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《モンブリ》~進化のたびに広がる、オレとモンスターの世界~  作者: 夕幕
第1章 アルカディア王立学園 1年生編
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第49話 ルナの十苦労

『∴Ignar tha’mor = vel’kh su’na.∇Kal’fer dor’meth = jura’nai nex’var.∴』


 石版にはやはり、古代文字が刻まれていた。

 焔吼獣《バルム=グロウル》戦での疲れがある中、シエルが「ブランちゃん成分補給中〜」とブランを抱きしめながら解読して、スマホに送ってくれた。

 ネメシスと対応が違うとペチペチ抗議をしていたブランは呆気なく連れて行かれた。

 今はシエルの腕の中で全てを忘れたかのように「キュイ〜!」と幸せそう。


『火は通過を許さぬ。熱を越えし者のみが、次へと進むを許される』


 昨日、風精獣《ヴェルデ=ウィスパー》を倒して見つけた石版には触れるべき正しい順番を仄めかす文章が刻まれていたけど……


「シエルが解読を間違えるわけないし……オルフェウス、これの意味わかる?」


「ごめん、こういうの苦手で……」


「そっか。そうなるとシエルに……ダメね」


 意外にもこの中で一番頭のいいシエルだが、戦闘と解読の疲れからかブランを抱きしめたままダウンしてる。

 ルナも今のシエルには何を聞いても意味をなさないと理解しているのだろう。

 この光景を見ただけでシエルに聞くという選択肢が消えていた。


 今日は誰もクリスタルに還ること無く、勝てた。

 けど、かなり疲れたし、この文章の意味を考える為にも今日は帰って休むことに。

 残る二つの道に進むのは明日以降となった。


 オレはネメシスをルームに入れて、一人部屋へ戻る。

 ブランはシエルがそのまま持って帰った。

 すっごく暑くて汗かいたし、シャワー浴びてから石版に刻まれていた文章の意味を考えよう!

 そう思ってたけど、普通に寝落ちして気づいたら朝になっていた。


 朝食を終える頃に、ルナから「9時に『知風ノ殿』のダンジョンゲート前に来られる?」と連絡が来た。

 9時まであと30分もあり、余裕で間に合うので、大丈夫と返事を送った。

 すると「シエルとブランは私が責任持って連れて行くから安心して」と返ってきた。

 向こうで今、何が起きているのか、ルナが何に苦労しているのかこれだけでなんとなく察してしまった。


 時間通りに『知風ノ殿』のダンジョンゲート前に着いたけど、ルナとシエルの姿は見えなかった。

 確か女子寮ってあっちの方だった……ん?


 誰かがこっち向かって走って来てるけど、ルナとシエルじゃない。

 あれは……フィアか。

 でも、何で走ってこっちに来てるんだ?


「ま……ボ……ブラ……ん!」


「……」


 うーん、気のせいかな?

 今、シエルの声がすっごい遠くから聞こえてきた気がしたけど。


「――――」


 うん、耳を澄ましてみたけど、何も聞こえない。

 フィアが走ってる理由は謎だけど、こっちに向かって来てるし、直接聞けばいいでしょ。


「キュイ!キュイキュイ〜!!」


 ……ん?今、ブランの声が――しかもかなり、楽しそう。

 いや、さすがに気のせいか。

 だってブランの姿はどこにも見てないわけだし。



「つかまえた―!」


「え?」


 気づいたらフィアはオレのすぐ目の前まで来ていたけど、背後に迫っていたシエルが飛び込むように抱きついたことで地面をズリーと勢いよく4、5メートルほど滑る。


「え、ちょっ、大丈夫?」


 何がなんだか事情は理解できないけど、ここまで勢いよく滑ると怪我してないか心配になった。

 だけど、杞憂だったみたい。


「……ブランちゃん、確保!はぁ〜、もふもふ〜」


「キュイ〜」


 何事も無かったかのようにシエルはどこからともなくブランを引っ張り出し、もふもふする。

 フィアに何が起きてるのか事情を聞こうにも何故か放心状態で聞けそうにない。

 きっとこの後、来るであろうルナを待つこと5分。


「はぁ、はぁ、はぁ、ちょっ、速、すぎ……!」


 息切れを起こし、疲れ切ったルナがやって来た。


「えっと、ルナ?何があったのか聞いても大丈夫?」


「ちょっ、と、待って」


 その後、ゆっくりと息を整えたルナが何があったのか教えてくれた。


 話を要約するとこんな感じだった。

 朝、ルナがシエルを迎えに行くと案の定、ブランをもふもふして楽しんでいた。

 朝食はブランもお腹すいてるんじゃない?の一言で釣れたけど、ダンジョンに向かわせるのに一苦労。……いや、十苦労くらいしてるかも。

 ルナ曰く、ほんの一瞬、目を離したらシエルとブランの姿が消えていた。

 見張り役を頼んだフィアに確認すると、シエルがブランを抱っこすると同時に消えたとか。


 その後、シエルの部屋を見に行くと朝食前と同じ光景が目に入った。

 それからシエルをダンジョンに向かわせようとするもブランをもふる事に一生懸命でルナの話に耳を貸さなかったらしい。

 そこでルシウスとフィアが連携してシエルからブランを奪う事に成功すると、ルナとルシウスがシエルの足止めとして残り、フィアはブランを連れて逃走。

 本当ならそこでシエルを足止めする筈だったけど、瞬く間に抜かれてフィアと追いかけっこになった。

 そして、結果は何故かフィアに追いついたシエルがブランの奪還に成功し、今こうしてもふもふを再満喫している。


 この話を聞いてフィアが放心状態の理由がよくわかった。

 普通、モンスターと人間がよーいどん!で全力疾走したらモンスターが勝つ。

 よっぽどLvというか素早さのステータスが低いモンスターでも無い限り、人間が勝つのは不可能――の筈。

 今回、シエルはルナとルシウスを突破した上でフィアに追いついている。

 これ、フィアじゃなくてもショックは大きいだろうな。

 ……あ、ブランは無邪気に楽しむかも。

 さっきも楽しそうな雰囲気で「キュイ!キュイキュイ〜!!」って声が聞こえてきたからな。

次回、『月幻獣 ノクシア=ルミナ』に続く

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