやりながら、アイナは俺達を見る。

 今温泉でまったりしているのは、俺とセレーネ。

 彼女はすっかり湯加減が気に入ったようで、ふにゃりと緩んだ表情をしながら、俺にもたれかかっている。

 アイナとクリスとしては危機感を覚えるようだが、熱いお湯にちょっと入っては出て、またちょっと入ってという按配なので、なかなかセレーネの牙城に切り込めないようだった。

 ニナはと言うと、温泉の浅瀬でゴーラムとカニと遊んでいる。


「よし行けカニー! ゴーラムを押し込めー!」

『ま”』


 カニがニナの声援を受け、満身の力を込めてゴーラムを押しやる。

 あの小ささからは想像もできないパワーだ。ニナの半分はある大きさのゴーラム(左腕)を岩場から寄り切ろうとしている。

 今何が行われているのか。

 それはつまり相撲である。

 温泉の浅瀬に、一枚岩になった部分があって、その上でカニとゴーラムが取っ組み合っているのだ。


「あのカニは、カイルガニと言いまして、勇者カイルが残した伝承の欠片に数えられる事もあります。魔力を食べて生きているカニなのだそうですよ。ああ見えて魔物の一種なんです」

「ほほー」


 俺の横で説明するセレーネは、湯船から出た胸から肩、首筋がほんのり上気して色っぽい。

 外見だけなら一番大人びて見える彼女だから、こういう姿を見るとドキッとするのだ。


「カイルが残したもの同士、ゴーラムと気が合うのかもしれませんね」


 なんだかいつもよりも色っぽい目つきで俺を見てくる。

 あれかな。精力増進効果なのかな。

 俺は近くに浮かべてあった荷物袋からスマホを取り出した。

 まさかお湯に落としてだめになるってことはあるまい。フールフールの雷撃だって平気だったんだから。

 ぐりぐりっといじると、温泉アプリがインストールされていた。

 アンテナを温泉につけると、水質や効能が分かるらしい。

 どれどれ。

 ……おお、本当に精力増進がある。

 そういえばさっきから息子が元気だ。

 一種の魔法の温泉なのかもしれない。アイナもやたら活発だし。


「おおー! カニやったー!」


 ニナがカニと戯れている。

 温泉に落とされたゴーラムは、てくてくと水中を歩いてこちらまでやって来た。

 セレーネがゴーラムの手の甲を撫で撫でする。


「ねえセブン様ー! もうご飯にしましょうよー!」

「お腹すきましたあ」


 熱いお湯が苦手な女子達が痺れを切らしたらしい。


「じゃあ、飯にするか!」

「はい!」


 俺が立ち上がると、セレーネは寄り添うように体を起こした。

 むむ……背中に当たる濡れた感触が……。

 アイナとクリスが騒いだのは言うまでも無い。

 しかし、無駄に元気になり過ぎてしまったような気もする。

 夜が心配だ。

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