少女と、大きな争い ⑧
「まさか、亡くなるなんて……」
「うん。ショック。悲しい……」
ガイアスと一緒に隣り合って、そんな会話を交わす。何と口にしていいかさっぱり分からない。大切な仲間が、私達の国の国民が居なくなってしまった。
もう二度と喋ることが出来なくて、生きている姿を見ることなど出来ない。それが悲しかった。誰かを喪ってしまうことって、全然慣れない。というか、慣れたくないことだ。
私達はもう二度と、仲間を失いたくないって思った。だからこそ国を作ったのだ。それなのに……私はまた失ってしまった。
誰かが亡くなるってことは、もう二度と話したりもできなくなるということ。……だって死んでしまったら、その人の未来が全て失われてしまうってこと。人って死んだらどうなるんだろう? 分からないけれど、そこで全てが終わってしまうってことだよね。
誰かに悪意を向けられたら、そこで簡単に人は亡くなったりしてしまうもの。それを私は改めて実感した。
――拳を私はぎゅっと握る。
「では、今回の一件に関して説明をします」
人が集まってから、ランさんはそう口にした。難しい表情を浮かべている。きっとランさんも、悲しくて仕方がないのだ。それでもちゃんと話し合いをする必要があるからこそ、必死に悲しくなる気持ちを我慢しているんだろうな。
「悲しいことに仲間が一人亡くなってしまいました。私達を殺す気で武器を持って襲い掛かられ、間に合わなかったとのことです。やはり初接触をする人々には本当に気をつけなければならないですね。今回は……私達側の油断も要因であったと言えますから」
……ランさんの言葉に私は頷く。
そう、きっともう少し注意深く出来ていれば、何とか出来たことなのかもしれない。防げたかもしれないのに、防ぐことが出来なかった。……私だって王様としてもっとこうした方がいい、ああした方がいいとか相談出来たんじゃないかな。私がもっと祈っていたら別だったんじゃないかとかそんなことも考えてしまう。
ランさんが慰める言葉ではなく、敢えて厳しい言葉を口にしているのはきっとこれからのことを思ってなのだと思う。
こういう風に悪かった点を実際に口にしてくれる人って中々居ないものだと思う。耳障りの良い言葉を口にする人は沢山いるかもしれないけれど、同じことを繰り返さないためには確かにこれから注意はしていかなければならない。だって、こんな風に人が亡くなってしまったことに関しては私達の慢心が招いたことでもあるというのは確かなことだった。
私は怪我人ならば幾らでも治せると思う。大怪我だってそう。神聖魔法の練習も続けているから、初めて使った時よりもずっと簡単にその魔法を使えるようになっている。
それに神子としての力も私が年を重ねるごとに強くはなっているのだ。
――私はまだ子供と大人の境目ぐらいの年齢で、私の全盛期と言える年齢に到達したら、きっとその時が私にとって一番力を使える時期なのかな? なんて思った。
神子の仕組みは私にはまだ分からないことが多い。他の神子に会ったこともないから当然だ。
……だから私がちょっと無茶をすればもっと誰もが傷つかないように出来るのではないかなんて考えたりもする。
ただそう言う風に、私が居なければ立ち回らない国になることを皆は望んでいない。私が寿命を終えた後も、この国の人達はずっと生きて行く。
大切な人の子孫だったり、外からやってきた新しい仲間だったり……。
神子が亡くなった後も、神子の居た地域には影響力が残るとそう言われているけれども私が実際に此処に居る時とはまた違う影響力だろうってランさんは推測していた。
そう、だから……私は自分がどういった行動をすべきか一つ一つ選択をしていかなければならない。全てをどうにかしようなんてしたら、私自身が倒れてしまう。
そしてその先、私が倒れてしまったら――きっとまだ出来上がったばかりのこの国は、無くなってしまうかもしれない。
「ルーニッド王国側の新しい国王は、私達の国を手中におさめたいと思っているようです。幸いにも向こうはレルンダの存在には気づいていません。此処に神子が居ると分かれば……更に強硬手段に至ることは想像が出来ます。ただルーニッド王国側でも、新王の行動に疑問を感じている者達も多いと聞きました。私達が交渉すべきは王ではなく、そちら側かもしれません」
ランさんはそう言って、私達の顔を一人一人見渡す。視線を合わせて、私達の意思を確認するかのように。
「――ルーニッド王国の王がまた変わった方がいいかもしれないと、私はそうも思っています。しかしそういった支援を私達がすることは、ルーニッド王国で多くの血が流れてしまうことにはなってしまいます。そういった選択をすべきか否かも……私一人だけでは判断がつかないので相談したいのです」
ランさんはそうも口にした。
――少女と、大きな争い ⑧
(神子の少女は、女史の話を聞く。ルーニッド王国の現状を語られる)




