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【最弱】金コイ縛りのモンスター育成ゲーム暗躍記 ~前世のゲーム知識で黒歴史を回避していたら〈金鯉の賢者〉と呼ばれるようになっていた  作者:
10周年の黒歴史

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第5話 すもうとりのカジキマル

〈ソルトシェイカー〉は広域に塩をばらまき、敵味方関係なく、命中率を大きく下げるスキルだ。


“アカン! めっちゃ目ぇ染むっ!”


 ハネさんが悲鳴をあげる。

 オレも戦況を把握しづらい。

〈ソルトシェイカー〉の効果範囲にはドヒョウガメ自身も含まれるが、そこは計算済みらしい。


「〈ショットガンはりて〉!」

「ドヒョッ!」


 ズバン!


 ドヒョウガメは通常の〈はりて〉の10分の1のダメージの散弾型エネルギー弾を10発放つ張り手技を繰り出す。


〈ソルトシェイカー〉の目潰し効果で命中率は下がっているが、散弾なので半分くらいは当たってしまう。


 半分あたれば充分なダメージを出せるよう攻撃力を鍛えているようだ。


 今度はハネさんのほうが吹き飛ばされた。


「ハネさん!」


“どってことない!”


〈ぴちぴち〉で受け身を取って体勢を立て直し、ハネさんは追撃の〈ショットガンはりて〉を回避する。


 しかし、とにかく攻撃面積が広い。


 カスあたり的な被弾はかわし切れなかった。


”厄介やな。塩が抜けたところで突っ込んで決めよか”


――〈びったん〉で行けるか?


”問題ない。やられる前にやれるかどうかだけの勝負や”


――こっちで合図をさせてくれ、ちょっと思いついたことがある


”おもろそうやな。読まれるかも知れんけど、まぁそうなったらそうなったでしゃあない”


 転生者リンクでオレの思考を読んだハネさんは瞬時に同意した。


〈ソルトシェイカー〉の効果時間はおよそ60秒。


 塩気による視界の歪みから回復したハネさんが”行けるで”と告げる。


「ハネさん! 〈きゅうよのさく〉!」


 命中率は低いが残りHPが減るほど威力を増す肉弾ロマン技。


 対するカジキマルは〈ソルトシェイカー〉で充血した目を見開き「〈うっちゃり〉!」と指示を出した。


〈ソルトシェイカー〉を使う前提なら、ゴーグルぐらいつけても良さそうなものだが、そこは力士的にダメなのだろうか。


〈うっちゃり〉は、相手の攻撃を受け止めてダメージを100%カット、さらに格闘ダメージを叩き込む相撲系テラモンの得意スキルである。


 相手の攻撃タイミングに合わせて出せば必中。


 すでにダメージが入っているハネさん相手に決まればフィニッシュスキルとなりそうだが、難点として、相手の使用スキルが近接攻撃スキルでない場合は次のターン行動不能というペナルティが発生する。


 つまり、


“残念やけど〈ぴちぴち〉や”


 ハネさんが目の前で跳ね上がってしまうとムダ撃ちとなる。


〈ショットガンはりて〉を撃たれていたらここで撃墜されている可能性のほうが高かったが、こちらの口〈くち〉プ(・・)がうまくはまった。


 口頭で〈きゅうよのさく〉を指示しつつ、転生者リンクで〈ぴちぴち〉を出すよう申し合わせをしておく。


〈うっちゃり〉についてはドヒョウガメがレベル12で習得するスキルである。


〈ソルトシェイカー〉みたいな自他無差別型撹乱スキルを入れているのにせっかくの必中スキルを外しているとは考えにくかった。


 ――〈びったん〉!


”いくで!”


 失策を悟ったカジキマル、ドヒョウガメが立ち尽くす中、〈びったん〉が一閃。


 ビタァァァーン!


 痛烈な打撃音とともに、目を渦巻状にしたドヒョウガメが吹き飛び、ひっくり返る。


『ドヒョウガメ、ノックダウン。勝者はハネコイ&一本槍!』


 桐生オーナーの声が響き、ハネさんとオレのアリーナデビュー戦は幕を閉じた。


 スマホのテラモンアプリがピコンと音を立て、ハネさんのレベルが15から16になったことを告げた。


 ゲームだとここで現金を貰えたのだが、それをやるとさすがに賭博っぽくなりすぎるということで500TP、つまりテラモンポイントが振り込まれた。


 アリーナのスポンサー企業が用意したテラモングッズや、ガチ目のテラモン育成用アイテム、浮橋亭のような公認店舗の飲食などに使うことができる。


 ダウンしたドヒョウガメをボトルに戻したカジキマルは、無念を押し殺すような表情で鼻で深呼吸をすると「対戦ありがとうございました」と告げた。


「こちらこそありがとうございました」


 長話をしたいような気分でもないだろうし、次の試合もあるはずだ。


 そのまま立ち去ろうとすると、カジキマルは「こちらには、よくお越しになるんですか?」と尋ねてきた。


「そうですね、家と職場が近くなので」

「それでしたらまた是非、対戦をお願いします」


 威圧的な調子ではないが、強烈な闘気を感じさせる声。


 テラモンマッチでは勝てたが、リアルファイトをやったらカトンボのように投げられてしまう相手なのだろう。


”ああ、いつでも相手になったるで”


