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14. 違った

 白青混じりは自分よりも寂しがりだという事を、一緒に過ごす内に段々と思うようになっていった。

 白青混じりが一匹で居るのを見かけるのは、水を飲んだり狩りをしたりする時だけだった。それ以外は、大体自分と居たり、ここの種族の誰かと居たりしている。子供の遊び相手になっている事さえも見掛けた。

 過去、どのような事があったのかは全く分からないけれども、白青混じりにとって今持っている繋がりはとても大切なものだという事だけは分かった。

 ある意味、それは自分にとっての刃持ち以上だ。

 だからこそ、勝ったとしても殺さない、殺せない。白青混じりにとってのここの種族は、互いに競い合うような関係を以てして付き合っている訳じゃない。寂しさを埋める為に親しくなっている関係だ。

 ただ、それは一方的なものでもある気がした。

 白青混じりが居なくとも、ここの種族は大した孤独は味わわないだろう。ここの種族が居なければ、白青混じりは寂しさを我慢してただ生きなければいけない。

 持っている力は白青混じりの方が圧倒的に上なのに、関係としては白青混じりの方が下のような気がする。

 そんな関係は、とても歪なものに見えた。

 白青混じりのように自分はならないだろうという自覚は、それが分かる前からでさえもはっきりしていた程だった。


 長く居ようと、大した変化は起こらなかった。自分からこの種族に対して歩み寄るつもりも余り無ければ、その逆も無かったからだろう。

 自分はただ、ちょっと遠くからその営みを見ているだけだったし、その自分に近寄って来るのも白青混じり以外には居なかった。

 ここに来た最初に貰って食べた物も、二度目からは白青混じりが持ってきてくれて、食べている。

 先に行くかどうかはまだ迷っていた。頂上には何度かまた登ってみたものの、全方向草原だけが広がっているのを眺めると、どうしても躊躇いがあった。

 雨の季節も終わりが近付き始めている。これからまた、乾いた季節が始まる。

 けれど、自分にとっては何も変わらない。ただただ真直ぐ歩いて来て、ここに着いた。戻るか、まだ留まるか、先へ行くか。

 単純な三つの選択肢をまだ、選べていない。

 戻ってももう、刃持ちと戦う事は無いかもしれない。留まっても、ここでの変わらない日々が続くだけだろう。先へ行っても、何も無いかもしれない。

 幾ら悩もうとも答が出る事は無かった。どれも自分にとって納得のいく選択では無かった。どれを選ぼうとも後悔する気がした。

 乾いた季節が訪れる。決められないまま、変わった住処が変わらないまま。

 時間が経とうとも、ここに居ると決めた訳でも無く、ここで悩んでいるのは今まで感じた事の無い苛立ちを感じた。

 体を動かそうとも、頂上に登ろうとも、肉を食らおうともそれは無くならなかった。無視しようとも、無視も出来なかった。


 頂上で遠くを眺める時が自然と増えていた。

 ぼうっとこの高い場所から数々の獣が生きている様を見るのは飽きずに楽しめる事だった。白青混じりにとっては飽きてしまった事のようだったらしく、ここに留まっている時間が長引くに連れて、余り一緒に頂上まで来る事は無くなっていったが。

 苛立ちも、ここでぼうっとしている間はそこまで気にはならない。

 ぽつ、ぽつ、と雨が降り始める。けれどもう、強く体に打ち付けて来るような雨は降らない。

 岩肌に落ちた雨が、地面に染み込まれずに下へと流れて行く。雨雲ももう暗くない。

 眼下に見える獣が木の下で雨宿りをし、鳥が飛んでいる姿も次第に見えなくなっていく。寝っ転がると、目に雨が入った。

 指で拭って、ふと、考えた。

 真直ぐ歩いた先には、ずっと何かが続いているんだろうか。

 老いて死なない者は居ない。植物だって死ぬ。自分だって死ぬ。終わりはある。

 真直ぐ歩いた先に、終わりはあるのだろうか。

 無ければおかしい気がする。あるとしたらそれは、どんな景色なのだろう。

 途端に興味が湧いて来た。それがあるのならば、どれ程歩けばあるのか分からないけれども、行ってみたい。

 体を起こしてまた、草原を見た。もうここで何度も寝転がって何度も起き上がった。長い距離を歩かずに、戦いへの準備もせずに、ただぼうっと毎日を過ごしているのは久々な事だった。

 そろそろもう良いだろう。

 そんな生活も飽きた。物を使って生きている種族達に関してもある程度の事は分かっても来た。

 獣や自分達のように、生きる為の術のみを教えられて、教えて生きて来た訳ではない。

 複雑な物を使って生きていて、それを子に伝えている。それを世代を経ても連綿と続けて、単純さを積み重ねて、複雑な物を作り上げて来た事。また、伝えられる、複雑な意志のやりとりが出来る事。

 それが、矮小で軟弱な体をした種族のみの強みだ。

 そして、刃持ちみたいに強い奴の方が異常だと言う事も分かった。ここでは白青混じりに傷一つ付けられる奴何て、一匹も居なかった。

 寂しさも少し感じたけれど、正直ほっとした部分の方が強かった。

 自分達よりも数多く居るその種族達の沢山が、そんな強さを持っていたら逃げるしかなかった。

 王者の一種としてはもう在れなかった。

 近い内に出て行こう。そう思い、行く方向、後ろを振り返る。

 麓に、森から出た時にも見た長い顔の草食獣に乗った、自分の指の数を越える物を使う種族が見えた。すぐに森に隠れて見えなくなる。

 そう言えば、あの草食獣はあの住処では見掛けなかったな。久々に食いたいけれども、それはきっと無理な気がする。

 残念に思いながらも、戻る事にした。


 その次の日の、日が沈む頃、白青混じりが自分を呼んだ。

 いつものように狩りでもするのだろうと思い、住処から少しした所で別れようとすると、白青混じりは付いて来いと自分の指を噛んで引っ張った。

 何なんだ一体。今までこんな事無かった。何をしようとしている?

