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学年一の美女と美男子がこんなところで何を?

 部活動帰りの夕暮れ時の帰宅の途中。千倉ちくら あずさは学生鞄を肩に掛け、いつもの帰宅路をのんびりと歩いていた。夏が終わって暑さが和らいだと思ったら、夕方になるとすぐに肌寒くなる季節がやってきた。だけどそんなものはなんのその。みんなが「寒いね」と言っていても千倉自身は早々に衣替えで出した厚手のカーディガンも今のところ必要としていない。どちらかというと暑がりな方だから今も上はベストと長袖のシャツという出で立ちで充分だった。

 今日は委員会があったから、ちょっと疲れて小腹が減っている。所属している委員会では別に肉体労働を強要されたわけではないのだから体力は使っていないのだけど、遅い時間になると自動的に腹時計が作動するのかもしれない。とにかく、そんな理由で千倉は半分無意識に鞄の中に手を突っ込んだ。ごそごそと、中も見ずに鞄の中をかき混ぜるとすぐに目当てのものが手に触れるのが感じられる。四角い箱に薄いフィルムの感触。これだこれだ、とにっこりしてそれを鞄から引き抜いて、いそいそと箱を開けて中身を一粒口に入れると、舌の上に甘い味が広がって、噛むと中から良い音をたててアーモンドが出てきた。一見ただの茶色い物体がここまで美味しいのは奇跡的。すばらしい事だと内心で絶賛しておく。

 一度食べだすと、手は止まらずにふたつ、みっつ。いつものパターンで、気づくと箱の中身がなくなっていた。機械的に動かしていた手が宙をかいて、はっと我に返ってぎょっとする。あー、またやっちゃった。頭を抱える思い。自己嫌悪。だけど結構これもいつもの事で、またすぐに「ま、いいか」となる。これが彼女の今の体型の主な原因を成しているのだろう。

 空になったチョコレートの箱を鞄にしまって顔を上げたところで、千倉は反射的に足をぴたりと止めた。場所は丁度、近所の公園の前を横切る直前。公園の中にはもう外灯が点いていて、ぼんやりと奇妙に薄明るかった。影のコントラストは妙に濃くて、目がうまく慣らせない。それでも分かる事は、人影が2つ、ブランコの辺りにいるということだ。咄嗟さに千倉が目を逸らそうとしたのはその2人が「イケナイ事」をしているのではないかと判断したからで、プライバシー侵害良くない。だけど顔を逸らせなかったのは、その瞬間にその人影が自分の知っている人間だと認識してしまったからだ。言ってみれば好奇心、というか、悪趣味な覗き。

 ブランコに座っているのは千倉と同じ制服を着た少女で、千倉は彼女に見覚えがあった。同じ学校の、学年でも一位二位を争う美少女。千倉とは正反対の、ほっそりとしていて華奢な体。整った顔に印象的なぱっちりとした大きな黒い目。長い黒髪。透き通った白い肌。どこをどうとっても可憐で可愛い。千倉やその友人達は直接面識のない彼女を「白雪姫」と呼んである種の敬意を示していた。

 対して、彼女に密着するようにその背後に立っている長身の人影は青年。こちらも見覚えがある。同じ学校で同じ学年の有名人。つい数ヶ月前に転入してきた男の子。どこかで外人が入っているのではないかと思われる整った綺麗な顔と高い背と、異常にできる勉強という要素で非常に女子生徒たちにキャーキャー騒がれ、男子の反感を買うかと思いきや、その明るい性格と屈託のなさでいつのまにかすっかり馴染んでしまっていた、いわゆるパーフェクトな男の子。

 (どっちにしても、私とは別世界のヒトタチ)

 という自覚はある。その別世界の2人が公園でいちゃこいている! 

 目を逸らそうとした事なんてすっかり忘れて、千倉はじっくりと観察する。内心ちょっと後ろめたさを感じながら、だけども。そして、ふと気がついた。彼女が目を閉じてぐったりしていること。白い顔がいつも以上に白くて、むしろ白と言うか真っ青になっている事。両腕がだらんと両脇に垂れて、軽く口が開いていて。よく見れば、体重を全て背中に立っている彼に全て預けているように見えること。気づいてみたら、彼女自身はぴくりともしない。何かを考えるよりも、ぞっと背筋に寒気が走るのが先だった。公園の薄明るい外灯の下で、一瞬、死体? と本気で思ってしまうほどにその顔は浮かび上がるように青白くて。背後の彼の腕が伸びる。彼女の首筋に、背後から覆いかぶさるように。美男美女だけあって、それは絵になる様子だったけど、それと同時に何故かゾッとする光景だった。

このままこのことが進んで行くのをただ黙ってみているのではいけないと、警報のようなものが千倉の中で鳴った。

 かといって、どうやって止めるのだろう? 正面切って飛び込んでいって、もし本当に2人がただ、いちゃついているだけだったら?

 何か物音を立てたら、他人の存在に気づいてやめるだろうか? けれどどうやって?