「いつでも相手になると、ハネさんが言っています」


 冗談めかしてそう伝え、アリーナを後にした。


◇◇◇


 そして翌朝。


 オレとハネさんは再び浮橋亭を訪れた。


 平日のこの時間帯はアリーナもミッション受注もやっていない。


 単純に朝食目的である。


 この時間帯にはルカも桐生オーナーもいない。


 代わりに高校時代のオレの同級生である朝倉シオが切り盛りしている。


 同級生と言っても学生時代に会話をしたことはない。

 浮橋亭に出入りするようになったことで今年から交流を持つようになった。


 人目につかない奥のボックス席にハネさんを出し、テラモンスコーンとベーコンエッグ、サラダのモーニングメニューを片付けていると、マガジンラックに相撲雑誌が置いてあるのが目に入った。


 見覚えのある力士の写真が表紙を飾っている。


――――――――――――――――――――――――――

【季刊 力士】

 無敗の超新星 神喰丸かじきまる 初入幕初V!

――――――――――――――――――――――――――


 だそうである。


 昨日テラモンマッチをしたすもうとりのカジキマルが映っていた。


 初位アリーナのリーダーにしては雰囲気があると思ったが、人間同士の普通の相撲では普通に一流どころだったようだ。


 コーヒーを呑みながら記事を読む。


 初土俵から入幕まで無敗。

 今年5月に行われた夏場所で初入幕での全勝優勝を成し遂げた若き怪物力士だそうだ。


 優勝したら即横綱というような業界ではないので番付は東前頭筆頭の位置に留まっているが、近い将来の大関、横綱の呼び声も高い。


 学生相撲経由での入幕なので年齢は23歳、史上最短幕内優勝者としてはやや年長となる。


 相撲に興味がなかったので知らなかったが、相当に世間を騒がせた人物だった。


 ――年下か。


 オレのほうが2歳年上になる。

 社会的地位やら年収とかだと圧倒的に向こうが上だろう。


 すもうとり、というとネタキャラ感が出てしまうが普通に超大物だ。


“えらいのとマッチングしとったもんやな“


 2人して妙な感心をしていると、キッチンで働いていた朝倉シオがリンクテラモンのサルブリッジたちを連れて顔を出した。


 サルブリッジは子猿型、10匹で1リンク扱いの群体テラモンだ。

 得意スキルは10匹でハシゴ状に合体して橋や梯子をかける〈さるばし〉

 バトルの役には立たないが、工事現場や救助作業などで活躍するスキルになる。


 シオの場合はバトル志向はないので、サルブリッジたちも配膳や調理補助が主な役割となり〈さるばし〉の用途も高いところのものを取ったり掃除をしたり、といったあたりである。


「おはよう。伊勢くん、おお、本当にテラモンいる」

「ウキー」


 ハネさんのことは説明していないが、入店時に人間1、テラモン1と伝えてある。


「綺麗なハネコイだねー。看板テラモン的な感じ?」


 シオはオレと同じ25歳。

 大学を卒業してからは製パン会社に就職したが色々あって退職。なんとなく採用試験を受けた浮橋亭の水が合い、今は早番の責任者として活躍している。


「昨日の仕事中に釣り堀に紛れ込んできたから捕まえたんだ。人前に出すと譲れとか売れとか言われそうだから看板にはしないかな」


 釣りゲームの賞品にすれば盛況になりそうだが、そういう扱いができるテラモンじゃない。


「そっか」と言ったシオはオレの手元の相撲雑誌に視線を向けた。


「伊勢くんって相撲見るの?」

「いや、昨日来たときにこの人と対戦したんだ。有名な人だったのかってびっくりしてたところ」

「今年に入って急に有名になったらしいからねー。学生の頃はテラモン相撲の人だったらしいよ。テラモン相撲のために自分も相撲の勉強している内にプロになっちゃったらしいけど」


 だいぶ異色の経歴の持ち主だ。


 ただ、なぜだろう。


 いつか、どこかで聞いたような気がした。

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