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第二十五話 結婚するって本当ですか

 俺達は一路、聖王国エルベリアを目指す。

 ディアスポラから一歩も外に出なかったから気付かなかったが、ここって砂漠の中の国だったんだな。

 巨大なオアシスが存在していて、それがディアスポラと一体化しているのだ。

 砂漠だと言う割りに夜間が寒くなかったのは、岩石砂漠だからだろう。ディアスポラに近づくほど、サボテン以外にも植物が増えてきて、オアシス付近はちょっとした熱帯雨林の様相を呈していた。


 ぱかぽことラクダに揺られて旅をする。

 岩石砂漠というのはいいな。

 トイレ代わりにその辺でする時、障害物がたくさんある。

 セレーネとかクリスはまだ屋外でやるのに抵抗が強いようだが、出るものは出るのだ。

 毎回戻ってくるたび、彼女たちは罪悪感を覚えた顔をしている。

 アイナを見ろ。

 あいつなんで出すものだーっと出して、すがすがしい顔で帰ってくるぞ!

 仮にも準男爵家の娘なのに、その極限環境への適応力はどうなんだと思うことも多いがな。


「我慢は体に良くないよ! セレーネもクリスもジャーッと出したほうがいいよ!」


 女の子が排出音をジャーッとか言っちゃいけません!

 まあこういう所も含めて、アイナはアイナなのであろう。

 そろそろ付き合いが二週間になろうとしているので、彼女のノリに大分馴染んで来た。

 最初の頃はもっと他人行儀だったのだが、今ではもう、俺の前でも平気で排泄に関するこだわりとかそう言う話をするな。

 まあ、俺も彼女には何度かパンツを履き替えさせてもらい、息子からお尻のアスタリスクまで見られているので何も恥ずかしがるような関係ではない。

 ディアスポラでは二日ばかり一緒に行動できなかったら、非常に動きづらかったしな。

 俺はアイナがいないと、どうやら一日で喋る量が十分の一くらいまで減る。


「セブン様あ、アイナさんをどうにかしてくださいー! もう、その、お花摘みの話をあんなにあけっぴろげにされたら、私どうしていいか分からなくなりますう」


 一番アイナの被害にあっているのはクリスのようだ。

 彼女達は何やら、俺を巡る三角関係を形作っており、事あるごとに俺の隣を取り合っている。

 結局俺の両脇に座る事になるのだが。

 かと言って仲が悪いわけではないようなんだが。


「そ、それは、まあ、俺も言っとくよ、うん」


 俺はどうにかそれだけ搾り出した。

 俺の返答を聞いて、ちょっとクリスが悲しそうな顔をする。すまんな。まだアイナみたいにすらすら話せないのだ。

 そもそも、この他人との会話能力が限りなくゼロである俺が、すらすら喋れるアイナという存在が稀有なのだ。あれは一種の異能だな。

 アイナはうちの四人娘の中で、あらゆるスペックがダントツで低いが、俺に関するコミュニケーション能力だけがカンストしてるんじゃないかと言う位高い。


「セブン様あ、私も、アイナさんみたいにもっとフランクに……ううん、なんでもないですう」


 うーむ。

 クリスをまた落ち込ませてしまった。どうしたらいいんだろう。

 そもそも女の子のあの表情は何を意味しているんだろう。

 対人関係の経験が皆無な俺には分からん。だがなんだか胸がちくちくするぞ。


「セブン様、あれは恋です」


 あっー! あなたは解説キャラのセレーネさん!


「私の理論では、クリスさんはセブン様に恋をしていますね。クリスさんは騎士爵家で厳しく育てられ、成人してからもセシリア様の護衛と言う女社会しか経験していませんから、男性への免疫が無いのです。そこへ来て、セブン様がダンジョンでクリスさんの実戦への苦手意識を無くすような優しい言葉をかけたから……これは恋に落ちますね。落ちないほうがおかしいです、うん」


 な、なんだってー!!


「おっ! 何を面白そうな話をしているのだセブン! 俺も混ぜろ!」


 ジャスティーンが顔を突っ込んできた。

 今は、聖王国ほど近く。砂漠と高原の境目である。

 ジャスティーン、そんななりして色恋沙汰の話が好きなのか……。


「まあ、事情は分かったが、クリスティーナはこのままでは、セブンと結婚はできんぞ。アイナも同じだ」


 な、な、なんだってー!!

