少女と、大きな争い ⑦
しばらくレイマーと話した後、その日は眠りについた。
翌日、目を覚ましたのは朝早い日だった。
私は、落ち着かない気持ちで目を覚ました。……嫌な予感が、急にしてしまった。
夜更かしをしていたはずなのに。もっと眠っていても良かったのに。……それでも私は、起きた。
「……?」
不思議な胸騒ぎがする。昨日、レイマーとゆっくり話して、少し落ち着けたはずなのに。
ざわざわする心は、何かの予兆を示しているようだった。
コンコンッと扉がノックされた。
「レルンダ……起きていますか」
それはランさんの声だった。少しだけ声色が硬い気がする。いつもとは違う、というのは私にだって分かった。
「うん、起きているよ、ランさん」
私がそう答えると、扉が開く。
そしてそこに居るのは険しい表情のランさんだ。
「……何かあったの?」
私がそう問いかけると、一瞬だけランさんは言葉に詰まっていた。だけどすぐに意を決した様子で、私に向かって告げる。
「ルーニッド王国の者達と交渉をしに向かった仲間の一人が亡くなりました」
「え」
言われた言葉の意味は、最初は理解が出来なかった。ランさんが冗談なんかを言うはずはないのに。それでも私は……冗談だと笑ってほしかった。
亡くなるというのは、死んでしまったということだ。……グリフォンたちだって一緒にいたはずなのに、どうしてなんだろうってそればかりを思う。
……私は祈っていた。
皆の無事を。神子としての力で、その願いはおそらく神様に届けられている。けれどその願いは、絶対ではない。私はそれを知っていた。それでも……無事に帰ってきてくれるとそう信じていた。
「……どう、して?」
「交渉の際にちょっとした言い争いになったようです。ルーニッド王国内でも様々な派閥があるようで、友好的じゃない者が交ざっていたと聞きました。そしてその一人が不意に襲い掛かってきて間に合わなかったとのことでした」
ランさんは淡々としている様子に見えるが、声が震えている。ランさんは仲間のことを大切にしている。だからこそ、私に報告をしに来る時も……きっと思う所が沢山あったんだろうなと思う。
それなのに私を心配させないようにと、ランさんは普段通りの態度をしようとしてくれている。
なら、私だって……今は取り乱したりはきっとしない方がいい。私はガイアスと一緒に王様になったんだから、話は聞いておかないといけないって思うもん。
ただ悲しむだけのターンは、今じゃないはず。私は少しずつ大人になっているもの。だからこそ、もっと王様として頑張るためにもちゃんとしておきたい。
「……そうなんだ。他の人達は大丈夫だった? 誰か怪我していたりしてない? もしそうしていたら私が治すよ」
亡くなってしまった命を私がどうにかすることは出来ない。私が幾ら神子と呼ばれる存在だったとしても不可能と呼ばれることだって当然ある。
――だからまだ間に合う人がいるのならば、私が治したいとそんな風に思っているから。
私の言葉を聞いて、ランさんは安心させるように笑いかける。
「大丈夫ですよ。他の人達は怪我はしていないそうです。……亡くなった方のおかげで、他の方達は警戒をすることが出来たようです。ただ同行していた者達は流石に落ち込んでいるようですが……。気持ちはわかります。私も目の前でその光景を見てしまったらどうしてしまったか分かりません」
「うん……。そうだよね。目の前でそんなことが起こってきたら、私も耐えられなくなってしまうかも」
だって話を聞いているだけの私でも、胸が痛くて悲しくて苦しい。私がもっとちゃんと、祈っていたら別だったかもとか。もっと気を付けるようにと、そう言っていたらきっと大丈夫だったのだろうかとそんな後悔はある。
――私は神子という立場なのに、そこまで頭が回らなかった。そして楽観的な気持ちになっていた。
これから先の未来、誰も失わずに生きていけるんじゃないかって。他の国とかとの関わり合いが増えれば増えるほど、危険なことだって増えていくのに。
ずっとそんなことばかりを考え続けている。
「……そうですね。実害を出した者に関しては、捕えています。それ以外の者達は流石に誰かが亡くなることは想定外だったみたいで協力的でした。自分からこちら側に来てくださいました。彼等はこちらの手の内だけれども、きちんと交渉はどうにかしないといけません。亡くなった方のお墓は作らないといけませんし、やることは盛りだくさんです。朝早くて申し訳ないですが、一緒に行きましょう」
「うん。ありがとう、ランさん。色々と考えてくれて。ランさんから話を聞いていると、少し落ち着けた。ガイアスにも話した?」
「そちらはニルシさん達が呼びにいってます」
「そう、うん、行く」
私はランさんの言葉に頷いた。
また考えなければならないことが沢山ある。
――少女と、大きな争い ⑦
(神子の少女は、女史から話を聞いて歩き出す)




