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12 街歩き③


「あそこから奥は、行かない方がいい。あそこ以外でも、人通りの少ない細い路地は一人で行ったらダメだぞ」


 歩きながら、ユーゴさんが行ったらダメな場所を教えてくれる。身に染みてるから、絶対に行かないよ。


「あれが妹の店、ドーン屋だ」


 どれくらい歩いたのかは、あちこち見ながら喋りながらだったからちょっとわからかったけれど、T字路になっているところの角にそのお店はあった。グリーンに塗られた扉の前にお客さんが並んでいるのが見える。


「並んでますね」

「開店して間もないのに、えらく流行ってるみたいだな」

「開店して、そんなにたってないんですか?」

「ああ、半月ほどだ」


 近づいてみると、並んでいるのは六人だった。女性は一人だけで、あとは男の人だ。


「悪いけどパンジー、並ぶのつき合ってくれ。兄貴特権で割り込むわけにはいかないからさ」

「もちろんです」


 というわけで、列の最後に並んだ。お客さんが出て来た時に扉が開いて中が少しだけ見えたけど、そんなに広いお店ではなさそうだ。カウンター席とテーブル席があるのがちらっと見えたよ。あの座席の配置はもしかして、コマドリ亭の食堂と一緒なんじゃないかな。


「妹さんと旦那さんのお二人だけでやってるんですか?」

「ああ、いずれは人を雇って夜営業もするつもりらしいけど、今は二人で昼だけやってるんだ」

「それでこの人気なのは、すごいですね」

「コメを出す店は、少ないからな。うちは親父が好きだから昼飯は大抵コメ料理だけど、そんな宿はうちくらいだしな」

「え、そうだったんだ」


 この世界に来て最初に食べたご飯が照り焼き丼だったから、ポピュラーなものなのだと思っていた。そうか、珍しいんだ。ということは私って、本当にラッキーだったんだね。


「そういやパンジー、昨日の昼にテリヤキドーンを食ったんだって? 初めての客はコメ料理を出すとおどろく人が多いのに、平気で食べてたってお袋が言ってたぞ」


 平気というか、実際は泣きながら食べてたんだけどね。リタかあさんとマルロとうさん、私が泣いたことは言わないでくれたのかな。


「実は、心の中では驚いてました。でも、街ではこういうのを食べるんだと思って、平気なふりをしていたんです」

「なんだ、そうだったのか」


 まあ、私が驚いたのはユーゴさんが思っているのとは違うけどね。まさか、異世界で照り焼き丼が出るとは思わないよ。


「コーヒーを置いてるとこもあまりない。王都では、そこそこ飲まれてるみたいだけどな。うちは王都からの商人がよく泊まるから置いてるけど、あまり出てない。だからパンジーのカフェオレには、本当におどろかされた」

「いつもミルクを入れて飲んでたから、特別な飲み方だなんて知らなかったです」

「苦いからミルクを入れてみたんだって? パンジーは、発想が豊かなんだな。うちの親父と話が合うかもな」

「マルロとうさんと?」

「とうさんって……パンジーは、そう呼んでるのか?」

「はい、リサかあさんがそう呼んだら喜ぶからって」

「そりゃ、喜ぶわ!」


 ユーゴさんが声をあげて笑う。体が大きいせいか実年齢より上に見えるユーゴさんだけど、こんな風に笑うとちょっと幼く見えるんだよね。ニ十二歳の男性に幼く見えるなんて言ったら失礼だから、絶対に言わないけど。


「みんながマルロとうさんて呼んでるんじゃないんですか?」

「お袋は、リタかあさんって呼ばれることが多いけど、親父は、マルロさんとか、親父さんとかだな」

「そうだったんだ……」


 そういえば、ノエさんも親父さんって言ってたね。でも私、まだ一度もマルロとうさんに向かってマルロ父さんって呼んだことなかったかも。接客はいつもリタかあさんだから、マルロ父さんとはまだそんなに喋っていないんだよね。


「親父、ベネディクトのファンなんだよ。食の冒険者のベネディクトだよ、リュシオン様から新しい料理の神託を授かるので有名な」

「へえ、そうなんだ」


 ベネディクトって、誰ぞ!?


