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―――料亭フォーザ


魔獣襲撃事件から十日程も経ち、街には活気が戻っていた。

破壊された住居や店もあったが、それほど被害もなく王宮から派遣された人材により修復作業をしているのが目立つ。

フォーザの店も例外ではなかった。

とはいえここもそれほど被害があったわけでなく、一部の壁に穴が開いたくらいだった。

それだけに店主はそれを放置している。

なぜなら、以前よりも増して客が増えていたのだ。だから休んでいる暇などなかった。


「いらっしゃい!」


持ち前の愛敬のある髭面で笑みを繕い、扉のベルの音と共に叫ぶ。

商売繁盛、フォーザは満足と言わんばかりに胸中で微笑んでいた。

たった一人で営む店。

忙しさに目が回りながらも、汗だくで料理を作り、運んでゆく。

時折手が空けば何やら客と会話し、表情は自慢というものが滲み出ている。

何かを雄弁に語っているよう。

しかしなぜ急に客足が増したというのだろうか?

入り口に立て掛けてあった、あからさまに怪しい看板に目が行く。

答えはそんな身近なところに用意されていた。

看板には呆れるくらいな文字が書き込まれていたのだ。


『ローウェンスを救った男!アシェス・ウィントンご用達の店!』


何の捻りもなく有体のまま羅列された文字。いわば幼稚。

もう少し言葉くらい選べよ…と、鬱になった頭を抱えるようにアシェスはその場で肩を落としていた。


「しかしねぇ…まさかあんな目付きの悪い男が、そんな大それたことをやらかすとは…」


「人は見かけによらないってことですな。まあ…あの男が粗暴なのは、照れ隠しみたいなモノですからねぇ。私にはわかってたんですよ」


ごきん!


「うがっ!」


フォーザの頭を金属の塊のようなものが直撃する。

客足が多く騒がしい店内では聞こえなかった音だが、当てられた当人にとっては脳が揺らぐ程の衝撃。

一瞬何が起こったかわからず辺りを見回すが、結局誰が何をやったのかはわからなかった。

会話していた客は目を丸くして驚いた様子をしていたが、フォーザの頭を直撃したと思われるモノをすぐさま床から拾いあげた。


「おや、何か貼りつけてあるな。…ツケ…代?なんでしょ、コレ?」


それをフォーザの眼下に持ち上げると、麻袋に包まれた袋からは硬貨の擦れた音が響く。

表面には汚らしい文字で書き殴ったように『ツケ代』とだけ書かれていた。

フォーザはそれだけで感付く。

一息吐くような軽い笑いを洩らした。


「ふっ…そうか、行っちまうんだな」


「え?いったいそれはどういう…」


フォーザは客の言葉を無視し、無人の出入口に目を向けた。


「まったく…最後まで素直じゃない奴だよ…」


客から硬貨の詰まった袋を受け取る。


(今度また…戻ってくるようなことがあったら、とっときのものを食わせてやるからな)


フォーザは興味がない様子で、麻袋をカウンター内に投げ捨て、アシェスがいつも座っていたお決まりの座席を見つめた。


(またな、アシェス)

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