2章ー2…男になります!
「ミラっ!よく来たね!」
「伯父様!!伯母様!ご無沙汰しておりますわっ!!お変わりなさそうで何よりですっ!!」
素敵な笑顔で伯父様と伯母様は出迎えてくれた。約9年ぶりの再会にも拘わらず、まるで親子のように抱擁を交わした。
まずは滞在する部屋を案内してもらい、簡単に荷ほどきをした後でもう一度決意を改め、リュドミラは伯父様の元へ向かうことにした。
来る途中の馬車の中でも、マリアに散々小言のように説明を要求されて丁寧に説明した。ずっと話続けていた上に3日も馬車に揺られていた私は、すぐにでもベッドにダイブしたい位には疲れている。
それでもまずは協力をお願いしなきゃならない!
ここに到着するまでに、じぶんを取り戻すためにどうすべきかずっと悩んでいた。沢山マリアとも話した結果、私は童心に一度帰りたいと思ったのだ!
昔サマステアで暮らしていた頃は、まるで男の子のようなフードとパンツルックで過ごしていた。こちらに来てまで令嬢でい続ければ護衛も必要になるし、どんな迷惑をかけるかわからない。
その点男になれば、変装するだけでどこにでも行けるようになる!
(昔鬘だって被ったことはあったのだから!きっとできるっ!!)
リュドミラはどうにかして伯父を説得し、新しい生活得ようと気持ちはとても高揚していた。
先日までの死にかけ令嬢はどこへ?と聞きたくなるほどの変わり身の早さではあったが、マリアはそんなリュドミラを微笑ましく思っていた。彼女にとって、リュドミラが元気でいてくれることが何よりの幸福だったのだから。
***
「伯父様。こちらに招いてくださってありがとうございます。今日はこちらで暮らすにあたって、一つとても大切なお願いがあるのです。聞いていただけませんか?」
「そんな畏まる必要はないさ!何でも言ってごらん。」
子供のいない伯父夫婦にとって、リュドミラは我が子も同然にかわいがっていた。そんなリュドミラの頼み事を伯父が聞かない訳がない。
「実は単刀直入に申し上げますと、私・・【男】になりたいんです!!」
「―――なんだって???」
リュドミラの単刀直入な物言いに伯父は唖然とした。
「ごめんなさい。説明させていただくと、私がこの姿で例え町娘に変装しても、令嬢だとすぐにバレてしまうと思うのです。そうなると、品位を守るためにも私は常に令嬢として心掛けなければなりません。
ですが、私はここで自分を取り戻したいのです!品位に囚われていては私は自分を取り戻せる気がいたしません。
昔ここで過ごした時のように、のびのびと走りまわり、好きなことは夢中になって頑張って、みんなで笑顔で語り合いたいのです。
ここでの生活の間だけ鬘をかぶり、胸当てで胸を隠し、男装をし、少年のような言葉使いで過ごすことをお許しいただけませんか?」
神妙な面持ちで話を聞いていた伯父は、嘆息すると「わかった」と微笑んでくれた。
「鬘も胸当ても男物の服もあるのかい?」
「いえ・・これから見繕おうかと・・」
「そうなのか!それならば私にまかせなさい!我がエレイン商会ならその位簡単に揃えられる!」
「ありがとうございます!伯父様!」
「だけど、たまには美しいミラの令嬢の姿も見せておくれ。」
慈愛の籠った微笑みで伯父はリュドミラの頭をポンポンと優しく叩いた。
***
伯父の用意してくれた男装セットはとっても素晴らしかった。
まるで昔のミラがそのまま男の子として成長したかのような姿になれたのだから!
リュドミラの身長は165㎝いくかいかないかだったので、10代前半の少年としてなら通るだろうという見解だった。
鬘は昔を思い出すような白に近い金髪2セット。シャツは白の清潔感があるものでゆったりしたものをを3種類、トラウザーは動きやすいように細身のタイプの色違いを3種類。胸当ては伸縮する固めのゴムの素材なのに、コルセットのように紐で調整できるので苦しくならない程度に調整できそうなものを2セット。靴も走り回りやすいくるぶしより少し上までのブーツを2セット。完璧すぎる男装セットだ!
「!!!!!」
リュドミラの着替えを楽しみに待っていた伯父夫妻とマリアは、着替えたリュドミラを見て言葉を失った。
「・・・・・美しい・・」
男装したリュドミラは麗人のように麗しく、儚い美少年に生まれ変わっていた。
「まぁまぁまぁ!!美しい娘だけじゃなく、美しい息子まで!!幸せだわっ!!」
叔母は興奮して伯父に落ち着くようにあやされている。
「伯父様!伯母様!ありがとう!私はこの姿のうちは息子だけど、迷惑かけないように頑張るよ!」
早速少年になり切って楽しそうに声に出して笑ったり話しているリュドミラは、とても幸せそうだった。マリアは、リュドミラがどん底からでも這い上がる心の強さを、失わずにいてくれたことを幸せに感じずにはいられなかった。
(――――さあ!!今日から私の男装生活だ!!)
心の中で声高々にリュドミラは新しい生活を喜んだのだった。