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彩を忘れた私の世界  作者: uniーうに


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彩《いろ》のない世界

 学校は嫌いだ。

 

 勉強が嫌いなわけじゃない。

 友達が嫌いなわけでもない。

 先生が嫌いなわけでもない。

 それでも、学校は嫌いだった。

 あそこでは、誰もが「正しさ」を探している。


 間違えないこと。

 浮かないこと。

 空気を読むこと。

 気づけば私も、そのいろのない世界の中で息をしていた。


 毎日同じ景色。

 同じ教室。

 同じ言葉。

 私には、その世界が色褪せて見えた。

 

 あの頃の私は、それを普通だと思っていた。


 朝、家を出て、いつもの道を歩く。

 駅に着けば、いつもの電車に乗る。

 学校に着けば、いつもの教室へ向かう。

 何か特別なことがあるわけでもない。

 ただ、それが毎日繰り返されていた。


 教室の扉を開ける。

「おはよー」

「おはよう」

 何人かに声をかけられ、私は小さく頭を下げた。

 自分の席に座り、鞄から教科書を取り出す。

 前の席では、二人のクラスメイトが昨日のテレビの話をしていた。

「昨日のやつ見た?」

「見た見た。あれ絶対――」

 楽しそうな声が聞こえてくる。

 私はその会話に入ることもなく、机の上を整えた。

 しばらくすると、隣の席の友達がやってきた。

「おはよ、雫」

「おはよう」

「今日の一時間目、歴史だよね?」

「うん」

「小テストとかあったっけ?」

「……どうだっけ」

「まあ、どうせできないんだけどね」

「その時の自分に任せよう」

 そんな他愛もない会話をしているうちに、予鈴が鳴った。

 みんながそれぞれの席へ戻っていく。

 先生が教室に入ってくる。

「授業始めるぞ」

 教室が静かになる。

 一時間目が始まった。


 先生が黒板に今日の日付を書き、その下に大きく文字を書いていく。

『歴史とは何か』

「今日は少し趣向を変えてみようか」

 先生が教壇に立つ。

「みんな、歴史って何だと思う?」

 突然の質問に、教室が静かになった。

「昔にあったこと?」

 誰かが答える。

「そうだな」

 先生は頷いた。

「じゃあ、昔にあったことを、どうやって今の私たちは知る?」

 今度は別の生徒が手を挙げた。

「教科書?」

「その通り。じゃあ、その教科書は何をもとに書かれている?」

「……資料とか?」

「そう、資料。つまり記録だ」

 先生は黒板に一つの言葉を書いた。

『記録』

「歴史というのは、過去に起きた出来事そのものじゃない。残された記録をもとに、私たちが過去を知ろうとするものなんだ」

 私は何となく、その文字を見つめていた。

「でもな」

 先生がチョークを置く。

「記録されなかったことは、どうなると思う?」

 誰も答えなかった。

「……存在しなかったことになる?」

 少しの沈黙のあと、後方から、誰かが小さく言った。

 先生は少しだけ笑った。

「そう考えることもできる。でも、本当にそうかな」

 私は顔を上げた。

「記録を残したのは、その時代を生きた人間だ。書いた人間にも、その人間なりの立場や考えがある」

 教室の空気が少し変わった気がした。

「だから、歴史を学ぶときは、書かれていることを覚えるだけじゃなくて――」

 先生が黒板にもう一つの言葉を書く。

『なぜ、そう書かれたのか』

「そこまで考えてみると面白い」

 私はその言葉をノートに書き写した。

 なぜ、そう書かれたのか。

 そのときは、それがどういう意味なのか深く考えなかった。

 ただ、少しだけ気になった。

「さて、ここからが今日の課題だ」

 先生がプリントを配り始める。

「次回までに、国家を一つ選んで、その歴史を調べてきてもらう」

 教室から小さな声が上がる。

「先生、どんな国でもいいんですか?」