 エッグベネディクト……って、違う違う。人名だよね。なんか知ってて当たり前の有名人みたいだから、ここは知っているふりをしておこう。

 しかし、リュシオン……料理の神託ってなに?


「ベネディクト、うちの宿の泊まってくれたことがあるんだ」

「え、すごい」

「だろ? その時に親父、ベネディクトから本を貰ったんだよ。それからリュシオン様の料理を再現するのにはまり出したんだ」

「へえ……」


 なんのことやら、さっぱりわからないんですけど! うー、知ってるふりするのは、ハラハラドキドキして疲れるよ。


「リュシオン様の神託料理では、ハンバーガーやピザ、あとは揚げ物やクレープなんかは随分と広まったけど、コメ料理はまだまだって感じだよな。まず、コメが手に入りにくいし」

「そうなんだぁー……」


 リュシオーン、色々と聞きたいことがありますよー。

 でもこの世界には、ハンバーガーとピザとクレープがあるみたいだ。揚げ物といえば、ポテトフライがあったよね。どうやらリュシオンがやらかしたせいっぽいけど、そこは素直に嬉しい。


「でもまあ、エシャールなら大抵の実は栽培できるからさ。特にうちはノエのおかげで、何を植えてもわんさか実るんだ。ノエの工房がうちの庭に面してるから、作業中に出る魔素が漏れるんだよ」

「……み?」

「ああ、コメの実も、コーヒーの実も植えてるぞ」

「へえ……」


 『み』って、何ぞ!?


 栽培ってことは、『実』なんだろうと思うけど。だけど、何も知らないことがバレてしまいそうで、迂闊に質問できない。マジカルディクショナリーで調べたらわかるかなぁ?

 それに、魔素が漏れるって……ノエさんの工房ってことは、魔道具を作ってるんだよね? 魔道具を作ると魔素が出るのかな。魔法を使った時に体の周りでキラキラするのが魔素なんだろうと思ってたんだけど。

 エシャールなら大抵の実は栽培できるっていうのもわからない……うー、あとで調べよう。


「あれ、お兄ちゃん?」

「よお」


 丼ものは食べやすいせいか、お客さんの回転が速いみたいだ。並び始めてからそんなにたっていないのい、お喋りしているうちに列が進んでお店の中に入れた。

 あ、やっぱりコマドリ亭の食堂に雰囲気が似ている。テーブル席はコマドリ亭より多いし、カウンターも長いけどね。違うところは、カウンターの向こうがそのまま厨房になっているから、料理を作っているところが見えているところだろうか。

 赤い髪をツンツンと立てている男の人がこちらに背を向けて調理をしていて、ユーゴさんやリタかあさんと同じココアブラウンの髪をシニヨンにしている女の人がカウンター越しに接客しているんだけど、ユーゴさんをお兄ちゃんと呼んだこの人がルシアさんだね。


「……って、え、嘘」

「何だよ」

「ちょ、ラルフ。見てよ、お兄ちゃんが女の子を連れてる!」


 ルシアさんが私たちを指さして大きな声を出したから、店中の視線が一気に集まった。後ろを向いていた男の人……ラルフさん? も振り向いて、驚いた顔をしている。


「彼女? お兄ちゃんにもついに彼女が出来たの!?」

「違うって」

「うん、違うだろうとは思ってた」

「おーい」


 ルシアさんのおどけた口調にお客さんたちがドッと笑った。ラルフさんがユーゴさんに、いらっしゃいと声をかけている。


「ハーフエルフなんだね、すっごい可愛い。どうぞこちらにお掛けくださいな」

「あ、ありがとうございます」


 なんだかなー、可愛いって言われるたびに微妙な気持ちになる。今のパンジーな顔は、私の顔なんだけど私の顔だという意識がないんだよ。いくら可愛いって言われても、うんうんパンジーは可愛いよね思っちゃう。自分が褒められた気がしないんだ。

 あいていたカウンター席にユーゴさんと並んで座った。ルシアさんとラルフさんが私たちの前に立って、にこにこしている。


「もしかして、コマドリ亭のお客さんかしら?」

「そうです、パンジーといいます」

「名前も可愛い! 私は、ユーゴの妹でルシアです。こっちは夫の、ラルフ」


 ラルフさんは、ニコッと笑ってくれた。この人もすごく優しそうだけど……えっと、高校生くらいに見えるんだけど、旦那さんなんだよね?


