少女と、精霊樹の様子
精霊樹。
そう呼ばれる木の宿り木がこの村の中心部に植えられている。その木に、私は村が出来てからずっと精霊樹に魔力を込め続けていた。それをすることによって、精霊樹の中で休んでいる精霊たちが少しでも早く回復させ、精霊樹を成長させる。
精霊樹は、私の背を越えるぐらいには回復している。
「魔力が少しずつ満ちているわ」
私の隣に立つフレネは満足そうにつぶやいている。
目の方に魔力を込めて精霊樹を見ると、魔力の動きがなんとなくわかる。シレーバさんたちの大切にしている精霊たちが早く回復して、皆の側にいられるようになれたらいいなと願ってやまない。
精霊樹の側は何だか安心する。私が魔力を込めることによって回復している精霊樹。精霊樹を回復させるような力が私にあることが嬉しいなと思う。フレネやグリフォンたち、シーフォ、あとガイアスもだけど私とつながっている者達は、私の魔力が満ちている精霊樹の周りは心地が良いらしい。グリフォンやシーフォたちもよく精霊樹の側で休んでいる時がある。
今日は、精霊樹の麓でレマとルマのグリフォンの兄妹たちがのんびりと過ごしている。その様子を見て獣人の人たちが二匹をあがめていたりとかする。
「レマもルマも可愛い」
寛いでいる二匹に私は手を伸ばして、そのもふもふを堪能する。いつもブラッシングをしているのもあって、さわり心地が良い。であった頃より大きくなっている二匹は、であった頃と変わらない様子で私に甘えてくれる。グリフォンたちと接していると心が穏やかな気分になる。
「ぐるぐるぐる~(なでられるの気持ち良い!)」
「ぐる、ぐるぐるぐるるるるる(木、大きくなったね)」
と二匹が声をあげる。
精霊樹が少しずつ大きくなっている事を二匹も喜んでくれていることが嬉しい。
「うん。大きくなった」
精霊樹は、初めて見た時神秘的な光を放っていた。目の前にある精霊樹よりもずっと大きく育っていた。あの植物の魔物が魔力を吸い尽くしたせいで力はなくなっていたけれど、それでも神秘的だった。
あの時見た精霊樹のように、もっと回復してね、とそんな思いを込めて精霊樹を見る。
「レルンダ、ありがとうね」
「フレネ、どうしたの、突然」
「レルンダが居たから私は回復出来た。そしてレルンダが居たから精霊樹をこうして移す事が出来た。だから、改めてお礼を言いたいって思ったから」
「お礼、いらない。私もフレネと契約できて、嬉しいから。フレネと契約できなければ、あの魔物、どうにかできなかったかも」
お礼を言われて不思議な気持ちになる。私がいたから回復出来たというけれど、私はフレネと出会えなければあの魔物を倒す事が出来なかっただろう。フレネと出会えなければ精霊樹に対してどんなふうに対処をしたらいいかもわからず、宿り木をこうしてこの場に移すことも出来なかっただろう。
それを思うと、やっぱり出会うって事は一種の奇跡なんだって思う。
誰かと出会うってこと、出会ったからこそ始まったこと。沢山の出会いがあったからこそ、私の歩みはこの場所までつながっていった。
「私は、フレネが傍にいてくれて心地よい。フレネが私と契約してくれて、嬉しい。だから、であってくれて、ありがとう」
出会うって凄いなと思うと、私もフレネにありがとうを伝えたくなった。だから口にすれば、フレネも笑ってくれた。
フレネが笑ってくれて嬉しい。フレネのように精霊樹で休んでいる精霊たちが回復してくれたらいいな。一緒にお話が出来るようになったり、皆で笑いあえれば———そんな未来を夢見る。そんな風に全てが上手くいくかなんてさっぱりわからないけれど、そうなっていきたい。何時頃になるかもわからないけれど、私が魔力を込めることで回復はしてくれているんだから。
「精霊たち、皆回復出来たら皆お喋りしてくれるかな」
「ええ。喜んでするわ。だって皆、レルンダに感謝しているはずだから。レルンダが話したいって言ったら幾らでも話してくれるはずよ」
「そうだと、嬉しいな」
いつか、お話ししようね。いつか、一緒に笑い合おうね。いつもそんな思いを精霊たちに抱いている。
そんな風に精霊樹の前で穏やかな気持ちでフレネやレマ、ルマと接している中で、ドングさんに呼ばれた。
「レルンダ、今からあの少女の所に行くぞ」
「フィトちゃんの、所?」
「ああ」
あの人質の少女———フィトちゃんの所に行けるという。フィトちゃんのこと、知れるように色々な事を話しかけてみよう。そしてフィトちゃんがどういう子なのか、もっと知ること。それが私のフィトちゃんと会った時にやりたい目的。
「フレネ、行こう」
「ええ」
フレネに声をかけ、ドングさんの側に向かった。
そうして私たちは精霊樹を後にして、フィトちゃんの元へ向かうのだった。
――――少女と、精霊樹の様子
(神子な少女は精霊樹の前で、精霊たちに思いを馳せる)
お知らせです。
『双子の姉が神子として引き取られて、私は捨てられたけど多分私が神子である』の書籍化決定しました。
応援してくださった読者様方のおかげなので本当にありがとうございます。