2章ー2…男になります!
「――ミラっ!よく来たね!」
「伯父様!!伯母様!ご無沙汰しておりますわっ!!お変わりなさそうで何よりですっ!!」
素敵な笑顔でリストン辺境伯夫妻である伯父と伯母は出迎えてくれた。
約9年ぶりの再会にも拘わらず、まるで親子のように抱擁を交わしていく。
まずは滞在する部屋を案内してもらい、簡単に荷ほどきをした後でもう一度決意を改め、リュドミラはリストン辺境伯の元へ向かうことにした。
サマステリア領へ逃亡すると決めてから、一週間も経たずに王都のシアンテ公爵邸を出発した。
来る途中の馬車の中でも、マリアに散々小言のように説明を要求されて彼女がなっとくするまで丁寧に何度も説明をくりかえしたのだった。
ずっと話続けていた上に3日も馬車に揺られていたリュドミラは、すぐにでもベッドにダイブしたい位には疲れている。
――それでもまずは協力をお願いしなきゃならない
ここに到着するまでに、じぶんを取り戻すためにどうすべきかずっと悩んでいた。
沢山マリアとも話した結果、私は童心に一度帰りたいと思ったのだ。
昔サマステアで暮らしていた頃は、まるで男の子のようなフードとパンツルックで過ごしていた。
こちらに来てまで令嬢でい続ければ護衛も必要になるし、どんな迷惑をかけるかわからない。
(――男になれば、変装するだけでどこにでも行けるようになるわ!
昔鬘だって被ったことはあったのだから!きっとできるっ!)
リュドミラはどうにかしてリストン辺境伯を説得し、新しい生活を得ようと気持ちはとても高揚していた。
先日までの死にかけ令嬢はどこへ?と聞きたくなるほどの変わり身の早さではあったが、マリアはそんなリュドミラを微笑ましく思っていた。
彼女にとって、リュドミラが元気でいてくれることが何よりの幸福だったのだから。
***
「伯父様。こちらに招いてくださってありがとうございます。今日は暮らしていくにあたって、一つとても大切なお願いがあるのです。聞いていただけませんか?」
「そんな畏まる必要はないさ!何でも言ってごらん。」
子供のいないリストン辺境伯夫妻にとって、リュドミラは我が子も同然にかわいがっていた。そんなリュドミラの頼み事をリストン辺境伯が聞かない訳がない。
「単刀直入に申し上げますと、私・・【男】になりたいんです!」
「―――なんだって??」
リュドミラの率直な物言いにリストン辺境伯は唖然とした。
「――ごめんなさい。説明させていただくと、私がこの姿で例え町娘に変装しても、令嬢だとすぐにバレてしまうと思うのです。
品位を守るためにも私は常に令嬢として心掛けなければなりません。――ですが、私はここで自分を取り戻したいのです!
品位に囚われていては私は自分を取り戻せる気がいたしません。
昔ここで過ごした時のように、のびのびと走りまわり、好きなことは夢中になって頑張って、みんなで笑顔で語り合いたいのです。
ここでの生活の間だけ鬘をかぶり、胸当てで胸を隠し、男装をして少年のような言葉使いで過ごすことをお許しいただけませんか?」
神妙な面持ちで話を聞いていたリストン辺境伯は、嘆息すると「わかった」と困り顔になりながらも微笑んでくれた。
「――ところで、鬘も胸当ても男物の服もあるのかい?」
「いえ・・これから見繕おうかと・・」
「――そうなのか!それならば私にまかせなさい!我がエレイン商会ならその位簡単に揃えられる!」
「ありがとうございます!伯父様!」
突然のお願いを聞き入れてくれるだけでなく、リストン辺境伯は積極的に力を貸してくれる。
優しい心に触れてこころがじーんと暖かくなる。リュドミラは嬉しくて堪らなかった。
「・・・だけど、たまには美しいミラの令嬢の姿も見せておくれ。」
慈愛の籠った微笑みでリストン辺境伯はリュドミラの頭をポンポンと優しく叩いた。
***
伯父の用意してくれた男装セットはとても素晴らしかった。
まるで昔のミラがそのまま男の子として成長したかのような姿になれたのだから。
リュドミラの身長は170cm前後だったので、10代の少年としてなら通るだろうという見解だった。
鬘は昔を思い出すような白に近い金髪2セット。
シャツは白の清潔感があるもので、ゆったりしたものをを3種類。
トラウザーは動きやすいように細身のタイプの色違いを3種類。
胸当ては伸縮する固めのゴムの素材なのに、コルセットのように紐で調整できるので苦しくならない程度に装えそうなものを2セット。
靴も走り回りやすいくるぶしより少し上までのブーツを2セット。
完璧すぎる男装セットだ。
「!!!!!」
リュドミラの着替えを楽しみに待っていたリストン辺境伯夫妻とマリアは、着替えたリュドミラを見て言葉を失った。
「・・美しい――。」
男装したリュドミラは麗人のように麗しく、儚い美少年に生まれ変わっていた。
豊満な胸はしっかりと押しつぶされ、17~20歳くらいに見えなくもない。
「――まぁまぁまぁ!美しい娘だけじゃなく、美しい息子までできてしまったわ!!私は幸せねっ!」
リストン辺境伯夫人は興奮し、リストン辺境伯に落ち着くようにあやされている。――しかし、リストン辺境伯夫人の意見に皆同意だった。
「伯父様!伯母様!ありがとう!私はこの姿のうちは息子だけど、迷惑かけないように頑張るよ!」
早速少年になり切って楽しそうに声に出して笑ったり話しているのはいつぶりだろうか。
マリアの目には、リュドミラはとても幸せそうに見えた。
リュドミラがどん底からでも這い上がる心の強さを失わずにいてくれたことを、マリアは幸せに感じずにはいられなかった。
(――――さぁ、今日から私の男装生活だ!!)
心の中で声高々にリュドミラは新しい生活を喜んだのだった。




