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僕と×××。と香織の物語「特別編 林間学校から始まる×××。」  作者: なお。


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3/16

 キャンプファイヤーが終わり、生徒たちは消灯時間を迎える。各々のテントへと戻り眠りにつくのだ。

 テントの前で男子と女子は別れそれぞれのテントへと入っていく。香織は笑顔だったが、僕にはその表情はまだ少し曇っているように見えた。


「香織」


「なんや?」


 彼女が僕に近づいてくる。山田たちや石川さんたちは「先に入ってるで〜」とテントに入っていく。


「僕はすぐ隣のテントにおるし、石川さんたちも一緒におる。大丈夫や、安心して眠りぃ」


 香織は一瞬驚いた表情をみせ、僕に顔を近づけて声を小さくした。


「あんた、よう気づいたな…。さすが幼馴染てとこか。せやな、あんたも皆んなもいる。大丈夫やんな。ちょっと元気出たわ、

 ありがとうな」


 香織はニカって歯を見せて笑うと「おやすみ〜」と言ってテントに入っていった。女子テントの中では何やらキャッキャッ何か言っている声が聞こえ、香織の「いやいや、ちゃうで!」と大きな声が聞こえた。


「たぶん、勘違いされてんな」


 僕は苦笑しながらテントへと入る。そこには何かを期待する二人の視線があった。


 こっちもかよ…。


「何か期待してるとこ悪いんやけど、そういうのちゃうで…」


「ちゃうんかいっ! なんやねん」


「いやいや、なんでそうなんねん」


「いや、ついにかと思って」


「ついにってなんやねん」


「お前らが何で付き合ってへんのか不思議やっちゅうのはこの学校で知らんやつおらんくらいの周知の事実やで。だから、()()()やん」


「そんなんあったんかよ…」


「むしろ知らんのはお前ら二人だけやで」


「ははは。まぁ、今回もちゃうってことや。残念でした」


「お前らはホンマ不思議やわ…。まぁ、えぇわ。俺らも寝ようや」


「せやな。今日一日なんだかんだで疲れたしな…」


「そうそう。それにこの後、夜中に遊ぶ気分でもないしな…」


 草野のその一言でテントの中は一気に静まり返る。皆んな平静を装っていたがやはりまだ立ち直れていなかったようだ。


「まぁ、そういうことや。早く寝て、明日の下山に備えよ」


「あぁ、おやすみ」


「おやすみ」


 そう言い僕たちは目を閉じた。僕たちは心身共に疲弊していたのかすぐに眠りについた。山田は1分もしないうちに大きないびきをかいている。

 僕と草野は二人で苦笑し「おやすみ」と小さく言って横を向いた。そこから朝までの記憶は僕にもない。


 ◇


 翌早朝、僕は草野の声で目が覚めた。テントの入口から見える空はちょうど白み始めた頃だ。そこからもかなり早い時間だとわかる。

 草野は慌てた声で僕の身体を力強く揺する。


「ん…、何? まだ夜明け前やん…、どしたん…?」


「すぐ起きてくれ! 山田がどこにもおらんねん!」


「トイレとか顔洗いに行ってるとかちゃうの? あ、それか朝練とか?」


「いや、全部探したよ。でも、おらんねん!」


 草野の緊迫した雰囲気にさすがの僕も只事ではないと気づき飛び起きる。


「マジか…。岡田先生には?」


「まだや。お前起こしてから行こ思て…」


「わかった。顔だけ洗わせてくれや」


「あぁ。そんで、そのまま報告にいこ」


 僕は頷くとテントから外へと這い出る。外へ出たところでぐにゅという感触を靴底に感じ少し足を滑らせる。寝ている間に雨が降ったようだ。

立ち上がり顔を上げると外に女子が三人立っているのが見えた。香織が僕の元へ駆け寄る。


「どしたん? 草野くんの慌てた声が聞こえてたけど。何かあったんか?」


 彼女の瞳が真っ直ぐ僕の瞳を見つめる。僕は彼女に対してこういう時に下手に誤魔化すのは得策ではないと経験上知っていた。だから、そのまま正直に話すことにした。


「大きな声出すなよ。えぇな?」


 香織は「わかった」と小さく頷く。僕は取り敢えず結論から伝えた。


「山田がおらんくなった」


「はぁ? 山田がおらんくなった?」


「声が大きい!」


「あぁ、ゴメン! で、どういう事? トイレとか朝練とかちゃうの?」


「さすが幼馴染やな。僕と全く同じこと言うてるわ。でも、草野が言うにはどこにもおらんらしい…」

 

