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「うん!」


取り柄もない無だと思っていた自分が、必要とされ、感謝の言葉を受ける。

その言葉は生まれてきたなかで一番嬉しかった。


「…と、これ以上話してると野宿になっちまうな」


取り繕った様子で視線を外し、会話を切り替える。

名残惜しさをいつまでも感じているままでは、いつまで経っても足は動かない。


「やっぱり…行っちゃうんだよね…」


「ああ。もう少しのんびりしていたかったんだが、生憎仕事が入ったようなモンでな」


影を落としたような沈んだ表情を浮かべ、明らかな落胆という二文字が、垂れ下がった肩から伺えた。

そんな顔はやはり見たくないのか、アシェスは目蓋を降ろし、視線を遮断した。


「世話になった。お前も頑張…れよ」


アシェスはゆっくりと背を向けて、関所の方角へと歩を進める。

しかし、ぴたり、と一旦足を止め、首だけを捻るようにして背後を向く。

俯いて沈んだ佇まいを映すスフィアを横目に、アシェス思い出したようにズボンのポケットに手を突っ込む。

その中にはひんやりとした小さな塊があった。

それを掴む。


「そうそう、スフィア。これやるよ」


「…え?」


呼ばれたことで我に返ったような惚けた顔を見せるスフィア。

アシェスは手の中にあった物を、そんな彼女に向けて投げ放った。

小さな金属の欠片が宙を舞い、スフィアの手のひらに納まった。


「え…これ…」


受け取ったのは海の色を放つブローチだった。

想定外の出来事だったのか、慌てふためいた様子でアシェスとブローチを交互に見ている。

そんなスフィアに一言、


「心配すんな、もう呪いなんざ掛かっちゃいねぇからよ」


と、くだらない冗談を含めたことを言った。


「えぇっ!のののの…呪いって…?うひゃぁ~!」


真に受けたのか、噛んだような言葉を発しながら驚く彼女の姿を眺め、アシェスはおかしくて笑った。


「はははっ。またな、スフィア」


片手を大きく天に向けて掲げ、何度も振った。

スフィアはゆっくりと離れてゆく背中を眺めながら、優しげに満ちた表情を浮かべ言葉を返す。


「うん…また…ね!」


もう泣くことはない。

スフィアはその大きな背中が見えなくなるまで、その場でずっと見つめていた。










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