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第二十七話 彼女のダメな親父

 馬車に揺られながら、俺はこれから起こるであろう事態の事を考える。

 恐らく、バレンタイン家の人間と会う事になるだろう。

 アイナとは会えるだろうか? それは分からない。

 バレンタイン家の場所に連れて行ってもらえるのは幸いだった。だが、今思ってみればグググールマップで探せばよかったのだと思い至る。

 やはり人間、焦っているとアイディアなど浮かばないのだ。

 ならば、ちょっとは落ち着いた今、何をすべきだろう。


 俺はスマホのアプリ一覧を参照する。

 見慣れたアプリでも、この世界では全く違う効果を発揮する事がある。

 体脂肪率を量るアプリで、ドッペルゲンガーの変身を見破ったり、とか。


 ブックマークした悪魔の項目を呼び出す。

 悪魔ダンタリオン。

 あらゆる学術に長け、人の思考を読み、自在に操る悪魔。幻覚の力もあり、男女の愛を燃え立たせたりも……って悪魔ってそんな奴ばっかりなんかい!!


 俺がくわっと表情を変えていたら、その顔が面白かったらしくてニナがぷーっと吹き出した。


「旦那なに百面相してんの! あはははははっ、おっかしー!」

「内面で何か世の中の理不尽に怒りを覚えたように見えますね」


 そんな俺達を、執事は無言で見ていた。


 馬車の窓から見える聖王国の風景は殺風景だ。

 土地的にはディアスポラほどではないが、温帯に位置する気候。かと言って海は遠く、内陸性の気候は歓談の差が激しい。乾燥していて、青々と葉を茂らせた木が少ない。

 聖王国は灰色の印象だった。

 到着したバレンタイン準男爵家も、寒々しい印象を受ける作りの家だった。

 それなりに一般の家よりは豪勢なものの、ディアスポラの傭兵ギルド本部に比べたら小屋、というのは言い過ぎだろうか。


「バレンタイン準男爵家。先代までは男爵家だったのですが、当代の当主が政争で敗れ、没落してしまったと聞いていますね」


 さすがセレーネ、詳しい。

 執事のいる前でそういうネガな情報をサラッと流す辺り流石である。


 俺達は屋敷に通される。

 兵士達がいるが、数は多くなかった。

 アイナを迎えに来た兵士たちと、俺達の後ろにいる兵士たちで全員ではないだろうか?

 準男爵家が直接雇っているのだから、財政的に困窮すればそれほどの多くの人数は置いておけまい。


「なんだか緊張しますね」


 セレーネがひっきりなしに、メガネの位置を直している。

 あちらの世界で見た古いベテラン芸人のようだ。

 ニナは緊張など全くしていないらしく、出されたお茶をふうふう吹き冷ましながら飲み、盛られたお菓子をむしゃむしゃ食べている。

 ニナはいつもお子様パワー前回で和むなあ。

 俺が頭をなでなですると、ニナは腕を振り回して猛抗議した。

 なんか、クリスがうらやましそうに見ている。


「く、クリスも撫でるか?」

「は、はい、お願いしますう!」


 ぎゅっと両の拳を握り締めてクリス。そんな気合入れることじゃないだろう。

 俺はそっと、彼女の金色の髪に手を載せて優しく撫でた。


「…………」


 クリスが嬉しそうにニコニコする。


「セブン様陥落も時間の問題ですかね」

「なんだ、クリスは旦那狙ってるのか?」


 そこ、聞こえる声でボソボソ言うなよ。


 さて、ここで俺が今回起動させてるアプリを軽く説明。

 まず、嘘発見アプリ。マイク機能がついていて、拾った相手の音声の揺れで真偽を判定する。この世界だと、魔力による強制力で嘘となってしまった場合も含むから便利である。

 そして太鼓アプリ。特に意味はないのだが、ドンドコドーンと太鼓の音を鳴らしてくれる。

 これをリンクさせて使用するのだ。


 一時間ほど待った後、ついにご当主登場である。

 彼は、アイナと同じ赤毛の男で、髭を生やしていた。体格はあまりよろしくないから、威厳をつけるためだろうか。


「待たせてしまったようだな、賢者殿」


 おっ、なんかいきなり上から目線だぞ!!