 少しした所で、白青混じりの歩き方が音を立てないものに変わった。自分も一応、極力音を立てないように歩く。

 その緊張の度合いは、狩りをしている時よりもかなり強かった。毎日炎持ち達を倒している時よりも、強いかもしれない。

 何があるのだろう、と考えた所で、昨日の事を思い出した。

 ああ。流石に見知らない奴に初めて出会う時は緊張するよな。

 ……いや、そんなもんじゃない、な。

 白青混じりのその雰囲気は、仲良くなろうというような、炎持ちと接している時の柔らかさが全く無い。

 明確な敵意こそまだ感じられないが、ただ隠しているだけとも見えた。

 臭いを嗅いで、白青混じりは慎重に、けれど素早く歩いて行く。同じように音を立てないようにして歩こうとすると、すぐに距離が開いてしまう。

 待っていてくれる。待ってくれているのが少し申し訳ないと思ったけれど、どうして連れて来られてそんな思いをしなきゃいけないんだとも思った。

 これからしようとしている何かに邪魔をするつもりまでは無いけれど、少し億劫な気持ちになってきているのは否めなかった。


 暫くすると、声が聞こえて来た。明らかに物を使う種族の声だ。

 白青混じりと岩陰で姿を潜める。

 白青混じりはどうやら、その声を聞いているようだった。多分、その意味まで理解している。

 理解出来るのは素直に羨ましかった。その種族が何を考えているか、はっきりと分かるのに等しいように思えた。

 時間が経つ。白青混じりの様子に敵意が浮かんできていた。

 物を使うこの種族達も、群れの争いみたいな事をするのだろうか? 獣や自分達よりもよっぽど賢く生きてるだろうに。

 いや、だからこそ、だろうか。白青混じりがどんな意味を持つ声を聞いているのかは分からない。ただそれは、自分の予想を越えたものであっても全くおかしくない気がした。

 白青混じりが唐突に飛び出した。顔を出して走り去って行った方向を見ると、その奴等に直接向かわずに、迂回して先へ行っていた。

 何となく、察した。

 白青混じりに敵意は確実にあった。これから白青混じりは奴等を襲うだろう。自分の居る位置とは反対側から。

 挟み撃ちにしろ、という事だ。別に従う必要も無いのだろうけれど、もうそろそろここを出ると決めてある。その位ならしておこうと思った。

 そしてすぐに、悲鳴が上がる。怒声が続いて上がるが、また悲鳴だけに戻った。

 あいつだけで事足りるだろう。そう思ったけれど、すぐに逃げて来る足音が聞こえて来た。もう一度顔を出して覗いてみると、数匹に対して攻め切れていない様子が見えた。

 自分のように攻撃を受け止めて正面から殺すような事は、白青混じりには出来ない。上手く地形を生かされて数匹で死角を無くされては攻めあぐねてしまうようだった。

 走って逃げて来る音が聞こえて来る。数匹の足音だった。そして一匹が自分が隠れている場所に来ようとしている。

 白青混じりから隠れるには、この岩陰は良い場所に見えるだろう。鋭い鼻があるから無意味だろうけれど。

 見えた所を叩き潰して姿を現す。

 自分の姿を見て、残った数匹は下へと逃げ始めた。食わないのに殺すのは余りしたくないけれど、どうしようか。一匹で腹は足りるし。

 けれど、白青混じりは容赦なく皆殺しにするつもりのようで、数匹の連携を崩して止めを刺す所が見えた。自分が追わないのを見ると、もう殺した方には見向きもせずに、逃げた方を追い始めた。

 そうか。白青混じりはあの住処を守る為にこの奴等を殺している。けれど、自分にとってあそこは大して大切に思ってない。気乗りしないのも当然だ。

 白青混じりと自分は、同じようでも根本的に違う場所があった。

 他者に対する重みが違う。白青混じりは、自分と親しくしてくれる他者が居るからこそ、ああして活発に生きている。生きていられる。

 悲鳴が聞こえて、すぐに消えた。

 自分は、一匹で居ようと寂しさを感じる事があっても、それに押し潰されはしないだろう。きっと。

 白青混じりは多分、押し潰されてしまう。だからこうして必死になっている。

 そんな気がした。

 そして、やっぱり白青混じりだけで全員を殺す事は楽だったと思えた。どうして、自分を連れて来たのか。

 それはやっぱり、白青混じりにとって、自分にもここに居て欲しいと思っているから。

 積極的では無いにせよ、白青混じりは自分をここに縛り付けようと思っているように思えた。

 ……もう、出た方が良い。

 明日、出よう。そう決めた。夜はもう近かった。悲鳴も聞こえなかった。

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