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僕と×××。と香織の物語「特別編 林間学校から始まる×××。」  作者: なお。


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「身の安全を守るか…。この御守りとお札、ちゃんと効果あるんやろか? 神社とかで売ってる御守りとかお札と同じようにしか見えへんのやけどなぁ。てか、そもそも漫画みたいにホンマに悪霊とかが襲ってくるとかあるんか?」


 草野は僕と香織の話を信じはしたが、どこか半信半疑なところがあった。そういった類の経験がなければそれが当然の反応といえよう。もちろん、草野もそのうちの一人だった。

 自室で御守りの紐を人差し指にかけてくるくると回す草野。そのまま考え事をしていると指から紐が外れ、御守りが飛んでいってしまった。


「うわっ、しまったー。どこに飛んでいってもたんやろ?」


 草野が御守りを探そうとした時、ドアの向こうから父親の声がした。


「お風呂あいたで入りや」


「わ、わかった。すぐ行くわ」


「頼むでなー」


 そう言った父の足音はどんどん部屋から遠ざかっていく。草野は部屋を見渡すが御守りは見当たらない。


「しゃーないなぁ。あとで探すか…」


 草野はそう思ったままお風呂に入り、その後テレビを見ているうちに御守りの存在を忘れてしまい、そのままベッドに横たわり眠りについた。



 草野は夜中に突然目が覚めた。何の前触れもなくすっと目が開いた。やけにすっきりと目が覚めたなと思ったほどだ。

 窓を雨が叩く音や雨樋を伝う水の音が聞こえる。外は雨が降っているとそう直感的におもった。

 この時、草野は確かに違和感を覚えていた。しかし、経験がないのでそれが何かはっきりとはわからなかった。

 草野にはわからなかったが、実はその違和感の正体は「音」だった。

 雨や水の音ははっきりと聞こえるのに、草野にはそれ以外の音が何も聞こえないのだ。

 しんと静まり返る家。エアコンの稼働音から、廊下の外や隣の部屋にいるはずの家族の気配も何もかもが感じられない。

 いつも五月蝿い大きな父のいびき声すらも聞こえなかった。


「なんやこれ? 何か気持ち悪いな…」


 ビチャ、ビチャ…。ビチャ、ビチャ…。


「ん? 何か変な音してる…、窓の方か?」


 ベッドから起き上がり恐る恐る窓に近づく草野。その間も、奇妙な音は鳴り続けている。そして、彼は窓の前に立つと意を決してカーテンに手をかけた。

 ごくりと大きな音が草野の喉から鳴る。震える両手でカーテンを一気に開く。


 シャッ!


 ザーーーーーーーーーーーーーーー。

 ピチャ、ピチャ、ピチャ、ピチャ…。


 彼の目に映ったのは、激しい雨が降り頻る世界と窓にぶつかる雨の滴だった。


「何や、ただの雨かいな。ビビって損したわ…」


 草野はホッと胸を撫で下ろしカーテンを閉めるとベッドへ戻ろうと振り返った。


 ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ、ピカッ!


