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2章ー3…サマステリアの問題


 リュドミラは着いたその日のうちに着替えてそのままエレイン商会へと向かった。


 馬車でリストン辺境伯の城から20分走らせた街中に大きな看板を掲げている建物は、昔より少し古びたように感じたが、リュドミラは懐かしくて胸が高鳴った。


 事務所に入ると、リストン辺境伯家の執事デービッドが待ってくれていた。

 


 「――デービッド!久しぶりだね!ミラだよ!わかるかい?」



 「なんと!これはこれは美しい男性??に成長されまして!・・・喜んでよいのでしょうか?」



 再会を喜ぶデービットは、何とも微妙な表情になりながらも微笑んだ。



 「勿論だよ!ここにいる間は17歳位の少年ミラだと思ってくれ!頼むよ!」



 戸惑うデービッドに、にこにこと歯を見せて笑うリュドミラは、美しくもやんちゃな少年だった。



 「承知いたしました!ではミラ様にはレキアラ領の物流取引の補助と、全般のサポートをお願いする予定ですので、担当者たちをまずはご紹介いたしましょう!」


 

 デービッドに呼ばれてきた3人は、どうやら自分と懐かしい顔ぶれの同世代の青年淑女のようだ。


 

 「恐らくミラ様は覚えていらっしゃるとは思うのですが、左からダッツ、ロベルト、ヘレンです。

 ここでレキアラ領の物流取引関連の事務作業や、営業をしております。恐らく本人たちと直接話していただいた方が早いかと思いますので、私は失礼いたしますがよろしいでしょうか?」



 「――あぁ!覚えているとも!デービッドありがとう!」



 デービッドはにっこり微笑むと、「では失礼いたします。」と、挨拶を交わして城へ戻っていった。



 「――おいおい!!めっちゃ男前になったじゃないか!!本当にミラなのか?!」



 「ダッツ!元気そうで何よりだよ!ここでは私は男だ!昔のように仲良くしてくれると嬉しいよ!」



 「ミラ久しぶりね!ヘレンよ!覚えてる?こっちはロベルト!私たち結婚したのよ!」



 「ヘレン!もちろん思えているよ!とっても美人になったね!見違えたよ。

 ――それにロベルトと結婚したの?!・・・驚いたな。仲睦まじくしているようで、私まで嬉しいよ!」



 3人はリュドミラがサマステリアで暮らしていた6年の間、ずっと仲良く遊んだ幼なじみたちだった。

 彼らの両親たちがエレイン商会で働いていたので、いつも会うことが多くて自然と仲良くなっていたのだ。



 (――そういえばシリルともみんなで一緒に遊んでいたんだよね・・・)



 ふと昔のシリルの笑顔を思いだし、再び胸が苦しくなる。


 リュドミラは打ち消すように気持ちを切り替えようと呼吸を整えた。

 業務を彼らは説明してくれたので、まずは簡単にできる仕事からさせてもらう事にした。



 昔はずっとここにいると思っていた為、リュドミラは本格的に学ぶために一日遊ぶ時と食事の時と寝るとき以外ここに入り浸っていた想いではある。



 ――しかし、今回は短期療養のつもりなので、いつまでいられるかわからない。



 短い時間であっても、白色病の患者たちの暮らしも視察したいと考えていた。

 何よりも打ちのめされた気持ちを少しでも落ち着かせたかった。

 だからこそ、無理せず働くのはお昼までにさせてもらう予定だ。


 それでも昔本格的にサポートの仕事を担っていたので、話を聞けばすぐに勘を取り戻すことはできそうだ。

 予定以上の仕事をサクサクこなすリュドミラを、羨望の眼差しでこっそりと幼馴染み3人は見つめていたのだった。


 

 「――ミラ!ほんと昔っから才能あるとは思ってたけど、計算は早いし企画や見積もりの読破に把握も早い!すげーよ!」



 ダッツは目を輝かせて褒めてくる。



 「あはは、褒めすぎだよ!体が覚えていたからか、この仕事は本当にとても楽しくて仕方ないよ!また明日もよろしく頼むね!」


 

 リュドミラは友人と気兼ねなく話せる心地よさに、『第二の故郷にまた戻ってこれて本当に良かった。』と、しみじみリュドミラは感じたのだった。




 ***




 午後からは町の白色病を患う人たちの生活を見学させてもらう為に、まずは街を歩き回ってみることにした。


 昔から護身術も修得しているし、小型ナイフも持ってはいるので心配はしていない。一人でずんずん色々な場所へリュドミラは歩いて回った。



 (――・・きっとこんなところをマリアが見たら卒倒するだろうけれど、今は男だし大丈夫!)



 リュドミラは『男だから!』という謎の言い分で、なんでもやりかねないような勢いを持っていた。



 街の白色病の住民たちは、色素が薄い事以外健康な人間と全く変わりない。


 自分もそうだったように、白色病患者もサマステリア領では日光が当たらないので安心して過ごせるからなのだろう。


 白色病の住民たちは気さくに話をしてくれる。――それに、様々な知識を持っている者たちが多かった。



 きっと生まれた時から室内で過ごすことを強制されていたので、本を読むことが楽しみだったに違いない。



 皆とにかく知識豊富なのだ。



 例にもれず、リュドミラも4歳までは外に出歩くことを禁止されていたので、楽しみは読書だった。


 おかげで文章を読む速さは、なかなかの早さだと思う。――けれど、一つ物凄く気になることがあった。



 【街の白色病の女性たちの髪】だ。ショートカットの髪型の女性が異様に多いように感じた。

 


 貴族でなければ髪の毛を長く伸ばさなくても問題はないが、それにしても結婚適齢期の女性ならば、自分を美しく魅せるために平民ですらも髪を伸ばす女性は多いと聞いている。


 それなのに、サマステリアの白色病の若い女性たちはなぜか髪の毛が短いのだ。



 不思議に思い聞いてみると、数年前から髪の毛の短い少女を養子に探す貴族が多かったらしい。

 養子にして欲しさに髪の毛を短くする白色病患者の女性が増えたのだという。



 その話を辿っていくと、その原因がシリルだという事がわかった。



 人探し自体は問題ではないと思うが、その探しているのが高貴な貴族であると周知されたことで、このあたりの貴族が率先して白色病の髪の毛の短い少女を集めていたのだという。

 住民たちからの話を聞く中で、最も多く名前が挙がった貴族がアルテンド伯爵であった。


 更にここ最近は、白色病の子供たちの行方不明事件も多発しているということで、街では治安が保たれていないことが問題視されているらしい。

 


 (――元々サマステリアはそんなに治安は悪くなかったはずなのに―――。)



 まさかシリルの人探しが発端でこんなことが起こっていたとは信じられず、リュドミラ自身も申し訳ない気持ちになった。


 シリルが人探しに躍起になったのは『ミラ』を探す為だったのだから。――しかし、アルテンド伯爵の治める領地は東部であった。



 (――何故北部に??しかも養子にしたのはミラだけではなかったという事??)



 根拠などない。――しかし、サマステリアに来て心の平静を取り戻したリュドミラは、自分の直感が【何かある】と告げていた。



 これはリュドミラが直接関わるべきではない大きい問題でなのかもしれない。



 胸が緊張と動揺でざわめき、見ないふりをしたくなる。



 ――それでも、発端になった原因の『ミラ』として、この問題は放っておくわけにはいかない。




 リュドミラは強く感じたのだった。



 

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