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深夜一時。
種馬ズ楽屋。
ライブ後。
全員疲れていた。
ドームツアー。
番宣。
映画。
ドラマ。
CM。
雑誌。
配信。
全部重なっている。
しかも最近は、
『勝ち馬が憎い』八十万突破でさらに仕事が増えた。
スタッフですら死にかけている。
だから。
最初は。
本当にただの雑談だった。
ハルがソファでゴロゴロしながら言った。
「ねぇ〜」
「ん〜?」
黒崎が水を飲む。
「種馬ズっていつまでやるんだろうね」
静止。
空気。
少し止まる。
神谷が顔を上げる。
レイはスマホで自分のグッズ市場を見ていた。
「のだぁ?」
ハルは悪気なく続ける。
「だって今すごいじゃん」
「まあな」
黒崎も苦笑。
「ドーム埋めてるし」
「うん」
「でもさ〜」
ハルは天井を見た。
「いつか解散するのかなぁって」
その瞬間。
レイ。
「解散!?」
大声。
「のだぁ!?」
黒崎。
「声でかい」
だが。
少しだけ空気が変わった。
アイドル。
解散。
避けられない話題。
しかも。
今の種馬ズ。
完全に国民的人気。
つまり。
“いつ終わるか”を周囲が気にし始める時期でもある。
神谷が静かに言う。
「……ずっとは無理だと思う」
現実的。
黒崎も頷く。
「まあなぁ」
レイ。
「のだぁ……」
少し真顔。
実際。
最近。
芸能界上層でも、
「種馬ズをどこまで続けるか」
みたいな話は出始めていた。
若い。
売れてる。
だからこそ。
“ピークで終わるか問題”。
そして。
レイが言った。
「吾輩ぁ」
「うん」
「四十歳で“飼い主ぉ♡”は嫌なのだぁ」
静止。
数秒。
ハル。
吹き出す。
黒崎も笑った。
神谷ですら少し口元が動く。
「確かに」
「絵面終わってる」
レイは真顔。
「怖いのだぁ」
「そこだけ冷静だなお前」
実際。
四十代種馬ズ。
かなりキツい。
しかも。
曲。
『勝ち馬が憎い』
『愛しの人参』
『種馬も辛い』
どう転んでも生活感がある。
「のだぁ……」
レイは遠い目。
「吾輩、将来は高級マンションでダラダラしたいのだぁ」
「夢が俗」
「働きたくないのだぁ」
黒崎は少し考えた。
「俺は……」
全員見る。
黒崎。
少し笑う。
「三十五くらいかな」
「おお〜」
「そのくらいまでやれたら十分かなって」
現実的。
かなり現実的。
ハルは即反応。
「えぇーーー!」
「長い方だぞ普通」
「でも寂しい!」
黒崎は苦笑する。
「まあな」
神谷は静かに言った。
「……俺は途中で消えてそう」
「怖いこと言うな」
「なんか山奥住んでそう」
「ちょっと分かる」
神谷。
本気でありそうだった。
観葉植物と猫だけの生活。
普通にやりそう。
その時。
レイ。
急に真顔。
「……のだぁ」
「何」
「解散したらぁ」
「うん」
「グッズ市場どうなるのだぁ?」
「お前本当に最後までそれかよ!!」
楽屋爆笑。
だが。
その発言。
妙にリアルだった。
実際。
国民的アイドル解散。
市場。
めちゃくちゃ動く。
プレミア。
伝説化。
価格高騰。
レイ。
少し興奮。
「解散商法なのだぁ♡」
「最低」
「限定グッズなのだぁ♡」
「お前だけ最後まで俗物だな」
レイは真顔。
「芸能界は資本主義なのだぁ」
その時。
楽屋外。
スタッフ。
静止していた。
「……今」
「うん」
「解散って聞こえた?」
空気凍結。
数秒後。
地獄。
「えっ!?」
「マジ!?」
「まだ早い早い!!」
「スポンサーどうすんの!?」
「ドームツアー!?」
「CM契約!?」
芸能界。
大騒ぎ。
何故なら。
今の種馬ズ。
経済効果がデカすぎる。
テレビ局。
スポンサー。
配信。
ライブ。
グッズ。
全部が種馬ズ前提で動いている。
解散などされたら困る。
めちゃくちゃ困る。
しかも。
業界は知っている。
人気グループほど、
ある日突然終わる。
だから怖い。
そして。
数時間後。
なぜか。
社長室。
種馬ズ全員集合。
社長。
真顔。
「お前ら解散すんの?」
「のだぁ!?」
レイ、
秒速否定。
「まだなのだぁ!!!」
「まだって何だよ」
黒崎が頭抱える。
ハル。
「雑談だよぉ!」
神谷。
「……別に決まってない」
社長は腕組み。
かなり真顔。
「冗談でもやめろ」
珍しく重い。
「今、お前らで何百人食ってると思ってんだ」
静止。
現実。
アイドルグループ。
売れれば売れるほど、
背負う人間が増える。
スタッフ。
スポンサー。
テレビ局。
イベント会社。
制作。
全部。
社長はため息をついた。
「まあでも」
少し笑う。
「終わる時は来るけどな」
静かだった。
その瞬間だけ。
全員少し黙る。
今は売れている。
忙しい。
騒がしい。
でも。
永遠じゃない。
アイドルは特に。
だからこそ。
今が眩しい。
その時。
レイ。
ボソッ。
「……のだぁ」
「何」
「解散ライブの倍率やばそうなのだぁ♡」
「帰れ!!!!」
空気が全部壊れた。
黒崎は頭を抱え。
神谷は静かに笑い。
ハルは転げ回って笑っていた。
そして。
社長だけは腹を抱えていた。
「がっはっはっはっ!!」
結局。
このグループは、
最後までこんな感じなのかもしれなかった。