 その時、遠雷と共に稲光がカーテンの隙間から部屋を照らす。草野はその瞬間全てを思い出し、僕たちの話の意味を真に理解した。


「約束忘れてたわ…。御守り、ちゃんと持っとけば良かったな…。ごめんやで…」


 眼前に迫る()()を前に草野はそう呟く。

 床に倒れゆく草野が最後に目にしたモノは視界を覆う長い黒髪と机の裏側で輝く淡い光だった…。


 ◇


 翌朝、登校した僕と香織に髙橋さんから告げられたのは「草野が倒れた」とう報せだった。僕と香織の胸に押し寄せたのは驚きと失意だった。

 昨日の放課後に対策を打てた矢先の出来事で、完全に出鼻を挫かれた形となった。僕たちの中で一番の情報通を失ったのは大きな痛手だ。


「草野までもか…」


「御守り効かんかったんやろか?」


「うちが聞いた話では、草野くんは窓の前で倒れてたらしい。発見された時はパジャマ姿で何も持ってなかったらしい。今も病院で意識不明やって…」


「あいつ…。あれほど肌身離さずて言うたのに。やっぱり実際に体験せんと信じられんか…」


 髙橋さんの両手は震え、瞳にも明らかな恐怖が浮かんでいる。香織はそっと彼女の両手を握る。


「大丈夫。奈美ちゃんはちゃんと御守りもお札も持ってるやろ? これがしっかり守ってくれるさかい、安心して。な?」


「でも…」


「簡単には信じられへんかもしれんけどな、実は私も昔このお札に助けて貰ったことがあるねん」


「え? 香織が?」


 僕に一度目配せした後、香織の大きな瞳は髙橋さんの瞳を優しく見つめる。


「そうや。私も違った形でやったけど襲われた事があるんよ。で、その時にこいつのお母さんに相談してこのお札を貰たんや」


「その時はどうなったん?」


「守ってもらえたから、こうして今ここに私がいるんや。だから、大丈夫。私らを信じてや」


「香織…」


「まぁ、こいつに至っては数えられんくらい何度もこのお札に守られとるで。効果はこいつの身体が証明済みやで」


 香織はそう言い僕の背中を笑いながらバンバン叩いた。「痛いて!」という僕の声はガン無視でガンガン叩く。


「ふふふ。二人が生き証人なんやったら、効果は抜群てことやな。うち、信じるわ!」


 やっと髙橋さんに笑みが戻った。香織にしばかれる僕は叩かれまくった事に意味があって良かったと心底そう思った。


 ◇


 この日の放課後、僕たちは駅の近くにある喫茶店に集まった。ここは昔ながらの純喫茶で落ち着いた店内の雰囲気が気に入っている。もちろんマスター達の人柄も僕たちや常連のお客さんを惹きつけている大きな要因であるのは言うまでもない。

 オーダーを取りに来た恰幅の良いおばちゃんに、髙橋さんはカフェラテを僕と香織は「いつもので」と注文をする。

 おばちゃんがカウンターに戻っていくと、僕は鞄からノートとペンを取り出しテーブルの上に置いた。


「うちら、これからどうなるんやろ…」


「せやなぁ…、怖いよなぁ…。あんた、遥陽さんから何か聞いてへんの?」


「いや、これといった事は聞いてへんなぁ。祠の修復に動いてるけど、宮大工さんも忙しいらしくてもうちょいかかるて聞いたくらいやな」


「そっかぁー」


「遥陽さんて林間学校の時におった人? 普通に名前出てきたけどさぁ、うちはその人の事よう知らんのやけど」


「あぁ、そうやね。遥陽さんはこの御守りとお札をくれた人や。所謂、その道のプロやとでも思っといたらええんちゃうかなぁ」


「この道のプロ…。じゃあ、うちらの今の状況も何とかしてもらおうよ!」


「髙橋さんには伝えてなかったけど、もうしてもらってる途中なんよ。だから、僕らが情報集めてるんやで」


「あっ、そう言う事。えっ、動いてもらってるのに、早希も草野も倒れてもたん…?」


 その言葉に僕の顔が曇る。わかっていても防げなかった。僕には反論の余地もなかった。僕が口を開き何か謝罪の言葉を述べようとした時、香織が先に言葉を発した。


「奈美ちゃん…、ごめん。遥陽さんも私らも後手に回ってしもてるのは事実や。二人を助けられんくてホンマにごめん…」


 香織が髙橋さんに頭を下げた。これは僕の代わりに頭を下げてくれているのだとすぐにわかった。僕は自分の力不足が歯痒かった。


「謝らんくてええよ! 香織たちが悪いわけじゃないやん。うちの言い方が悪かったな。ごめんやで」


 髙橋さんも香織に対して頭を下げた。僕が何と声をかけて良いか分からずあたふたしているとおばちゃんがウインクしながら歩いてきた。


「お待ちどうさまー! カフェオレといつものブレンドコーヒーとアイスティー。あと、これおまけのクッキーね」


「えっ、良いんですか! ありがとうー、おばちゃん!」


「いつも来てくれるさかいにサービスや」


「おばちゃん大好きー」


 香織はおばちゃんに投げキッスを送っている。おばちゃんは嬉しそうに戻っていった。二人は目の前に並ぶ美味しそうなドリンクとクッキーに目を輝かせている。

 おばちゃんの助け舟で僕は救われた。僕はそっとカウンターの方を向き頭を下げると、おばちゃんとマスターは笑顔ですっと片手をあげてそれに応えてくれた。

 僕はコーヒーを飲みながらノートを開く。そのページには今までのことが少しずつ纏めてある。

 僕は祠が壊れてから草野が倒れるまでを時系列で記し、それぞれに纏わる情報をその都度追記していった。


「なぁ、これ纏めたるんはわかるんやけどさぁ。結局、どういうことなん?」


「うちも全然わからんのやけど…」


 僕は自分の憶測を話して良いものか思案する。不確定な情報を無闇矢鱈に伝えるのは彼女たちをただ不安にさせるだけなのではないかと思った。


 特に、「髙橋奈美」にはまだ話せない。


 全員に話せないなら話さない方がいい。僕は彼女たちを適当にあしらうことにした。


「わかってきてると言えばわかってきてるんやけど、これっていうのがないんよな。遥陽さんと話し合おうって思てたとこやし、結論出たらすぐに説明するからそれまで待ってぇや」