「構わない。ただし、できるだけ複数の資料を調べること」

 私は配られたプリントを見る。

 課題の欄には、『その国家について、あなたは何を知ったか』と書かれていた。

 何となく、面倒そうだと思った。

 それでも、やらないわけにはいかない。


 放課後。

 私は図書室へ向かった。

 スマホで検索すれば、きっと簡単に見つかる。

 そう思ったけれど、課題には『複数の資料を調べること』と書かれている。

 それなら、図書室で本を探した方が早い。

 そう思っただけだった。

 図書室の扉を開ける。

 静かな空気が流れていた。

 受付にいた司書さんへ軽く会釈をして、歴史の棚へ向かう。

 

 世界史。

 地域史。

 背表紙を目で追いながら歩いていく。

 有名な国の名前が並んでいる。

 けれど、どれも知っているものばかりだった。


「……ないな」


 小さく呟いて、さらに奥へ進む。

 すると、他の本より少しだけ古びた棚が目に入った。

 普段なら、気にも留めなかったと思う。

 けれど、その棚の端に、一冊だけ妙に古い本が置かれていた。

 私は足を止めた。

 表紙には、見慣れない文字が並んでいる。

 そして、その下に日本語でこう書かれていた。

『レオニス帝国史』

「……レオニス?」

 知らない国だった。

 私はダルマン・アルバートという人によって書かれたその本を棚から取り出した。

 表紙についた埃を軽く払う。

 そして、何気なくページを開いた。

 そこには、こう記されていた。

 ――かつてレオニス帝国は、大陸最強の国家としてその名を轟かせていた。

 私は、ページをめくる手を止めた。

 こんな国の名前を、私は一度も聞いたことがなかった。

 大陸最強なのに。

 なぜ、この国は歴史から消えたのだろう。

 その疑問が、初めて私の中に生まれた。

 今も尚、存在している国の多くは昔から続く大国である。

 私が住んでいるこの極東の島国である八咫国も政治体制は変わりつつも古の時代から続く大きな影響力を持つ国の一つである。

 そんな疑問を持ちながら史書を読み進めるとさらに不思議な内容を目にする。

 — —大国であったレオニス帝国は最盛期の三代目皇帝アシュ・レオニスの治世でその歴史に幕を下ろした。

 最盛期を迎えた大国を滅ぼしてしまう原因には何があるのだろうかと思いながらページをめくった。

 

 白紙だった。


 ページをどれだけめくっても続きは書かれていなかった。

 疑問を抱きながらも続きが書かれていないなら仕方がない。

 別の本を探すかと思い、本を閉じようとしたとき私の身体は本の白紙ページから出る光に包まれた。


 眩しさのあまり閉じた目を開いてみるとそこは学校の図書室ではなかった。

 学校の教室などとは比べ物にならないくらい高い天井、辺り一面豪華な装飾の施された壁、今まで見たことない大きさのシャンデリアがそこにはあった。

 主に白金で彩られた絢爛豪華な部屋のあちこちに、深い青の装飾が使われている。

 私はその部屋のふかふかな大きなベッドの上に横たわっていた。

 何が起こったのかわからない。

 ただ確実に言えることは、十七年間過ごしてきた場所とは違うということだ。

「ここは、どこなんだ?」

 その声は部屋中に響いた。

 決して低くはないが、威厳に満ちた声だった。


お読みいただき、ありがとうございました。


人生で初めて作品を投稿したため、まだまだ至らない点も多いかと思います。

もしお気づきの点やアドバイスなどがありましたら、ぜひ今後の作品づくりの参考にさせていただきたいと思います。


また、現在書き終えている第13話以降は、学業との兼ね合いもあり、更新頻度が遅くなる可能性があります。

その点につきましては、あらかじめご理解いただけますと幸いです。

作品の更新は17時です。

これからも少しずつ作品を作り上げていきたいと思いますので、今後ともよろしくお願いいたします。

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