エピローグ
半年後。
柚月は高層ビルの太い鉄骨の上に立ち、星のない夜空を見上げていた。
今宵は新月。
エモスが最も活性化し、魔法少女たちが眠らぬ夜を過ごす、特別な時だ。
柚月の足元に黒猫のノアが擦り寄ってきた。
柚月は無言でノアを抱き上げ、腕の中に収めた。
黒い毛並みを優しく撫でながら、眼下に広がる街を見下ろす。
「……ねぇ。あんたが最近、噂になってる“魔女”でしょ?」
背後から無遠慮な声が響いた。
柚月はゆっくりと振り返る。
闇の中で赤い衣装を纏った少女の姿が、ぼんやりと浮かび上がった。
少女は燃え盛る炎の剣を握りしめ、一歩ずつ柚月に近づいてくる。
「魔法少女を殺してまわってるんだって? どうしてそんなことをするの? あたしたちはこの世界を救うために戦ってるのに」
柚月は何も答えなかった。
その瞳に、温度はなかった。
少女は鼻を鳴らし、肩をすくめた。
「魔女なんかに訊いても無駄か」
ひんやりとした風が、二人の間を通り抜ける。
全く反応を示さない柚月に、少女の苛立ちが募っていく。
「……あたしの親友も、魔法少女だった。二人で協力してエモスを倒して、これからもずっと、一緒にいるんだって思ってた……あんたに殺されるまでは」
少女は顔を歪め、柚月をぎろりと睨みつけた。
「あんただけは、絶対に許さない!」
少女は剣を構えて、柚月に飛びかかる。
しかし、その一撃は柚月に届かなかった。
黒い盾が炎の剣を受け止めた瞬間、炎は勢いを増して、少女の全身に絡みついた。
「ぎゃああああっ!」
少女の絶叫が夜空に響き渡る。
それでも柚月は、ノアを抱いたまま、静かに佇んでいた。
少女の魔石が炎の熱で溶け、灰となって崩れ落ちるのを見送った後。
柚月は再び、眼下の街を見渡した。
エモスが徘徊し、濃い霧に包まれた街は、以前より荒廃していた。
だが、今はそれでいい。
強すぎる光を受け入れるためには、底知れぬ闇が必要になるのだと、ノアから教わった。
光と闇は表裏一体。
どちらかを完全に消し去ることなど、決してできない。
善と悪、両方あるからこそ、世界は絶妙なバランスで成り立っている。
だからこそ——
自分の信念に従って、行動するしかない。
何が正しくて、何が間違いなのか
その答えは、自分の心にあるのだから。
柚月はノアの黒い体を強く抱きしめ、目を細めた。
新月の夜は、まだ終わらない。