 二人は煮え切らない顔をしていたが、僕がそっとノートを閉じたのを見てそれ以上の追求は無理だと判断したようだ。


「絶対やで。何も知らせんままとかやめや。後味悪すぎるでな。あんたはすぐに私に隠れて色々するの知ってるさかいにな」


「うちもやで。こんな事になって、仲間はずれは嫌やからね。ちゃんと教えてよ!」


「わかった。約束する」


 僕は目を閉じそう言った。それが偽りの言葉であると知りながら。


 ◇


 僕たちは喫茶店から出ると帰路につく。この日は両親が帰宅しているらしく、香織もそのまま自分の家に真っ直ぐ帰っていった。

 僕が自宅の玄関に入ると見知った靴が並んでいた。彼の来訪を知り足早にリビングへと向かう。


「おかえりなさい。お邪魔しているよ」


「ただいま、遥陽さん」


 僕が一度自室で着替えてからノートとペンを持ってもう一度リビングに戻ると、遥陽はテーブルにノートとペンを置き待っていた。僕と遥陽の考えは同じようだ。

 僕は椅子に座ると開口一番謝罪した。


「すみません。友人を守れませんでした…。折角、御守りとお札を準備してもらったのに無駄にしてしまった」


「きみが気に病むことではないですよ。と言ってもきみの性格上無理なのでしょうが。あちらの方がこちらより行動が速かっただけのことです」


「それでも…。いえ、自分でもわかっているんです。僕には力がない。それなのに皆んなを救おうなんておこがましい」


「そんなに自分を卑下するものではありませんよ。起きてしまった事を悔やむより、これ以上被害が起きないように行動することの方が大事だと思いますよ。いつものきみならそうしているはずです」


 僕はその言葉に心が洗われたような気がした。悪い事が続いたせいか自分の考えまでも悪い方へ傾いてしまっていた。

 遥陽の言う通りだ。今はこれからの事の方が大切だ。

 

「では、状況を確認しましょう。山田太郎がお亡くなりになり、石川早希が錯乱状態、草野衛が意識不明。髙橋奈美はあれからどうですか?」


「彼女は落ち着いているように見えます。何かに憑かれているような嫌な感じは受けません。まぁ、どこまで僕の感覚が正しいかはわかりまへんけどね」


「いえ、それで十分です。おそらく、朱い札の効力で祓えているでしょうし、今は御守りと白い札があるので守られているはずです」


「ホンマにそうなら僕も安心できます」


「となると、次に狙われるのは…」


「僕か香織…、ですね?」


「そうなりますね」


 僕は腕を組み思案に暮れる。僕が狙われるのは分には良い。家には母もいるし、様々な対策を講じられる。しかし、香織にはそれがない。皆んなと同じく御守りと白い札だけなのだ。

 僕にはそれが不安で仕方がなかった。彼女に危険が迫るくらいなら自分に何倍もの危険が迫る方がよっぽど気が楽だった。

 そんな僕の考えを遥陽と僕の母には見透かされていた。


「あんた、その考えはあかんで」


「おかん、なんや突然?」


 母はパタパタとスリッパの音を立てながら僕の前に座ると少し怖い目つきで僕を睨む。


「自分に危険が迫った方がマシとか思てたやろ。さっき、自分で言うてたやろうに。あんたには力がないんやろ? なら、まずは自分をしっかり守れるようになる事や。それから誰かを守りな。でないと、自分だけやなくて香織ちゃんも守れへんで!」


「お母様の言う通りですね。私が言うべきことでした。ありがとうございます」


「いやいや、構いまへん。余りにもアホみたいな考えしとるのがわかって少しイラついてしもたんで」


「せやな。二人の言う通りや。遥陽さん、そんな簡単にいかへんのはわかってます。でも、何かしたいんです。僕にも覚えられる闘い方はありませんか?」


 遥陽は少し困った顔をし僕の母の方を見た。何故、母に伺いをたてているのだろうか。母は迷った表情を見せたが静かに頷いた。


「わかりました。それについては明日から鍛錬を始めることにしましょう」

 

「ありがとうございます。宜しくお願いします」


 遥陽はニッコリ笑い「はい」と言った。そして、僕に四枚一組のお札を二組差し出した。これも白い札だが描かれているモノが先日貰ったものとは違う。


「遥陽さん、これは?」


「これは、簡易結界みたいなものを作れる札です。部屋の四方に貼ることで部屋への侵入を防ぐ事が出来ます」


「そんな物があったんですね。なんで今まで使わんかったんですか?」


「作るのにとても時間と労力を要するので少ししか作れないのと、使い捨てだからです」


「使い捨て?」


「ある一定レベル以上のモノが侵入を試みると破れて使えなくなるんです。ただ、その日だけは部屋を守れるのであると非常に助かるのは確かです」


「毎日使うような手軽なものじゃないってことですね。でも、今日明日にどうなるかわからないこの状況ならめちゃくちゃ心強いですね」


「そうですね。だから、これを渡しておきます。一組は自分で、もう一組はすぐにでも香織さんに渡してください」


「わかりました。この後、すぐに届けてきます」


 この日はこれで会議を終えた。遥陽は別の仕事もあるそうで、僕と香織の家に張り込むことは出来ないらしい。

 遥陽の車が走り去るのを見送るとその足で香織の家に向かう。インターホンを鳴らし、玄関の鍵を開けてもらい中に入る。

 こんな時間に僕が訪ねてくることなどないのでとても驚いていたが事情を説明するとすぐに納得した。

 僕は香織と彼女の部屋に入り一緒に白い札を設置した。彼女の顔が少し安堵しているように見えて僕も少し気持ちが晴れた。

 そして、早々に立ち去る僕に彼女は微笑み「ありがと」と言って僕を見送ってくれた。

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