「取り敢えず、僕と草野は岡田先生のとこに行ってくる。女子たちはテントで待機しといてぇや」


「わかった。報告したらすぐに戻ってくるんやで? 私らも状況知りたいでな」


「了解」と言い僕と草野は岡田先生の元へと向かった。


 ◇


「なんやて! 思いつくとこ全部探したんか?」


「はい。どこにも姿は見当たらへんのです」


「遭難するようなとこでもないし、勝手にどっか行くような無責任なやつでもないしな…。わしらも探してみる。お前たちはテントで待機や。勝手なことするなよ、えぇな?」


 岡田先生の顔はいつになく厳しいものだった。その圧にただ無言で頷く僕と草野。先生に送り出された僕たちはそのまま真っ直ぐテントへと戻った。


 テントに戻るともう一度中を確認する。いないとわかってはいるが、山田が戻っているのではないかと一縷の望みをかけた。

 しかし、中には誰もいない。それはそうだろう。僕たちはテントの外で立ったまま項垂れる。


「あ、戻ってきてるやん。声掛けてぇなぁ」


 香織たち女子組がテントから出てきた。その表情は暗い。山田は戻っていないし、僕たち2人が項垂れていることから察したに違いない。


「で、どうやった?」


「あぁ。今から教師陣で捜索に出るって。僕らはテントで待機や。そのうち、他の生徒にも何かしら説明があるんちゃうかなぁ?」


「そうかぁ。進展はなしっちゅうことやな…。まぁ、しゃーないな。私らな、あんたら待ってる間に朝ごはんの用意してたんや。取り敢えず、食べへん? な?」


「せやな。このまま考えててもしゃーないしな」


「出来る女たちやろ?」


 香織が自慢気に胸を張る。いつもの香織だ。僕は思わず笑みがこぼれる。


「元気出たか?」


「うん。香織、ありがとうな」


 少し落ち着いたら急にお腹が空いてきた僕はお腹が「ぐぅー」と鳴った。全員の視線が僕に集まり、僕は照れ笑いを浮かべながら皆んなと一緒にテーブルを囲んだ。


 ◇


 朝食を食べ終えた僕たちは早々に片付けを済ませるとテントの前に椅子を並べて座った。待機と言われたので特段やることもない。

 朝食を食べている間に学年主任が各班に説明に回っていたのでどこの班も同じような状態だ。

 皆んなの表情に笑顔はなくどこか沈んでいる。山田の安否が気になり落ち着いてなどいられなかった。

 ザッザッザッという足音と共に僕たちの元へ誰かが近づいてくる。

 僕が顔をあげるとそこには岡田先生がいた。


「岡田先生。山田は?」


「見つかったで…」


「良かった。で、山田はどこにおるんですか?」


「山田はもうおらん」


「おらんて、先に下山しよったんですか?」


「そういうことやないんや」


 岡田先生は沈痛な面持ちで真っ直ぐ僕たちを見る。どう話そうか言葉を選んでいるのか中々話し出す気配がない。

 この時僕の頭には既に最悪のシナリオが浮かんでいた。岡田先生が口を噤んでいるので代わりに僕が切り出すことにした。


「岡田先生…。単刀直入に聞きます。えぇですか?」


「おう。何や?」


「山田は生きてますか?」  


 僕の言葉を聞くや否や全員が僕の方を見た。皆んな驚きと認めたくないという歪んだ表情をしている。


「あんた…、こんな時にそんな冗談言うたらあかんで」


 香織は場を和ませようとするが、僕と岡田先生の表情を見て全てを察した。


「先生…。ホンマなん? 山田くんは…、ホンマに…?」


「そうや。教師陣で捜索してたら山田の靴が片方だけ山道に落ちてたんや。そんで、その道の方に進んでいったらもう片方も見つけたんや」


 僕の背筋が急にざわつく。脳裏にその場所が浮かぶようだ。  


 ゾワゾワする…。寒気がしよる。

 何かピンと来た。あれは泉の方な気がする。

 でも、ただの直感や。そんなわけであらへんよな。


 僕はそう思い。自分の考えすぎた、先生の説明を待とうとそう決めた。


「その靴があったんが泉のある森のまえやったんでな」


「泉」という言葉に僕の心臓がドクンと大きく脈打つ。岡田先生はそんな事は露知らず話を続ける。


「わしらは泉の方に向かったんや。そしたら、そこに山田はいたんや…。もう見た瞬間にわかってしもた。山田はもう…」


 そこで岡田先生は抑えきれなくなり、ついに泣き出してしまった。嗚咽で言葉にならない。「すまん、すまん」と繰り返す岡田先生。

 僕たちは先生の様子にそれ以上の事を聞けなくなった。


 岡田先生は暫く泣いていたが立ち直り、「この事はまだ誰にも話すな」と言って教師テントに戻っていった。

 残された僕たちはただただ呆然と椅子に座るしかなかった。山田の「死」に現実感がない。少ししたら突然ここに戻ってくるのではないかと思えるほどだ。

 女子三人は座ったまま泣き崩れている。綺麗だった顔は涙でメイクが流れぐちゃぐちゃだ。だが、彼女たちはそんな事はお構いなしに泣き続ける。それほどの衝撃的な事件だった。

 僕は昨日の泉でのことを思い出していた。あの帰り際に確かな違和感を感じていた。あの時は何もないように()()()。だが、事件は起きてしまった。

 僕は何故か「早く泉を確認しなければならない」と思った。心がモヤモヤ、ゾワゾワし、何かが僕を急かしている気がする。

 僕は立ち上がり皆んなの方を向き優しい口調で語りかける。


「岡田先生に聞きたいことがあるの忘れてたわ。ちょっと聞いてくるで、皆んなはこのままここにいて。戻ってきて誰もいいひんとかやめてや。めちゃ怖いでな」


 僕は少し冗談めかして彼らがどこにもいかないように釘をさす。


「ほな、いってくるわ」


 僕がそう言い彼らに背中を向けた時、「待ちぃ!」と後ろから声がかかる。呼び止めたのは香織だ。


「私も一緒に行く。えぇやろ?」


 僕は背中を向けたまま顔を歪める。幼馴染の香織には僕の考えが読まれていたようだ。僕は大きく息を吐き出したあと笑顔をつくり振り返る。


「えぇよ。ほな、行こうや」


 僕は香織の元へ歩み寄り手を差し伸べる。彼女はそれをぎゅっと掴み立ち上がる。

 僕が歩き出そうとした時、「ちょっとだけ待ってくれへん?」と香織の申し訳なさそうな声がした。


「どうしたん?」


「化粧…、ちょっとだけなおさせて…」


 上目遣いで手を合わせてお願いしてくる香織に僕は抗えるはずもなく「了解」と答えた。

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