「あの……失礼でなければ、何歳か伺っても?」


 私、人の年齢をこんな風に聞くのは失礼な気がして前の世界では聞いたことがなかった。だけど、この世界では二度目だったりする。昨日、ユーゴさんとノエさんの歳を聞いちゃったんだよね。

 そして、ついまた聞いてしまったのはルシアさんとラルフさんがすごく若そうに見えたからだ。もしかしたら、私と同年代なんじゃないかな。結婚してるんだからもっと年上の人を想像していたのだけど。


「私もラルフも十七です」

「同い年だ」

「え、そうなの?」

「私、幼く見られるけど十七歳です」

「そうなんだ、お兄ちゃんが幼女趣味だったのかと疑っちゃったけど、よかったー」

「おい、ルシア」


 ルシアさんの明るい声に他のお客さんたちがクスクスと笑っている。いくら私が子供っぽくても、さすがに幼女には見えないだろうけどね。

 それよりも、やっぱり若かったよ! 十七歳で結婚って、この世界では普通なんだろうか。


「それで、何にする? ビーフドーンかポークドーンか、チキンのテリヤキドーンだよ」


 おお、三択なんだね。ビーフってことは、牛丼? ポークは、豚丼で、あとは昨日も食べた照り焼き丼だ。


「ビーフ丼で」

「ビーフドーンね、お兄ちゃんは?」

「俺もビーフドーン、大盛で」

「はーい」


 ラルフさんがササっと作って、ルシアさんが持ってきてくれた。ご飯の上にお肉をのせるだけだから早い、一緒に置かれたグラスの中身は水みたいだね。

 なるほど、メニューを絞ってるから二人でもやっていけるんだね。丼物は、ご飯を炊いて、お肉の準備さえしておけば、注文が入ってもすぐに出せるし。何も聞かれずにお水が出てきたということは、飲み物はきっと水一択だね。うん、すごくよく考えられていると思う。

 さて、見た目はお馴染みの牛丼だけど、味はどうかな?


「おいしい」

「よかった、お口に合って」


 少し甘いかなと思うけど、私は甘い方が好きだからおいしい。それに、やっぱりこの世界のお米はおいしいよ。


「よかったな、大繁盛じゃないか」

「うん、ホッとした。コメ料理が受け入れられるかどうか、賭けだったから」

「大丈夫だって言ったろ? うまいし安いし早い、絶対に流行るって」

「お兄ちゃんの言う通りだった、ありがとう」

「おう」


 このお店、この世界の牛丼屋一号店なのかな? もしかしたらこの先、チェーン店がいっぱいできちゃうのかも。私たちが食べている間にもお客さんが次々と入って来るもんね、本当に大繁盛だ。


「パンジー、仕事があるから悪いけどそうのんびりとはしていられないんだ。と言っても、まだもう少し時間があるから、この後は街を見ながらぶらぶらと歩いて帰ろうと思ってるんだけど、それでいいかな?」

「はい」

「距離があるから、疲れてたらまた辻馬車に乗るけど」

「平気です、ビーフ丼で元気でたから」

「お、気に入ったか?」

「おいしいです」


 お昼ご飯は、ユーゴさんがおごってくれた。悪いから払いますと言ったけれど、ルシアさんが「女の子に食事代を払わせるなんて男じゃないよね」なんて言いながら、ユーゴさんからお金を受け取ってしまったので、ごちそうさまでしたと頭をさげるしかなかった。

 ユーゴさんが優しいのはもう知っているけれど、ルシアさんは明るくて楽しくて優しい人だなと思った。同い年なら友達になって欲しいけど、どうかな?


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