11. 登った
その二足で立つ種族は、刃持ちとは微妙に違った。単に兄や姉と自分が違うのではなく、体の特徴がやや違うような気がした。
刃持ちの種族の事も良く知らないから、本当に違う種族なのかどうかは分からないけれど。
手には、刃持ちも偶に使っていた、木に燃える水を濡らした、刃持ちが体に身に付けているもののと同じようなひらひらとしたものを巻きつけて燃やしている物があった。
その持てるようにした炎にも最初は驚いたものだ。懐かしくそんな事を思っていると、その種族が白青混じりに声を発した。
白青混じりはそれを聞いて、その声の意志を理解しているようだった。
刃持ちとは戦って、食ってしかしてない身としては、羨ましいと素直にそう思う。
どのようにあの炎持ちと白青混じりは会ったのだろうか。あの炎持ちは強いのだろうか。
それと、刃持ちのような種族も自分や白青混じりと同じく複数の種類が居て、意志を伝える手段に口を使うのも同じなのだろうか。
そんな事を考えながらも、ただ、座っていた。
様子を見ていると、白青混じりも炎持ちも何だか自分に対して困っているようだった。そっちから襲って来ない限り自分から仕掛けるつもりは無いとでも伝えられれば良いのだが。
そんな事、出来る訳が無い。それにこの炎持ちも、今現在手には炎しか持っていなくとも、何か自分を危険に陥らせるような物を身に付けている可能性だって否めない。
炎持ちが自分に声を掛けた。顔を向けるものの、勿論その意志を理解する事は出来ない。
案の定、自分をどうするべきか困っていた。
自分もどうするべきか、少し困ってはいるのだけれど。白青混じりとは今すぐ別れたくない。
ここに留まるつもりは無くとも、一晩位は一緒に居たかった。意志の疎通も何も出来なくとも。
立ち上がって、少し歩いて手頃な木に凭れた。
取り敢えず、ここで今日は休む意志を見せておこう。そっち側の判断はそっちに任せれば良い。様子を見る限り、自分が動かなくてはいけないような事態にはならないだろうし。
そうしていると、白青混じりがこっちに来て、何やら付いて来いとでも言うように首を動かした。
え。
どういう事だろう。
炎持ちはもう先へ歩き始めていた。きっと、遠くの炎が見える場所に帰るのだろうけれど、白青混じりも?
余り、それは嫌だな。あそこには多分、炎持ち以外にもそこそこの数が居る気がした。敵意が無いとしても、信頼出来はしない。
白青混じりに対してもそうだ。親しく出来たとは言え、まだ会って一日の半分、その半分の時間すら経っていない。
例え白青混じりがそこを住処としていたとしても、特にこれから暗くなる中行こうとは思えなかった。
だから、座ったままでいる事にした。
白青混じりはそんな自分を見て、残念そうにしながらも戻って行った。
朝になった。
柔らかい眠りから目を覚ますと、目の前に白青混じりが居た。
嘘だ。何も感じなかった。
周りを意識出来ない程の深い眠りに就いていたつもりも無いのに。
本当にこいつの方が格上なのか。こうも思い知らされると、やっぱり悔しかった。
空腹は無く、空も明るくなり始めている。立ち上がって体を少し動かしてみるが、いつも通り快調だ。
味方かどうかは分からないが、敵ではない友も出来た。
盛り上がった、目の前にそびえ立つ大地をもう一度眺める。
とても高い。けれど、今は雲は無く、その頂上が見えている。木々も生えておらず、岩が丸見えになっている。
そこから見える景色はどのようなものなのだろう。そしてまた、今まで見て来た雲はどのようなものなのだろう。
ただ、一番気になるのは、炎持ちとその種が住み、そして白青混じりも居るあの場所はどのようなものなのだろうか、という事だ。
白青混じりも立ち上がって、来るか? と言うように先へ進み始めた。
ああ。行く。視界は良好。緊張を覚えながらも、歩き始めた。
高低差のある大地をずっと登って行くのは中々疲れるものだった。
時に木の幹を掴んで体を引っ張り上げ、偶に伸びた草によって見えなくなっていた木の根によって転びそうになる。
炎持ちや白青混じりがいつも通っているのか、少しは歩き易い道となってはいたが、自分の体躯で通る道ではない。前を歩く白青混じりの毛皮には何も付いていないのに対して、自分に体に枝や木が引っ掛かるのは普通だった。
また歩いている内に、体の重さが諸に疲労に直結するらしいと分かる。
軽々と障害を避けて進んでいく白青混じりが少し羨ましかった。体躯は自分程じゃなくとも結構でかい部類に入るものの、かなり俊敏な動きが出来る辺り、体重は重くない方だろう。
