10. 願った
今まで見たどの獣も、どれだけ賢い振る舞いをしていようが、直感で自分とは違うと分かっていた。毒のある蛙を見ただけで分かるように。緑色の果実がまだ食い時ではないと分かるように。
それに今まで疑問は持っていなかったが、今更になって、同じく直感で自分と同じだと分かってから、それに違和を感じた。
獣は固まっていた。唐突に視界に入った、自分と同じ獣の種類。小さな蛙や虫等とも違く、虎や狼等の獣とも違く、そして刃持ちとも違う、自分と違う姿形の、同種の獣。
何が同種かとは、いまいち分からないが、とにかく同種だった。
喜びや期待よりも、驚きが勝っていた。それは、対岸に居る白に淡い青混じりの獣にとっても同じようだった。
距離があるのに、動けなかった。喜びは勿論あったが、どう接すれば良いのか全く分からなかった。
近付きたかったが、近付いてどうすれば刃持ちと同じように友好的になれるのか。敵と見做されてはお終いだった。
動けないでいると、白青混じりはいつものように、と言った感じで水を飲み始めた。
自分も、獲物でも狩りに行こうか。いや、でも。
ここから離れてしまえば、白青もここから去ってしまいそうな気がした。
ここ辺りに住んでいるのならば、また会える事もあるだろうけれど、ただ何もせずに別れてしまうのは嫌だった。
……今近付いて、去ってしまうのなら、それまでだろう。
そう思った。
ゆっくりと、対岸に向って歩き始めた。水を飲み終えた白青混じりがこちらを見た。動かずにただ、来るのをじっと待っているように見えた。
逃げないでくれ。去らないでくれ。
強くそう思っている自分が居た。敵という関係にはなりたくなかった。刃持ちと同じような関係になりたかった。
もし、戦う事になってしまうのならば、自分より強くも弱くもあって欲しくなかった。そんな事は、とても珍しい事だと思えど、そう願っていた。
半分が過ぎる。白青混じりは自分をじっと見据えたまま動かなかった。警戒はしていた。肉体を張りつめている姿はここからでもはっきりと分かった。
距離が段々と近付いて行く。刃持ちと初めて会った時、それ以上の緊張が獣の中にあった。
白青混じりが自分をどう見ているのか。また、その強靭でしなやかな体は、どの位の距離を一跳びで跳躍して自分の喉笛に噛みつけるのだろうか。
その距離までは近付くべきでは無いと思った。
そこへ入る事は、宣戦するのと同じ気がした。
立ち止まる。自分の想像よりもやや幅を取って、そこで座った。
白青混じりは、動かないままだった。
ただ、時間が経った。
白青混じりは動かなかった。自分も距離は詰めたものの、これからどうすれば良いのか分からなかった。
戦いはしたくなかった。そうやって親しくなれるのは、互角の時だけかもしれないのだ。負けようが勝とうが、親しくなれるとは思えなかった。
そして、これから戦いに移らない動作は、ここから去る事位しか思いつかなかった。戦いに移らず、且つ親しくなれるような動作は全くもって思いつかなかった。
唐突に、白青混じりが後ろを向いて歩いて去り始めた。え、お前は親しくなりたくはないのか。
立ち上がって追いかけようとして、止めた。親しくなるより、戦いをしない方が先だ。
座って、自然と下を向いた。何だか、弄ばれただけのようだと思った。とても悲しく思っている自分も居た。
もう一度、前を見る。……居ない?
いや、上だ。姿を見た時にはその肉体が眼前にあった。
咄嗟に後ろに体重を掛けて、背中を地面に付け、同時に両腕を顔の前へ持って行く。
噛みつかれる? 爪で切り裂かれる?
