第16話
待つこと30分弱。
「そろそろ行くか、手袋をはめろ」
無線から指示が来た。
リンは綺麗なフォームですたっと着地する。
そういえば、リンって猫又だったな。
あたしは飛び降りるなんてムリなので、そろそろと木から降りる。
神白君も一気に飛び降りてきた。
2人とも、運動神経よくて羨ましい。
そんなことを考えていると、
「木から降りるだけでそんな様か。お前、スパイに向いてないんじゃないか」
ふっと鼻で笑われた、気がした。
ブチッ!
頭の中で何かが切れた。
「あのさぁ、あたしの何が気に入らないの?あたし、あなたに何かした?」
いつも心の奥に溜め込んでいたものが、溢れ出てくる。
「華音、任務中だよ……」
リンが制止に入ったけど、あたしの口は止まらない。
「あたしだって努力してるよ。仕方がないでしょ、つい最近まで人間だったんだもん。力のコントロールすらまだ上手く出来ない。体だってみんなみたいに動かない。なんでいつも冷たい目で睨まれなくちゃならないの?もう訳分かんない!」
言いたかった思いをすべてぶちまけた。
2人は、呆然とした顔をしている。
「え、何?華音は……人間だった?」
リンの一言にはっと我に返る。
しまった!
口を滑らせたことに今更気が付いた。
「華音は赤城の姫様で、人間でヴァンパイアで……」
リンはパニック状態。
どうしよう。
一瞬、誤魔化そうかと思った。
でも、もう遅かった。
リンが徐々に落ち着きを取り戻してしまった。
「つまり、華音は人とのハーフってことで……」
「ストップ」
リンに気を取られていて、すっかり彼の存在を忘れていた。
「赤城、さっきの発言は言い過ぎた。悪かった。謝罪する。」
そう言って頭を下げた。
顔を上げた彼の顔の表情は、とても悲しそうだった。
「俺が空気を乱したが、今は任務中だ。続行するぞ」
「……。分かった。あたしも言い過ぎた」
そしてそのまま建物の入り口に向かう。
リンは黙ってついてきた。
「監視カメラは……無いな。本当にこの会社のセキュリティーはザルだな」
神白君は端末を見ながら言い切った。
監視カメラからは赤外線が出ているため、端末のカメラ越しで部屋を探索すれば、有るか無いかは簡単に分かる。
現在は2階の社長室を探索中。
ここまで来るのに、一階入り口のカギを1つ、社長室のカギを1つ開けただけだった。
任務の資料の通りで、あまり防犯に力を入れていないようだ。
「鈴宮、盗聴器の回収を」
「分かった」
リンは机の横に積んであった段ボールの中から、一つの小包を選び出した。
「多分これだと思う」
端末をかざすと、ピカピカと画面が点滅した。
「よし!ビンゴ」
小包を裏返して、何かを引っ張り出す。
箱の隙間から薄くて小さい茶色何かが出てきた。
「盗聴器のマイクだ。こういう小道具は支援班が先に仕込んでおいてくれる」
今度は丁寧に教えてくれた。
「さあ、手分けして裏帳簿を探すぞ」
「あった。金庫!」
リンが社長机の横の棚から金庫を見つけた。
「じゃあ開けるよ」
そう言うと、
ボンッ!
グレーの耳と2本の尻尾が出てきた。
ふさふさの耳を金庫に当て、ダイヤルを回していく。
「こうして、ああして……出来た。あとはピッキング」
錠もすぐに開けてしまった。
「開いた!……あれ?」
出てきたのは通帳と印鑑、現金が100万円ほど。
目当ての裏帳簿は見つからない。
「ありゃ。神白くん、そっちは?」
社長机を漁っていた神白君も首を振る。
「パソコンをスキャンしたが、データはない。机の中から帳簿は何冊か出てきたが……。どうだろうか。まさかこんな分かりやすい所に置くわけないから、多分普通の帳簿だ。」
「うーん。何となくだけどね、このノートからは人間の執念?が感じられないかな。裏帳簿って、お金に執着した人が作るでしょ」
「……根拠は?」
「ない!」
ニャハハとリンが笑う。
「野生のカン」
「そうか。そっちはどうだ」
「だめ。無い」
あたしは本棚を探っていたが、それらしいものはない。
「仕方がない。3階の倉庫に行くぞ」
「鈴宮、どうだ?」
リンは段ボールの間を行ったり来たり……
「んーと、えーっと……」
ピーン!
耳と尻尾が立った。
「こっち!」
ずんずんと段ボールの山を奥へ奥へと進んでいく。
「この辺!」
よく見ると、一つの段ボールだけ蓋のふちが丸くなっている。
「この段ボールだけよく触っている証拠だ。探すぞ」
神白君が書類の山の中に手を入れてゴソゴソすると……
「あった!」
表紙に何も書かれていないノートが出てきた。
開くと、
「3/20 S +2000000」
のような、アルファベットと数字だけがずらりと並んでいる。
「よし、これだ。写真撮ってさっさと帰るぞ」
端末のカメラで1ページずつ写していく。
やっぱりあたしは役に立たなかったな。
悔しい思いが胸をよぎる。
だからと言ってすることもないので、段ボールの間を歩いている。
それにしても古い建物だな。
建物の表面と現在使われている1,2階部分はリフォームしてあるが、この階だけはボロボロのコンクリートがむき出しになっている。
「終わったぞ。よし、箱に戻して……。赤城、どこだ?」
「今行く!」
ぱっと一歩踏み出した瞬間、
足元から青い光が出た。
円が一気に広がる。
「なに?これ……」
よく見ると、文字のようなものが外側に向かって何本も引かれている。
文字がゆるゆると動き出した。
「まずい……。赤城、離れろ!」
「痛い!!」
両足に激痛が走る。
神白君の忠告は間に合わなかった。