木をへし折ったりする事は出来なそうだが、そのしなやかな動きにはいつの間にか憧れも少し抱いていた。
この体じゃ無理だろうけど。
そんな事を思いながら、白青混じりが苦労無く進んでいくのを必死になって追いかけながら、段々と登って行く。
休みたいとも思う程に疲れていくが、まだまだ先は長いように思えた。
それに、まだ登り始めてから時間はそんなに経っていない気もする。休むにせよ、この程度の時間でへこたれてはいられない。
木を掴んで体を持ち上げる。掴んだ時に剥ぎ取ってしまう木の皮がもう腕や体に結構こびりついていた。
時々一緒に潰してしまう虫の体液も少々。舐めてもやっぱり余り、美味くないものだ。
見た事の無い果実を発見して、毒じゃない見た目だったので少しだけ齧ってまた先に進む。変な味はしなかった。
ただ、そんなに自分好みの味じゃなかった。派手に甘ったるい味だった。
突き出した岩を、白青混じりがひょいと跳んで登る。岩を掴んで体を持ち上げると、白青混じりはこっちを見て止まっていた。
流石に、自分の息が荒くなっているのを止める事は出来なかった。
ああ、くそ。心配された。
白青混じりは座って、自分の息が落ち着くまで待っていてくれた。自分が優っている点は、頑丈さと筋力しか無い気がした。
それ以外は、何も優っていないような。
嫉妬してしまうのも、仕方ない事だ。凹んでいた気持ちもそうして平常に戻そうと思った。
少しして、また登り始める。木々に視界が塞がれて上は中々見えなかったが、意外とその住処までは後少しのようだった。
炎持ちの種族の子供らしき声が聞こえて来た所まで来た。やっぱり、あの場所には結構な数が居るみたいだ。
また座って休む。足にも腕にも、今まで感じて来た疲労とはまた違う疲労が溜まりつつあった。
一応何があるか分からない。体は万全にしておきたかった。
白青混じりはそんな自分を放って、全く疲れていない様子で走ってどこかへ行ってしまった。
それは余り良い気分では無かった。いきなり何か変な事をされたら溜まったものじゃない。それに、この辺りは白青混じりのみならず、ここに居る炎持ちの種族の領域の中だ。
逃げるのさえ難しい。
そんな事を思ってしまうと、怖くなった。どうしてこんな場所に来てしまったのだろうとも。
出会ったばかりなのに白青混じりを信頼し過ぎてしまった気がした。
刃持ちと出会う前だったらそんな信頼何てしただろうか。しないだろう。
そもそも、出会った直後に戦いを挑んでいたとも思えた。
どうやら、自分は刃持ちと出会ってから変わっているらしい。それが良いのか悪いのかは分からなかった。
ただ、考えてみれば、自分が危険の中に居る事は百も承知だったが、その危険よりも白青混じりに出会えた事の方が今は良かった。
恐怖は、少し薄れた。
もし襲って来るのならば、戦ってやろう。自分は頑丈なのだ。未知が来ようとも、防御さえ出来れば大した怪我も無いだろう。
余りしたくは無いが。
殺す気で戦って来るのならば、それに応える。殺してしまったならば、白青混じりとはこれ以上親しくも出来ない。
ここに留まるつもりは大して無くとも、避けたい事ではあった。
ぱん、と以前聞いた音がして思わず身構える。しかし、かなり遠くから聞こえて来た音だったのと、別な方向からその長く尖っている物が刺さる音が続いてして、ほっとした。
辺りからまだ生物の気配は大して感じないが、一応見回した。やっぱり誰も居ない。
続いて、また音がする。
何か硬い物に突き刺しているようだ。気楽そうな声も続いて聞こえて来た辺り、自分のみで刃持ちを想像して戦うように、多分練習でもしているのだろうと思った。
疲労も収まった。立ち上がり、少しだけ近くへと歩いてみる。
多くの子供の無邪気な声が強く聞こえて来る。
子供の時は自分も同じようなものだった気がした。声こそ出していなかったと思うが、親に甘えて、何も考えずに兄姉と遊んでいた。
今となっては遠い、掠れた記憶だ。
かん、と音がして何かが飛んで来て、それが目の前に落ちて来た。
何だろう、これ。拾って眺めてみると、細い蔓を丸く固めたようなものだった。
足音がして目の前を見ると、唖然としている子供が居た。完全に、自分を見て固まっていた。
色んな固有名詞が使えない事が辛い。山とか松明とか弓とか何とか。
まあ、愚痴言っても仕方ないけど。そうやるって決めたんだし。




