第十話 回廊迷宮の最前線!
世界中に存在する『とあるカテゴリ』のダンジョンの中で、日本に唯一存在する『回廊迷宮』
魔法省がダンジョン内のドロップアイテムを多額で買い取っていることもあり、『それだけ日本政府がこのダンジョンの研究のために予算をつけている』ともいえる重要なダンジョンだ。
塔のような形をしており、フロアのどこかにいるボスを討伐して上に登っていく形式で、それだけなら他のダンジョンと変わらない。
一部、日本でも上層の冒険者たちは、時折、『崩名石マジうぜぇ』という話題になるそうだが……。
「うっへっへ! 魔石ががっぽりですうううっ!」
『とあるカテゴリ』に属していると言えど、ダンジョンである以上、モンスターを倒せば魔石を残して消えていくのは変わらない。
そして、圧倒的な才能とスタミナを有する三人が挑めば、必然と獲得できる魔石は多くなる。
回廊迷宮は、『罠が一切存在しない』ダンジョン。
その分モンスターは強力、かつ、『擬態』や『工作』など、『モンスターそのものが罠になる』ことも『確認されていない』のが現状。
要するに、遭遇したモンスターをどう倒すか。という、冒険者というより『戦闘員』としてどこまで優れた動きができるかが問われる場所だ。
もちろん、必要な物資を運び、手に入れた魔石を持ち帰るための道具くらいは必要だが、最前線に近づけば近づくほど、少量の魔石でも質が高く、かなり高額で売れるため、その場合はポーチでも十分。
「やっぱり、このくらいのダンジョンなら、私も一応、戦えるわね」
栞は頷いた。
今、三人はこのダンジョンの最前線に挑んでいる。
なお……栞のこのセリフ。基本的には『弱いキャラが適正ランクの狩場に降りてきたとき』に使われることがほとんどだが、栞の場合は出力が強すぎてモンスターの魔石が持たないので、『モンスターの強さが自分と戦うに値する』と言う意味だ。
ちなみに、十年近く、様々な冒険者がこのダンジョンに挑んでおり、ゲームと違って敗北=死亡ではあるものの、魔法省が抱えている実力者は多く、かなりの階層が攻略されている。
次々と強力になっていくダンジョンのモンスターは、最前線ともなるとかなりの強さを発揮するが、この三人は軽々と倒していく。
二十も生きていない少女たちが、日本中から実力者が集う最前線で戦っているというのはなかなか珍妙な光景ではあるが、彼女らの『父親』の名を出せば、苦虫を嚙み潰したような表情になる者が多いこともまた事実。
「~♪」
刹那はこのダンジョンでも基本的に暇である。
というか、体力権化で実力がある椿がいる時点でほとんどの場合は問題なく、そこに才能権化の栞が加わると、そんじょそこらのモンスターでは手が付けられない。
ただ、椿とも栞ともわずかに違う視点を持ち、精神年齢は他二人よりも高く(精神年齢が低いと『椿で遊ぶこと』は不可能)、直観も優れている。
基本的に椿と栞で問題はないが……栞だけでは椿をどうにもできないことも含めて、『バランス感覚』の話で、刹那も一緒に行動しているのだ。
冒険者を管轄する魔法省の重鎮たちも、刹那自身、かなりの実力者でありながら、椿と栞と組むことを容認している以上、理解しているのだろう。
……『面倒な男たちの娘を一か所にまとめておきたい』と言う部分も、無きにしも非ずだが。
「このあたりになると人も少ないですね」
「モンスターも強くなってきてるから当然ね……あ」
角を曲がると、そこにいたのは身長五メートルのオーガだ。
なかなか物騒なトゲがついた棍棒を持っており、憤怒のオーラを解放した強力なモンスターである。
「回廊迷宮はレンガ壁の、まさに『迷路』って感じですけど、本当に出てくるモンスターに統一性がありませんね」
「~♪」
「む? 飽きないからいい? ……その通りですね!」
結論は出たようだ。
というわけで、椿は刀を構えて突進。
「行きますよ!」
オーガが振り下ろした棍棒を避けて、刀を下から降り上げる。
「神風刃・螺旋昇!」
竜巻のような魔法が刀から放たれて、オーガを切り裂く。
「オオオオオオオオッ!」
「む、思ったほど通ってないですね。なら……『神風刃・蛇宴開演』!」
刀を手首を軸にして旋回させる。
そして描かれた円から魔力があふれ、風の蛇が形成されてオーガに向かう。
オーガはそれに棍棒を振り下ろしたが、砕けたと思った蛇は二つに分裂する。
そして、オーガは二頭の蛇をまとめて薙ぎ払うと、今度は三体に分裂する。
「むっはっは! 無駄ですよ! その蛇は攻撃されるたびに倍に増えるんです!」
……。
…………。
…………ん?