大して距離が離れてなかったのに、目を離した事に後悔した。剛腕も切り裂かれそうな鋭い爪と牙が見えた。
けれども、そんな事にはならなかった。
とん、と衝撃を全て殺して自分の上に着地しただけだった。
それからゆっくり降りて、未だに硬直したままの自分の横顔を舐められた。
ああ、弄ばれていたのか。
やっとそこで理解した。今まで身に受けて来た経験も、そして力量も、この白青混じりの方が上なのだ。自分を見つめていたのも、きっとただ、観察していただけのようなものだろう。
起き上がって、互いに顔を見た。
いきなりこんな事をされたが、悪い気分ではなかった。
攻撃して来なかった時点で、とても有り難かった。頭をぽりぽりと掻くと、変に思われた気がした。
腹の音がする程空腹ではなかったが、やはり何かを食いたかった。明日に備える為というのも勿論あったが、意志疎通をする為にはそれしか思いつかなかった。
刃持ちとも戦う以外では、食う事程度しか互いに親しく出来ていると思える事はなかった。
立ち上がって腹を擦り、木々の方を見た。獲物は居るだろうか。
ただ、そうしようと察されたのか、その白青混じりは鼻で辺りを感じると、すぐに走って行った。
自分も手ぶらじゃ嫌だな。何となく湖の方に目を向けると、手頃な石があった。
おお。丸っこくて、自分の手の大きさに丁度良い。
二つ持って、木々の中に入ってすぐ、獲物の姿を見止めた。投げると胴に当たり、動かなくなった。狙い通りにも飛んで行く。変に曲がる事も無い。
予備のもう一つの石を握り返しながら、中々良い石だと思う。
持ち歩きたい位だった。何で流れが止まっている湖にこんな自分にとって良い石があるのか分からないが、一個は持ち歩こうかと真面目に思った。
調子に乗って全力で握ったら、皹が入って捨てた。
獲物に当てた方も、やはり衝撃には強くないようで欠けていた。かなり残念に思いながら、獲物を持って湖へ戻った。
うん、気分は良い。
石に耐久が無かったのは残念だが、そんな事はすぐに楽しみに塗り潰される。
自分が今、どんな顔をしているのか。刃持ちとの戦いの時に浮かべる笑みに似ているとは思うが、違うものだろう。
良く分からないが。ああ、本当に、分からない事だらけだ。
それもまた、楽しいが。
戻ると既に白青混じりは獣を狩って持ってきていた。
自分も大して時間を掛けてはいないのに。自分が走る速さ自体は、刃持ちよりやや速い。
ただ、刃持ちはその体の身軽さで咄嗟にあり得ないような動きも出来る。そんな事は自分は出来ない。
この白青混じりは、走る速さはきっと、今まで自分が見た何よりも速いだろう。
瞬時に動ける行動も段違いだろう。
刃持ちと戦ったらどうなる? 刃持ちへの贔屓が混じっているのかも分からないが、力量差があれどどうも即座に負けるような結果にはならない気がした。
四足だからだろうか。真先にそれが思い浮かんだ。二本の足を、足として使わずに物を掴めたりするという事はとても強い点だ。
だからこそ自分は石を投げて遠くの獲物を仕留められる。自らの軟弱な体で刃を持つ事だけで、刃持ちは自分に匹敵している。
まあ、今はそんな疑問も置いておこう。……前にもそうした気がする。
互いの狩って来た獣は違った。それもまた楽しかった。
白青混じりにとってはどちらも食った事のあるものなのだろうが、自分にとっては片方は食った事の無い方だった。
後ろ脚を食い千切って投げ渡された。渡されて食うと、中々だった。
日が暮れ始めていた。まだ食い終えてもいないが、何故か白青混じりがひっきりなしに鼻を動かしていた。
何だろうか。
鼻はそれ程鋭くない。目は獣の中でも良い方だとは思うが、耳も普通の方だと思う。
暗くなって来る中、盛り上がってる大地の、違和を感じた部分に目を向けると火が焚かれているのが見えた。
きっと、それだろうか。肉を食いながら、そう思う。
暫くすると、がさがさと、明らかに獣ではない、うるさく草を掻き分ける音が聞こえて来る。
白青混じりが立ち上がって自分と距離を取った。仕方なく、と言ったその白青混じりの仕草と、声を出しながら見えて来た刃持ちと同種のような種族が、座って肉を食い続けている自分に驚いたのが何か滑稽だった。
肉を飲み込んで、取り敢えず座ったままで居る事にした。
ポケモン二次創作で3万文字オーバー何て事してたから投稿遅くなったぞー。
これよりも早く楽しく書けちゃって複雑な気分だったぞー。
これから実家でWiiUも断ったから沢山書くぞー。
でもやらなければいけないタスクも他にも色々あるんだぞー。
因みに白青混じりの種族名はトルクスタとしたぞー。
意味は特にないぞー。
ヴルグスタと同じく語感が良かったからだけだぞー。
モデルは特に無いぞー。
内臓が無いぞー。




