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プロローグ

 

 高校入学式初日、この物語の主人公である真琴は大きな希望と覚悟を抱き

この先三年間を共にする通学路の長い坂を歩いていた。


「・・・僕は、彼女を作る。」

そう呟くと入学初日の新入生とは思えない冷めた目で遠くの校舎を見つめた。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 中学時代、全くと言っていいほど女の子に縁の無かった僕は、女の子から優しくされることも優しくすることにも慣れていなかった。


 容姿に問題は無いと思っていたし、単に僕はそういう機会が少ないまだまだこれからチャンスのある人間だと勘違いしていた。誰か僕を殴ってくれ。


 そんなある日である。目の前に天使が舞い降りたのは。

 授業中、手元に置いていた消しゴムを床に落としてしまい、さらにその消しゴムは女子の机の下へと転がっていったのである。 この状況、人によっては「悪い悪い、消しゴム落としちゃったテヘペロ」などと言いながら女子の席の下へと手を伸ばし消しゴムを拾う一連の動作を簡単にやってのけるのだろうが、女子と接する機会の少ない僕にとってはまさにヘルプミー状態である。

 さてどうしようかと悩んでいると、視界の隅から女の子の影が落とした消しゴムへと手を伸ばすのが見えた。


 「ごめん、消しゴム落としちゃった!」

 そう言いながら机の下から拾い、呆然としている僕の机に消しゴムを置いて一言、


 「昼休みのデザート、プリン一個で許してあげるっ!」

 

 笑顔で呟くその少女の姿はまさに天使のようだった。

 

 僕はこの子に告白をしよう。卒業式に誰もいない教室で告白をしよう。新しい高校に入るまでの休みは彼女とデートをしよう。お弁当を持ってピクニックなんかもいいなぁ、などと妄想を広げていた僕に訪れた現実は―――、




「ごめんなさい。」



 申し訳なさそうに頭を下げる少女を前にした自分がいた。

 あれ?どうしてこうなった。

 

 

 「ご、ごめんってことはつまり」

 動揺する心を必死に落ち着けたつもりで発したはずの言葉だったが誰がどう聞いても動揺している自分を感じながら彼女の言葉を待った。


 「私、今はそういうのあまり興味がないの。だから本当にごめんね。・・・あ!で、でも告白とかされたことなかったし、すっごく嬉しかったよ!だから、卒業してからも"友達"として仲良くしてくれたら嬉しいな。」

 

 なるべく傷つけないようにと気を遣う彼女の表情は、初めて言葉を交わした時と同じ笑顔だった。


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 苦い初恋を思い出しながら高校までの長い坂を気だるい足取りで登る。その姿は誰が見ても冴えない新入生かゾンビの行進だなと間違える様だった。


 「おーい、マコト~。」


 低い声で後ろから呼ぶ声の主は中学からの同級生、やっさんである。

 

 「あれ、やっさん昨日新しい自分を探しに行くって旅に出たんじゃ。」

 「入学初日からそんな展開ないわ。というか朝から変な振りをするな。」


 整った顔立ちに黒縁のメガネ。優しく紳士的な性格なのに何故か女の子からは『あ~、顔は悪くないんだけどなんかオカマっぽいよね~。』と評価される残念な奴である。


 「・・・やっさんが美少女ならなぁ」

 「俺が美少女だとしてもお前とは付き合わねぇよ。」


 僕だってお前が美少女だとしても・・・・あれ?付き合いたい。


 「朝からアホな事考えてるな。・・・というか真琴、荷物少なくないか?筆記用具と書類、上履きは持ってきたかい?」


 「んあ?筆記用具も書類も完璧だよ。・・・ん?上履き?上履き?」

 

 「まさか・・・」 

 「おうちに忘れてきちゃった。てへ」

 どうにかならないかなというニュアンスを含めて笑顔で見つめる。


 捨てるようにやっさんが呟く、

 

 

 「行ってらっしゃい。」



 



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