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令嬢、幸せな未来へ

「…え」


 えええ? だって…でも。


 ちら。


 うん。と、王子が頷く。


 ちら。


 うん。うん。と、国王夫妻が頷く。


 …ええー? 本当にいいの? そうなのー? ……そうですか? ごくり。


「あの、ソフィーさ…ええと……ううう…うー……そ……ソフィー?」


「…」


「そんな事言わないで下さい。殿下が…」


「タメ語で」


 涙目のソフィー様から、やけにハッキリとしたダメ出しが入る。…えええー?


 ちら。王子がうん。…ちら。国王夫妻がうんうん。…ええええー?


「…そ……そ、そそ…そ、ソフィー…様。そ、ソフィー…。そ、そんなこと言わないで…。…殿下が可哀想です…。可哀想…」


 必死にそう言って顔を隠したアリアネルに皆が萌えた。これー!! これを見たかったのよー!! とばかりにソフィアはその手を剥ぎ取ってアリアネルに言う。


「アリア」


「は、はいっ」


「はいじゃない」


「え、えと。はい。…ではなくて、あの、は? はい? …何?」


「これからもそうやって呼んでくれる?」


 ええと…。


 ちら? うん。ちら? うんうん。


「う…うん」


「タメ語ね?」


 えええ? …と…。


 ちら? うん! ちら? うんうん!!


「………はい……う……うん」


「やたーーーー!! 私、勉強頑張るーーー!!」


 ばんざーい!


「やたーーー!!」


「やたーーーー!!」


「やたーーーー!!」


 ばんざーい!!


「………馬鹿馬鹿しい」


 さっさと帰ろ。と、四人を放置してアリアネルの手を取った時だった。


「アリアネルー!!」


 と、二人の声がしてもう一人の殿下と姫が飛び込んでくる。


「来てたの知らなかった。何で? どうしたのー?」


「遊ぼー遊ぼー」


「駄目。もう帰ります」


 こっちだって束の間の休みを楽しんでたんだよ。もう用事は終わっただろ。と言いたげなアイオライトの言葉にソフィアが叫んだ。


「駄目ー! これからアリアは私を呼び捨てにしてタメ語で話す練習するのー!」


「ちょっとー! 勉強どうすんのー!?」


「今アリアがここにいるんだから、そんなの後に決まってるでしょうがー!」


「調子に乗るんじゃねえよ。大人しく勉強してろ」


 ぎゃーぎゃーと痴話喧嘩を始めた二人にアイオライトが冷や水のような言葉をかける。ざばー。え? どうしたの? アオ。かつてなく切れてるじゃないですか。と、思ったらソフィー様の怒りの声が聞こえてくる。


