姉の自覚。
「どうして、なんで!」
「私を出しなさい!」
「私を誰だと思っているの!」
私はどうしてこんな目に合っているのだろうか。私は特別なのに。私はそんな思いから何度も何度も声を上げた。私は特別で、私は世界に愛されているからすぐに誰かが助けてくれるんだ。そう思い込んでいた。
なのに、私は冷たい地面の上に座り込んでいる。私はこんな場所で過ごすのは初めてだった。私が望めば、何でも手に入った。私は真っ先に良い物を皆が与えてくれた。私は生まれは平民でも、特別なんだって、お姫様なんだって皆いっていた。
私が特別だから皆私に優しくするのは当然なんだって。
―――なのに、誰もが私を冷たい目で見てる。私が幾らお腹がすいたといってもくれるのは、本当に残飯ばかり。
私は、特別なのに。――いえ、もしかしたら私は特別じゃない?
私は愛されて当然なのに。―――いえ、もしかしたら私は愛されて当然じゃない?
私は、今まで考えたこともなかった可能性がどんどんわいてきて不安になった。今まで”当たり前”として考えていた事が当たり前ではないかもしれない―――そう考えると怖くなった。怖くなったからこそ、その考えてしまったことを信じたくなくて、声をあげた。自分に言い聞かせるように、『私は神子なのよ!』って。
でも、声を上げれば上げるほど、彼らは益々私が向けられたことのないような冷たい目を向けていた。
その目が恐ろしかった。私に向けられている目には、今までそんな冷たいものはなかった。私は特別で、私に皆優しいのが当たり前だった。でも———その当たり前が覆されかけている。
どうして、私がこんな目に合うのだろうか。
―――もしかして、私はこのまま、ここで一生を終えてしまうのだろうか。
体がぶるっと震える。
ずっと着替えさせてももらえていないから、”神子”として与えられていた神秘的な服もすっかり汚れがついている。
私は―――、今まで私と他の人間は違うと思っていた。私はただ一人、唯一の私で、他の人たちはその他大勢というか、私に傅くのが当たり前だって。だって皆そうだって言ってたもの! でも、幾ら認めたくなくてわめいたとしても、私は今、私がその他大勢だって思っていた他の人たちと同じ立場―――いや、とらえられ、このまま死ぬかもしれないと考えると、それよりも下の立場に信じたくないけどなってしまったということなのかもしれない。
「……私も、変わらない」
ううん、私も、他のその他大勢だと思っていた人たちと一緒の存在なのだって、気づいた。
その瞬間、どっと力が抜けた。わめくのは、もうやめた。
座り込んで、私自身のことを考える。
私は特別だったから、だからあれだけ何をいっても良いんだって思ってた。
―――でも私は特別なんかじゃない。
私の周りで私のような態度が許されている人は他にいなかった。他の人が駄目でも、私は許されてきた。私は誰かに怒られたことはなかった。周りの人たちは怒られていた。私が嫌がれば、私の嫌がることを強制しようとしていた人たちは私の周りからいなくなった。私にとって、それは当然だった。私がそれを許されるのは、他でもない私が特別だったからだと思ってた。
でも、私は私自身が思っているほど特別ではなかった。
そのことを、自覚した。こんな風にとらえられて、もしかしたら死んじゃうかもしれない状況になって初めて。
私はずっと、肯定されて生きてきた。私がやることなすこと全て肯定してくれていた。
そんな私が、初めて否定されている。いや、良く考えたら初めてではない。私を否定していた人たちは私を肯定してくれている人たちがどうにかしていた気がする。―――今、ここで私のことを肯定してくれる人はいない。私を否定してくれる人をどうにかしてくれる人もいない。
「………私は、恵まれていた」
当たり前だと思っていた環境が、恵まれていたということに初めて気づいた。私は肯定されるのが当たり前の人生を歩んでいた。だけど、否定されることがこれだけ衝撃的とは思わなかった。―――そして、その時初めて、生まれ育った村でずっと否定されていたアレを思い出した。
アレ、を両親は私の側に近づけなかった。周りの友人たちもアレと私が接するのを嫌がっていた。だから、私はアレを良く知らない。関わり合いはほとんどゼロに近かった。だけど、私と両親の家に住んでいて、周りから否定されていたのは知っている。名前は知らない。両親の口からきいたことはあったかもしれないけれど、思い出せない。アレとか、あの子とか両親はよくいっていた気がする。
そういえば、アレは気づいたらいなくなっていたけれどどこにいったのだろうか。今まで気にしていなかったことが、頭をよぎる。
私が嫌がって、私の側からいなくなった人たちは今どうしているのだろうか。今まで考えた事もなかったことを、私は思考している。
―――そんな風にずっと思考し続けることしか、とらえられている身ではできなかった。
そしてそれから数日たって、私はとらわれの身から解放されることになる。
――――姉の自覚。
(多分、神子な少女の姉はようやく自覚する。自覚した先で姉はどうなるのか)