何か疑問に思ったのか、三体の蛇は確認を兼ねて椿の方を見る。
「……え?」
刀を回しながら確認する椿。
「一……二……三……栞、なんで三体しかいないんですか?」
「さあ?」
椿が放った技だ。当然詳しい効果は椿にしかわからないだろう。
「むううっ! まあ、倒されても増えるので問題はありませんね! 突撃ですうううっ!」
ゲームやってて敵キャラがこんなことを言い出したらクソゲーもいいところだが、これが椿クオリティだ。
……ただ、中学時代、何かのイベントでアナログのゲームを作った時、星5を貰える場合が多いので、周りの方もかなり狂っているのは間違いない。
バカなことを椿が言っているが、蛇たちは真面目にオーガを攻撃し、そのまま倒した。
魔石を残して体が粒子になって消えていくオーガはどこか納得いかない表情だった。
「大勝利です!」
確かに被弾せずに倒したのだから勝利は勝利なのだが、このどうしようもないモヤモヤは一体何なのだろう。
「ねえ、刹那」
「~?」
「神風刃って、『反復練習で鍛えた全方位の太刀筋』に、『必要な魔法のイメージ』を『名』として与えることで、『臨機応変に戦う』という戦術よね」
「~♪」
「なら、なんで技を『その場で作った』はずの椿が、自分が使う技の効果を間違えるのかしら」
「……♪」
椿の戦術、『神風刃』
そのコンセプトは栞が語った通り、九方向の斬撃の反復練習に、風属性の魔法をイメージして乗せることで、まさに『臨機応変』を体現したものだ。
基本的に魔法を絡めた戦術というものは、発動する魔法そのものの精密度を上げることがほとんどで、自らが得意とする威力、軌道、発動速度の魔法を定めて、その質を高めていくもの。
即席で作った魔法ほど脆く……いや、彼女らの時代に合わせて言えば『不安定』と言うべきか。要するに実用性は低いとされ、通常は『強者の戦術』として成立しない。
ただ、椿のセンスはそれを可能とするほど高いという証明でもある。
とはいえ。
そう、とはいえだ。
『自分が使った魔法の効果を間違える』というのは、一体どういう冗談なのだろう。
しかも、放たれた『技そのもの』の方がなんだか常識を有しているような、そんな『意味不明』なことがなぜ起こるのか。
……椿だから。と言われればそれまでだが、長年の付き合いである栞にとってもかなりモヤモヤする。
まあ、刹那もどう答えたものかと思っているようだが、というか、答えたとしてそれを栞が理解できるのかどうかよくわからないが。
……何なんだこのチーム。
「えへへ~♪ おっ! 拠点が見えましたよ!」
開けたスペースに到達する。
そこでは、プレハブ小屋や、折り畳み式のプラスチック版で作られたブースが用意された『拠点』が作られていた。
「うっはっは~! 何があるか楽しみですうううっ!」
「……はぁ」
拠点に突撃していく椿を見つつ、栞は溜息を吐いた。