 俺は今現在、聖王女の客賓扱いでしかなく、無役である。

 なのて、立場としては平民と同じで、聖王女の後ろ盾があるので下手に手を出されない程度の立場だ。

 だからと言って露骨じゃないか。


「私はバレンタイン家の党首、ギリアムだ。本日賢者殿を呼びたてたのは他でも無い。我が娘、アイナの婚礼の儀に参加してもらおうと思ってな」

「婚礼の、儀、ですか」


 俺はどもらぬよう、意識してゆっくり喋る。

 深呼吸だ。落ち着いて話せ。こんな奴に呑まれる気は無い。


「然様。この度、目出度くも我が娘アイナは、ラスベリアのトリオン公爵家に見初められて両家の間で婚姻を結ぶ事となった。元から決まっていた話ではあるが、その間にアイナの世話をしてくれた賢者殿には是非参加して欲しいと思ってな」


『ウソダ!』ドンドコドーン


 ギリアムがギョッとした顔をする。

 うむ、元から決まっていた話、というところに反応したな。


「決まったのはつい最近ですよね? 私は王宮の学術院と魔術院に出入りしておりますが、そのような大きな婚礼の話は聞いた事がございません」


 セレーネが強気で押す。

 ギリアム、ちょっとたじろいだ。


「う、うむ、勘違いであった。つい先頃、ラスベリアからトリオン公爵家の方々がお越しになられてな。アイナを見初めたので結婚したいと言って来たのだ。アイナもいたく公爵様を気に入っている様子」


『ウソダ!』ドンドコドーン


 またもギリアムが目を見開いた。

 うむ、今度はアイナが公爵を気に入っているところだったな。それはそうだ。

 アイナは公爵と会ったことも無ければ、公爵がアイナを見初めるタイミングだって無かったんじゃないか?

 少なくともアイナは最初、聖王女の軍勢に追随していたはずだ。

 いやあ、このアプリいい仕事するわ。


「アイナはセブンの旦那を気に入ってるんだよ! その証拠に、アイナもセブンの旦那も、お揃いの約束の指輪をしてるじゃんか!」


 ギリアムは俺の指先を見て、苦々しげに眉をひそめた。


「そ、そのような安物の指輪など幾らでも同じものがある……!」

「込められた魔力を鑑定していただければ分かるはずです。約束の指輪はペアでひとつ。互いの指輪間で同じ約束を魔力という形で込めてあります!」

「う、うぬぬ」


 こいつは恐らく、俺の事を頭から侮ってかかっているのだろう。

 確かに俺の見た目は貧相だし、外見からじゃ聖王女達が持ち上げている賢者には見えまい。

 だがな、バカにバカにされるほど情けない奴じゃないつもりだ。


「ま、まあ賢者殿さえ来てくれれば顔も立つ……」


『ウソダ!』ドンドコドーン


「セブン様の出席に合わせて、セブン様の朋友であるジャスティーン様や、あわよくばアイオン様、そして聖王女様までの出席を目論んでいるのではありませんか!」


 やだ、セレーネかっこいい。

 惚れそう。

 っていうかセレーネ、君こういうの好きだろう。お芝居とか。

 その後、ギリアムの言葉を、片っ端から俺はアプリで『ウソダ!』ドンドコドーンしまくった。

 終いにはギリアムは激怒して、その無礼な音をやめろと言って来たが構うものか。

 こいつ、嘘しか言いやがらねえ。


「俺達は、アイナに、会いたい」

「ここにはおらん!!」


 ………。

 これは本当のようだ。

 嫁入り前の娘をどこにやっているというんだ!?

 いや、嫁入りなんてさせる気は無い!


「どこにいる」

「知らん!!」


『ウソダ!』ドンドコドーン


「どこだ」

「だから知らんと」


『ウソダ!』ドンドコドーン


「どこだ」

「だ」


『ウソダ!』ドンドコドーン


「むきいー!! 衛兵! 衛兵! この無礼者をつまみ出せ!!」

「ダン、公爵の、宿か」

「……!? ち、ちが」


『ウソダ!』ドンドコドーン


 最早ここにいる意味は無い。

 俺達は兵士達がやってくる前に、バレンタイン準男爵家を後にしたのである。

 執事が最後に、


「アイナ様のことをお願いいたします」


 と言っていたので、俺は……急に言われて言葉が出てこなくてちょっとパニクッたので、何回か小刻みに頷いておいた。


「旦那かっこわるい!」


 うるせえ。

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