 今、俺はちょっとショックを受けた。

 アイナもってあたりで一番ショックを受けたあたり、俺の中で彼女がかなり大きくなっているのを実感する。


「地位が違うからな。家が許さんだろう。セブンは偉大な賢者とは言え、地位も家柄も無いただの流れ者だからな。まあ女が欲しかったらそのまま連れ去ってしまえばいいのだ! がはは!!」


 よせよ蛮人。そんな蛮族思考に俺を誘うんじゃない!


「う、ううん。そ、そうなのか」

「セブン様と同行する前のお二人だったら結婚も可能だったでしょうね。ですけれど、セブン様はアスタロトの挑戦を受け、それを正面から突破されました。さらに、勇者エドガーを復活させて、ディアスポラを襲った悪魔との戦いでも活躍をしていらっしゃいます。このセブン様と同行したという事実が大事なのです」

「事実、が」


 俺は繰り返した。

 俺が彼女達と一緒に活躍した事で、彼女達は俺の手が届かなくなってしまったという事だろうか。


「はい。クリスさんとアイナさんは、既にブランド力を得てしまったんです。大きな事件を潜り抜けた経歴を持つ女性は、それだけで家の爵位以上の価値があります。彼女達の家としても、お二人を活用して家の発言力を上げたいでしょう」

「つま、り、政略結婚?」

「はい、貴族の娘はそうなる宿命です。ちなみに私は学者といえど平民の出なのでフリーです」


 セレーネは何をアピールして来ているんだね。

 しかし、参った。

 ガーンだな。出端をくじかれた。


「全く貴族どもにも困ったものだな。たかだか第十三次人魔大戦から百年そこらの平和な期間に過ぎんと言うのに、それが永遠に続くのだと思っている。だから奴らは権力闘争などという馬鹿なことをするのだ」


 ジャスティーンは実に腹立たしげである。

 実戦に身をおき、実際に悪魔の脅威と真っ向からぶつかってきた勇者ジャスティーン。

 彼の言葉こそが、この世界の真実に近いのであろう。

 俺もグレートホーリーで見てきた文献から、この世界がどうやら非常に歪な構造を抱えていることは予測している。

 それにこの間夢で見たような、アスタロトの言葉。

 人間は悪魔に従っている方が生き残ることが出来る、というような。

 気になる。


「ど、どうしようか」


 俺は考えがまとまらず、呟いた。

 すると、セレーネの目がキュピーンと輝いて見えた。


「略奪愛しか無いでしょう!!」


 むふーっと鼻息も荒く、彼女は宣言する。

 それってジャスティーンと同じ意見じゃねえか!?


「それとも、セブン様は爵位が欲しいんですか? 爵位があればお二人を娶れますけれど、責任も増えますし、貴族同士のいざこざや、どろどろした権力争いに巻き込まれますよ?」

「ひいいいいい」


 そ、それは絶対にいやだあああ。

 人と関わらざるを得ない環境など地獄でしかない。しかも権力闘争!! そんな意味の無いものしたくない!


「おっ! 何話してるんですか!」


 そこへアイナがやってきたので、この話はここで終わりとなった。

 俺は現実逃避するように、アイナと下らない話をだべっていたのだが。




 聖王国に到着して直後、俺は凄まじい衝撃に見舞われることになる。

 もう、俺を歓待する王宮や、聖王女の言葉なんて耳に入ってこなかった。


「アイナお嬢様の式の日取りが決まっております」


 バレンタイン家の執事からそう言われて、俺の頭は真っ白になる。


「お相手は、都市国家ラスベリアから来られた公爵、ダン・トリオン様でございます。セブン様に置かれましては、是非ご出席なされますよう」

「はい?」

「はい?」


 俺とアイナが声を合わせて首をかしげ……。


「いやあああああああああ私はセブン様といるのおおおおおお!!」

「我侭を仰られるなアイナ様! これは大変良いご縁談なのですよ! 準男爵家から公爵家へ嫁ぐなんて、なんと誇らしいことなのでしょう!」


 やってきたバレンタイン家の家臣達、兵士達に囲まれて、俺と彼女は離れ離れになってしまった。


 ……ご冗談でしょう?

 真っ白になって佇む俺に、セレーネが沈痛な面持ちで首を横に振って見せた。


 ふっと、俺の意識は遠ざかっていった。


「セブン様あ!!」

「セブンの旦那ー!」


 クリスとニナの声を遠くに聞きながら、俺は衝撃のあまり履き替えの必要を生じたパンツと、そのパンツを履き替えさせてくれる人の不在を思った。

あの子を取り戻せ! 的な。

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