少女と、人質の少女 1
「こんにちは、フィトちゃん」
「……こんにちは、レルンダ」
目の前にフィトちゃんがいる。
フィトちゃんは人質としてここにきている少女だ。薄緑色の髪を腰まで伸ばして、それを一つに結んでいる。顔には刺青が刻まれていて、その刺青は他の民族の人たちともまた違うもののように見えた。私はフィトちゃんの事を詳しく知らない。
あの人たちの中で、特別とされていることは知っている。――あと神の声を聞くなどと言われていることも。だけどそれは人づてに聞いた話でしかなく、フィトちゃん自身を知っているわけではない。
体に傷をつけ、模様を刻む。それがあの人たちにとっての当たり前のこと。そういう文化であるのは理解しているけれど、それを見ると痛くなかったのかなとそんな思いが沸いてしまう。
「やっぱり、この子私の事も全然見えてないし、声も聞こえてないわね」
フレネがフィトちゃんの周りを不自然にうろうろして、そんなことを言った。
フィトちゃんはやはり、フレネのような精霊が見えるわけでも声が聞けるわけでもないらしい。
「フィトちゃん……元気?」
何を聞いたらいいか分からなくなって、そう問いかける。
「何不自由ない。元気」
「外出れないのに不自由ないのか?」
ガイアスも、フィトちゃんは閉じ込められる形になってしまっているけれど不自由がないという意味が気になったみたいでそう聞いた。ドングさんは私たちのななめ後ろに控えて、黙って会話を聞いている。
「村の方が不自由だから」
「なんで?」
「……私はあの村でそういう、立場だったから」
もしかしたら聞いても答えてくれないのではないかと思っていたけれど、フィトちゃんはそのぐらい何でもないとでもいうように村での事を言う。
「神様と、交信できるっていう? それで何で、不自由?」
「……そういう立場の者、他と接するとけがれるとされているから」
「神様と、交信って、出来るの?」
「……出来ない」
「出来ないのに、出来るっていうの?」
「そう。私は前任者に、そういう風に言われた。出来ないけど、そういう立場としてふるまって、村のために動く。それが、私の立場。神の娘などと言われている立場の、実際の姿」
「フィトちゃん、何でそれ、教えてくれるの?」
「貴方たちは村の皆じゃないから。それに……そう、ふるまうのも疲れるから」
要するに、フィトちゃんは神の娘と呼ばれる立場である。そしてそういう存在は誰かと接するとけがれるとされているってことはあまり人と関わらないってことかな。そして出来ないのに出来るふりをして、村のために動くのが神の娘って立場。そういう村とかがあるなんて知らなかったから不思議な気持ちになる。
フィトちゃんがこうして質問にどんどん答えてくれるのは、そういう立場につかれてしまったからなのかもしれない。
私だったらどうだろうか。出来ない事を出来るとしてふるまうこと。そしてあまり人と関わらずに過ごさなければならないこと。―――それはとっても、疲れることだ。フィトちゃんは私より少しだけ年上なだけなのに、その年で、そういう振る舞いをずっとやってきていたということなのだろう。少なくともその神の娘という立場に収まった時からずっと。その瞬間から、フィトちゃんとしてではなく”神の娘”というその村での特別な立場としてふるまう。
……私は、神子なのだろうけど、レルンダとしてみてくれる人が居てくれる。生まれ育った村を出てから、私の名前を呼んでくれる人が沢山出来て、嬉しかった。自分の事を見てくれる人が居る事に心が温かくなった。
「……フィトちゃんがそういう力ないの、村の人は知らない?」
「知らない、と思うわ。面と向かって聞いた事はないけれど。私の事も、前任者の事も、神の声を聞けると信じ込んでいるのかもしれない」
「そんなフィトちゃんを、人質に出したのは?」
「よっぽど、この村と敵対したくないからでしょう。あと私が自分から望んだというのもある。住む場所を追われた私たちにとって、貴方たちは敵対すべき存在ではないから」
「わざわざフィトちゃんが特別だってこと、あの人たちが言ったのは誠意のため?」
「多分そうね。私という存在を差し出して人質にするから怒りを鎮めてくださいってこと。だから警戒してるみたいだけど、何かやらかす気はない、はずよ」
フィトちゃんの言っている事は本当のことなのだろうか? こんなにどんどん自分の事を喋ってくれるものだろうか。そんな不安も少しだけわいてくるけど、何だか嘘を言っていない気がする。
「……フィトちゃんは、村の人たちには会いたい、って何で言わないの?」
「……私が何も力がないって本当に知った時、どんな態度を取られるかも分からない。そういう立場として受け入れて行動していたけれど、そういう振る舞いをしてだましていた事には変わりない。それに……特定の人としか会わない生活をしてたから、会わなくても違和感ない」
フィトちゃんは、淡々とそう答えた。
――――少女と、人質の少女 1
(神子な少女は人質の少女と言葉を交わし、彼女の事を知っていく)




