2章ー3…幼なじみたち
リュドミラは着替えてそのままエレイン商会に向かった。馬車で20分走らせた街中に大きな看板を掲げている建物は、昔より少し古びたように感じたがリュドミラは懐かしくて胸が高鳴っていた。
事務所に入ると、リストン辺境伯家の執事デービッドが待ってくれていた。
「デービッド!久しぶりだね!ミラだよ!わかるかい?」
「なんと!!これはこれは美しい男性???に成長されまして!・・・喜んでよいのでしょうか?」
「勿論だよ!ここにいる間は14歳位の少年ミラだと思ってくれ!頼むよ!」
戸惑うデービッドに、にこにこと歯を見せて笑うリュドミラは美しくもやんちゃな少年だった。
「承知いたしました!ではミラ様にはレキアラ領の物流取引の補助と全般のサポートをお願いする予定ですので、担当者たちをまずはご紹介いたします!」
デービッドに呼ばれてきた3人はどうやら自分と同世代の青年淑女の様だった。
「恐らくミラ様は覚えていらっしゃるとは思うのですが、左からダッツ、ロベルト、ヘレンです。ここでレキレアの物流取引関連の事務作業や、営業をしております。恐らく本人たちと直接話していただいた方がよろしいかと思いますので、私は失礼いたしますがよろしいでしょうか?」
「あぁ!覚えているとも!デービッドありがとう!」
デービッドはにっこり微笑むと、「では失礼いたします。」挨拶を交わして屋敷へ戻っていった。
「おいおい!!めっちゃ男前になったじゃないか!!本当にミラなのか?!」
「ダッツ!元気そうで何よりだよ!ここでは私は男だ!昔のように仲良くしてくれると嬉しいよ!」
「ミラ久しぶりね!ヘレンよ!覚えてる?こっちはロベルト!私たち結婚したのよ!」
「ヘレン!!もちろん思えているよ!とっても美人になったね!見違えたよ。それにロベルトと結婚しているとは驚いたな。仲良さそうで私まで嬉しいよ」
3人はリュドミラがサマステリアで暮らしていた6年の間ずっと仲良く遊んだ幼なじみたちだった。彼らの両親たちがエレイン商会で働いていたからいつも会うことが多くて自然と仲良くなっていた。シリルともみんなで一緒に遊んだよね・・・フッと昔のシリルの笑顔を思いだし、胸が苦しくなった。打ち消すように気持ちを切り替えると、業務を彼らは説明してくれて、簡単にできる仕事からさせてもらう事にした。
昔はずっとここにいると思っていたから、本格的に学ぶために一日遊ぶ時と食事の時と寝るとき以外ここに入り浸っていた想いではあるけれど、今回はいつまでいられるかわからないし、白色病の患者たちの暮らしも視察したいと考えていた。それに気持ちも落ち着かせたかったから、働くのはお昼までにさせてもらう予定。
それでも昔本格的にサポートの仕事を担っていたから、話を聞けばすぐに勘を取り戻せた。予定以上の仕事をサクサクこなすリュドミラを羨望の眼差しでこっそりと3人は見ていたのだった。
「ミラ!ほんと昔っから才能あるとは思ってたけど計算早いし、企画や見積もりの読破に把握も早い!すげーよ!」
ダッツは目を輝かせて褒めてくれた。
「はは。褒めすぎだよ!でも体が覚えているからかこの仕事はほんとと楽しいね!また明日もよろしく頼むよ!」
リュドミラは友人と気兼ねなく話せる心地よさに、第二の故郷にまた戻ってこれて本当に良かった。しみじみ感じていた。
午後からは町の白色病を患う人たちの生活をのぞかせてもらうために、まずは街を歩き回ってみた。念のため護身術も修得しているし、小型ナイフも持ってはいるので一人でずんずん色々な場所へ歩いて回った。
・・・きっとこんなところをマリアが見たら卒倒するだろうが・・今は男だし!
リュドミラは男だから!という言い訳でなんでもやりかねないような勢いを持っていた。
街の白色病の住民たちは、色素が薄い事以外健康な人間と全く変わりなかった。サマステリアでは日光が当たらないので安心して過ごせるからこそなのだ。
白色病の住民たちは気さくに話をしてくれるし、様々な知識を持っている者たちが多かった。きっと生まれた時から室内で過ごすことを強制されていたので本を読むことが楽しみで、知識が皆豊富なのだろう。例にもれず、リュドミラも4歳までは外に出歩くことを禁止されていたので、楽しみは読書だった。おかげで分を読む速さはなかなかだと思う♪
そして一つ物凄く気になることがあった。
街の白色病の女性たちの髪だ。少し短めの女性が多いように感じた。
貴族でなければ長くしなくても問題はないが、それでも結婚適齢期の女性は自分を美しく魅せるために、平民ですらも髪を伸ばす女性は多いと聞いていた。
不思議に思い聞いてみると、去年まで階の毛の短い少女を探す貴族が多かったのだという。その話をたどっていくとその大元がシリルだという事がわかった。
人探し自体は問題ではないと思うが、その探しているのが高貴な貴族であると周知されたことで、このあたりの貴族が率先して白色病の少女を集め髪を切ってしまったのだという。
・・・そして住民たちからの話を聞く中で、最も多く名前が挙がったのがアルテンド伯爵であった。
更にここ最近は白色病の子供たちの行方不明事件も多発しているということで、街では問題視されているとのことだった。
「・・・・・」
たしかアルテンド伯爵の治める領地は東部だったはずだ。何故北部に??しかも養子にしたのはミラだけではなかったという事か?
根拠はなかった。しかし、サマステリアに来て心の平静を取り戻したリュドミラは、自分の直感が【何かある】と告げていた。
きっと私が直接拘わらない方が良いのだろう。しかし、ミラを通してでも、この話はシリルに伝える必要がある気がした。