第十六話 危険な色仕掛け(でもちょっと嬉しい)
俺が目を覚ますと、まだ周囲は暗いままだった。
この世界の夜は、魔法による明かりか、油を使ったランプくらいしかない。
どちらも貴重なものだから、王宮や貴族の家以外では、日が暮れると寝てしまう。
流石に王宮、半開きになった扉の外はまだ明々とランプが灯っていた。
だから、俺の顔を覗き込む三人の姿も見えたわけだ。
右手、左手、そして胴体。
それぞれを、彼女達が抱き止めて動けなくしている。
右にはセレーネ。うむ、やっぱり細身なのに、出るところは出ているから心地いいね。
左にはクリス。これはもう、ふわふわの暴力である。ウエスト周りとか本人は気にしているようだが、そう言うところも含めて実にいい。
そして真上のアイナ。発展途上だが、未来を感じさせる。それ以上に、彼女が抱きつく感触はかなり慣れ親しんできた気がする。
俺もちょっとはリア充に近づけたかな。ふふっ。
じゃねえよ!!
これ異常だろ、異常事態だろ!?
三人とも顔を真っ赤にして、それでもトロンとした表情に笑みを浮かべて俺にしなだれかかってきている。
男としては大変嬉しい状況だし、ダンジョン攻略を通じて、彼女たちとも少しずつ絆みたいなものが出来てきたと自負もしている。
だけど、これはどうだ。
早すぎるだろ!
おじさん、若い子の感覚についていけないよ!
とにかく、違和感が凄い。
アイナはともかく、クリスとセレーネはこういう事をしそうにないし、するとすればニナがいないのはおかしい。
これは男としても思わず篭絡されたくなるような、素敵な色仕掛けだ。
だが、未だ恥ずかしながら異性との経験ゼロな俺にとっては、現実感が無さ過ぎる。
ゆえに、俺の息子は俺の二つ名同様、賢者だった。
万魔の賢者セブンを舐めるなよ!
「あああああああああああああ!」
とりあえず俺は声を出して暴れた。幸い、右手を拘束するセレーネと上に乗っかったアイナは貧弱だ。
「きゃあ」
「きゃっ」
声をあげて跳ね飛ばされてしまう。
すまんな。
俺は心の中で謝ると、左手をクリスの胸元から引っこ抜こうと格闘しつつ、右手だけでスマホを起動した。
ムム、何か新しいアプリをダウンロードしている。
この状況を脱するための一助となるだろうか。
『ダウンロードが終了しました』
おお、なんだろう。
『四十八手アプリをダウンロードしました』
ばかやろう!!
違う、そうじゃない。
俺はなんとかクリスから左手を抜き取ると、スマホを握り締めてベッドから飛び出した。
裸足で床をぺたぺた走る。
「セブン様……」
「セブン様あ……」
「セブン様っ……」
三人が追いかけてくる。
怖い! もうエロいんじゃなくて怖い! ゾンビみたいだ!
必死に部屋を抜け出すと、扉を後ろ手に締めた。
どんどんと、俺の名を呼びながら扉を叩く音がする。
俺は冷や汗を拭いながら一息。
「いやあ、大変だったねセブン」
心臓が止まるかと思った。
「あ、あ、あ、あ、エドガー、いき、いきなりっ……」
「悪い悪い。見ものだったんでなあ。おいらは邪魔かと思ってここで事が終わるまで待ってたんだ。あれは事故みたいなもんじゃないか? 悪魔の力を受けて、燻ってたもんが外に出ちゃったんだなあ」
エドガーは、この事態の原因に気付いているようだ。
「ど、どういう? 悪魔……?」
「そう。どうやらディアスポラ王宮にも悪魔が入り込んでる。そんでもって、そいつがこのピンク色の空気を流してるって事さ。悪魔には案外多いんだよ、男女の性欲を操るような連中が」
それを聞いて、俺は例によって魔力検知アプリを作動させ、この魔力に符合する悪魔がいないか検索する。
結果は候補が数名。
ゼパルまで入っているが、ゼパルは今日倒している。
だとすると、グレモリーか、フールフール。どちらも女の悪魔だ。
「その悪魔はあんたの事を知ってるらしいね、セブン。だが、直接的な攻撃に来ないって事は様子見の挨拶ってことだ。そして、やってこない理由は簡単、おいらがいるからさ」
だろうなあ。
昼間のエドガーの戦いを思い返す。
あの悪魔騎士ゼパルを圧倒していたもんな。
とりあえず、彼女たちの洗脳を解かねばなるまい。
”洗脳 解き方”でググる。
洗脳のパターンが幾つか出てきている。
特殊な音波や、視覚情報、そしてフェロモン。
エドガーはピンク色の空気を流しているって言っていたから、フェロモンの類かもしれない。
「え、エドガー、な、なにか、匂いが強い、ものを」
「お? なんか思いついたのかい? いいぜ、持って来てやるよ」
エドガーはすぐに帰って来た。
手にしているのは、今日食べたケバブのソースである。
時間が経ったせいか、ちょっと酸っぱい匂いが強くなっている。
俺はそいつを受け取ると、意を決して扉を開けた。
エロスなゾンビとなった三人が雪崩れて来る。すげえ! 裸の女が怖い!
俺は無我夢中で、手にした容器から、ケバブソースを振りまいた。
匂いの強いソースが三人に降りかかり……。
動きが止まった。
やがて、彼女たちは頭を振りながら唸り始める。
「ううー、な、なんなんですかこのにおいはー。臭いー!」
「あううう、べたべたしますう」
「きゃああ、メガネにかかりました!」
よし、正気に戻ったみたいだ。
俺は安心する。
そこで出てくる問題が、彼女達が素っ裸である事だ。
正気に戻った三人は、自らの格好に気付くと、さきほどよりも真っ赤に頬の色を染め、何か叫びながら体を隠してうずくまってしまった。
こうだよ。
女の子の反応とはかくあるべきだ。
俺は不思議な満足感を覚えつつ、体を拭くものを用意していた。
すると、背後から声がする。
「おー? セブンの旦那なにしてんの? トイレこっち?」
ニナである。
彼女は寝巻き姿でこちらまでやってくると、俺達が描き出した光景を見て硬直した。
「ああああ、だ、旦那が酒池肉林してるうううううう!! 肉欲の宴だあああああ」
「ちちちち、ちが、違うっ!!」
だが、俺の言い訳も間に合わず、ニナはショックから見事にパンツを替えなければいけない羽目になったのである。
何故俺も彼女たちも下が緩いんだろう……。