 思った瞬間、鞄の中で携帯電話のバイブが震えた。メール受信のバイブ。それで、千倉は啓示を受けたようにひらめいた。その方法が最良かどうか吟味する余裕はなかった。

 携帯を取り出して、マナーモードを解除して、それからアラームで今表示されている数字の1分後の時間を設定する。思い切り、音量を最大にして。

 「登録」ボタンを押してじりじりと携帯電話をつよく握り締める。思ったよりも、待ち時間は長い。携帯を公園のブランコを交互に見詰めながらドキドキとうるさい心臓と戦っていた。

ぶる、とバイブが震える感触。同時に大音量の着メロが手の中から響き渡った。

 ちゃーちゃらららーという重苦しい、聞きようによってはおどろおどろしい曲。映画「オペラ座の怪人」のテーマソングだ。

 (合ってるっちゃー合ってるけど! 今の状況にさあ!)

でもしかし! なんでよりによってこの曲をセレクトしんたんだ自分、と泣きたい気分で自分自身につっこむ。

 音楽が鳴るとともに空気が動いたような気がした。息を潜めていたそこらじゅうのものが一斉に動き始めたような。何が変わったのか分からないけど、確かに何かが変わったような。

 どさり、という重い音を聞いて、千倉は携帯の画面に硬直させていた自分の視線を音の聞こえた公園の中に移した。ブランコの下に正に今落下したばかり、という格好で「白雪姫」が倒れこんでいて、その周囲には誰もいない。その事を不思議に思うよりも何よりも先に、走って行って彼女を助け起こした。


 (なんじゃ、こりゃー!)

 カミサマはなんて不公平なんだろう。与えるものにはとことん与える。端麗な容姿、優秀な成績、可憐なオーラ、そしてお嬢様という肩書き。 

 千倉はよろよろと歩く白雪姫を逞しく肩で支えながら、その家の門の前で立ちすくんでいた。どこからどう見ても金持ちの門構えだこの家は。門の向こうに踏み石があって、その向こうに大きそうな日本家屋が見えている。

 「あの、ありがとうございました」

 千倉の肩から手を解いて、白雪姫は深々と千倉に向かって頭を下げるから、千倉はハッと我に返る。

 「い、いえいえ。とんでもない。体調、もう大丈夫?」

 「はい。大分良くなりました」

 「良かった!」

 公園で千倉が抱え上げると、ブランコから落ちた衝撃でか、白雪姫はすぐに目を醒ました。眠たげな目を開いた彼女は訝しげな顔をして身を起こして、頭を押さえたのだ。

 「痛っ」

 「大丈夫!?」

 千倉が声を掛けると、彼女は顔を上げて千倉を見る。本当に、不思議そうに。

 「あの……」

 千倉が何を言っていいか戸惑って挙動不審になっていると、彼女は大きな目を一度瞬かせた。

 「なんでこんなところに……? ここ、どこですか?」

 「え? ここは、西公園だけど」

 「西公園?」

 覚えがないとでもいうように、白雪姫は眉根を寄せる。

 「私、学校にいたはずなのに……」

 白雪姫の呟きに、先ほどの光景を反射的に思い出して、千倉はまたゾク、と背筋が震えるのを感じた。

 「私が見つけたときは、ブランコに座ってたけど」

 「ブランコ?」

 白雪姫は不審気に問い返して、側に揺れるブランコに目を留めた。

 「覚えがない……」

 「みたいだね」

 よっぽど黒須の事を聞こうかと思ったのに、千倉はどうしてか聞けなかった。目の前の白雪姫はそれでなくとも困惑しているようなのに、これ以上余計な事を言ってますます混乱させるのは可哀想な気がしたし、それより何よりも、それを説明したら自分の覗きがバレてしまう。なんというか、こんな可憐で可愛い女の子に、『覗き女』のレッテルをはられ、蔑まれるのは避けたい。極力。

 「とりあえず、帰らない?」

 千倉の提案に、白雪姫はハッと我に帰って頷いた。立ち上がろうとして、足元がふらふら、と定まらないから千倉が自分からその家まで送る事を提案したのだ。

 細いその腕が首に回ると、華奢なその感触に同性と思いながらもドキッとしてしまったのは内緒だ。

 

 「あの、すいません。こんな事までして頂いた挙句、とても失礼だと思うのですが」

 白雪姫は踵を返そうとした千倉に、女子の千倉でさえキュンとするような上目遣いで言う。

 「え?」

 「同じ学校の方ですよね? お名前、教えて頂いてもいいですか?」

 (あ。そりゃそーよね。龍川さんは有名人だから私でも知ってるけど……)

 千倉はあはは、と笑って納得する。

 「千倉です。千倉梓です」

 「千倉さんですね。今度改めてお礼に伺います」

 「え!? いいよー! 気にしないで」

 千倉がぶんぶんと顔の前で手を振ると、白雪姫はちょっとだけ口元をはにかむような形にした。それだけで、可憐度が20%くらいアップしたように感じる。

 「本当に、ありがとうございました」

 白雪姫に見送られながら千倉は今度こそ、家路を急いだのだ。

ずっとひた隠しにしていた別館サイトもそろそろ時効だろうと思ってマシなやつだけこっちに転載です。

「予定掲載」の機能使ってみたかったので週1くらいのタイミングで予定掲載しようかなぁと…。

あ、すみません。読み直してないので当時の誤字脱字はそのままです。

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