「何よ! その言葉遣いは! あなた今、何の爵位もないくせに!」


「あー、そうですよー? その妻のアリアも一緒ですがそれが何かー?」


「うぐ」


「そんなの気にしないから遊ぼうよー。アリアネルー」


「ぎゅってしてー」


 目の前には第二王子とルビー姫。あの、あのの、とおろおろしていたらぶち切れたままのアオの声が聞こえてきた。


「だから駄目。もう帰るの」


「うわーん!!」


「ちょっと兄様! あまりにも不敬ではないですか!?」


「うーん…」


 ぎゃーぎゃーとヒステリックに叫ぶ恋人と弟妹の間で殿下はいつかのように唸った。ちなみに国王夫妻は気配を消している。


「…アイオライト?」


「何ですか」


 殿下にもぶち切れモード。ちょっと。いいの!? と思ったけれども殿下は気にしてなさそうなので静観した。


「ソフィアはともかく…二人に少しアリアネル貸して上げられない?」


「ちょっと殿下ー!! 何でー!!」


「嫌です」


「うわーん!!」


「不敬! 不敬ー!!」


「どうしても駄目?」


「明日ここに来なくて良いなら検討しますが?」


 実はアオ、領地の管理もしなくて良い身軽な今、本当は実家の手伝いでもしながらのんびりしようと思っていたのに、あっちこっちから経営やら会計やらの家庭教師を頼み込まれて、断りきれない人には「仕方なく」応じている。特に実り祭りでの実績を知っている若い子から大人気で、その親からどうか家の子をと頼み込まれるわ、年輩の方からも話を聞きたいと依頼が殺到しているらしい。独学だし為になる話はできないのでお断りします。若輩者なの無理です。まだ未熟だから…。忙しくて…。と、やんわりお断りしていたものの、いつまで経ってもいつまで経っても終わらず。だー!! だから嫌なの!! したくない!! と、最終的にはオブラートにも包まずにはっきり断っているのに、どんな断り方をしても頼み込んでくる人が後を絶たない模様。暴落寸前の公爵家を救ったこともこの機会に知れ渡ってしまい、どうしてもお願いします。順番待ってますんで。何年後でも構いませんので。状態の生徒が勝手に列を作っているとかなんとか。大体、どうしてこんなことになったかと言えば目の前にいるこの殿下のせい。今忙しくないならちょっと教えてよ。の一言に応じた結果、アイオライト様、先生やってくれるってよ! と、話が広がってしまったのである。新婚なのにお前のせいで全然時間がねえんだよ。その俺の時間をまだ潰す気か? そう。明日の生徒は殿下なのだ。


「えー。それは困る…」


 話は面白いし分かり易いし、いつまでやって貰えるか分からない貴重な講義。自分も犠牲になりたくない王子は本気で悩んだ。


「じゃあー…明日アリアネルと一緒に来るって言うのはどう?」


 その言葉に三人の表情が輝きだす。ナイスアイディア!! とばかりに頷いた。


「嫌です。そんなことしたら、なし崩し的にずっと連れて来いって言われるのが目に見えてる」


「明日だけでいいから」


 と、何とかこの場を治めようとした殿下の言葉は味方によって台無しにされた。


「駄目ー! 来る時、毎回一緒に来ればいいでしょー!!」


「そうだそうだ!」


「何ならここに住めばいいのにー!!」


 と、最後に叫んだルビー姫の言葉に三人は顔を見合わせた。そして恋人と兄に迫る。


「お兄様、それが良いと思います」


 と、第二王子。


「そうしたらアリアネルが本当のお姉様みたいになってくれるし」


 と、ルビー姫。


「殿下はアイオライト様と幾らでも話していれば良いではないですか」


 と、ソフィア嬢。ねー。と、三人で仲良く頷いた。ちなみに国王夫妻は気配を消している。


「駄目。家の使用人が死ぬ」


 アリアネルのそばにいたいがあまり、本気の殴り合いをして勝ち抜いてきた使用人が黙っている訳がないだろ。お前のところの使者だって視線だけで魂抜かれかけてるんだぞ。と、そこまでは言わなかったけれどもアイオライトはきっぱり断った。ちなみにアリアネルは全然気付いていない模様。本当に鈍いな。この奥さん。


「じゃあ使用人ひっくるめて全員ここに引っ越してくればいいでしょー!!」


 と叫んだのは今ここに住んでいる訳でもないソフィアだった。後ろでは「そうだー」「そうだー」と未来の弟と妹が援護している。


「い、や、だ!! そんな事したらお前ら絶対四六時中つきまとってくるだろ!! 絶対嫌だ!! 帰るぞ! アリア!」


「あわわ」


 手を引かれて引っ張られ、慌てて歩き出す。こんなに強引なアオも珍しい。余程嫌みたい。


「あー!!」


「まだ話終わってないのに!!」


「人さらいー!!」


 ぎゃーぎゃーぎゃー!! と、後ろから声が聞こえてくる。ちなみに国王夫妻は気配を消している。


「何でだよ」


 と、手を引くアオが呟いた。そうだね。何でだろうね。と、苦笑いをした。


「アリア」


 やがて外に出て、逃げる様に私を抱き上げてさっさと馬車に乗せてくれたアオが私を見上げる。こんな事をするなんて本当に本当に嫌なんだ。と、思った私に彼は言った。


「俺、今初めて力を捨てた事後悔した」


「…」


 その言葉に、ふふ。と、思わず笑ってしまう。そして、よしよし。とアオを抱き締めて髪を撫でた。

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