王子と、令状
フェアリートロフ王国の王、つまりニーナの父親が崩御した。そして、隣国であるフェアリートロフ王国は崩壊の危機を迎えている。俺の父親であるミッガ王国の王は、本来ならこんな場面でフェアリートロフ王国を放置していくほど甘くはない。だが、ミッガ王国もまた問題を抱えていた。
ミッガ王国は、フェアリートロフ王国に神子が現れたということで、人材を増やすためを含めて異種族の者達や、ミッガ王国に従わない者達など、多くの存在を襲い、奴隷としてきた。――そうやって行って来た行動のツケが今起こっている。急速に増やされていった奴隷たち。それを全て管理するということが、ミッガ王国は出来なかった。
俺は、父上が絶対な存在であると思い込んでいた。俺にとってそれだけ父上は逆らえないと思い込んでいた存在だった。―――そのことはニーナから叱責された時に理解した。だけど、いざ、こうして国が駄目になっていくという場面に遭遇すると、複雑な気分になる。
―――そして俺の元には、父上からの令状が存在している。
そこにかかれているのは、騒いでいる奴隷とした者達を殺せということだった。処分しろ、とまるでモノのように告げられた言葉に俺は思考している。
俺が、何をしたいのか。
俺は正直、奴隷に落とすという行為さえも嫌だと思っていた。命令に逆らえないとか、そんな言い訳から俺が実行してしまっていた行為。そして、国内の混乱が落ち着いたらフェアリートロフ王国に父上は狙いを定めるだろう。
フェアリートロフ王国の第三王子は、保護していた神子が偽物でその結果、王が亡くなったということを大義名分にしている。そのため自分が王になるのに相応しいと。それは他国にも言える大義名分だ。
父上は国内が片付いたら、”偽神子をあがめている国を神の名のもとに討伐する”とでもいって、フェアリートロフ王国に攻め込むだろう。政治というものに、神子という存在は利用されている。恐らくフェアリートロフ王国の神子が偽物であろうから、問題はないのだろう。それも、俺が出会った神子かもしれない少女が神子であると仮定しての話だけれども。
俺は……ニーナのいる国を攻めたいとは思わない。敗戦国の王女なんて立場にニーナがなれば、ニーナがどのようになるかも分からない。―――そうなると、この国で内乱が起こっている方が良いのではないかなどという考えさえも浮かぶ。
父上と、ニーナ。
どちらを取るか、そういう選択肢を求められている。
以前の俺ならば迷わず父上を取った。父上の言うことが全てで、それに逆らうなんて考えもしなかった。だけど、ニーナに出会った。ニーナに言われた言葉が脳裏に浮かぶ。俺の後悔しない道はどれだろうかと、冷静になって考えた時、俺はニーナと共に歩みたいと思った。
そのためには、どうしたらいいか。
第五王女という王位継承権を持つ立場で、隣国で大変な状況にいるであろうニーナ。このまま、ニーナがおとなしくしているとは思っていない。ニーナは、この状況できっと動く。ニーナが動かないわけがない。ニーナは後悔しない道を必死に探して選ぶだろう。―――ならば、俺だってそうする。俺も必死に後悔しない道を選ぶ。
ニーナと接触をすることは難しい。ニーナがどう動くか分からない。だけど、俺なりに考えて、できうる限りニーナの力になれるように動く。俺はそのことを決めて、まずは国に反発している奴隷たちに会うことにした。
―――俺は彼らを奴隷に落とす行為をしていた側の人間だ。だからこそ、彼らにとっては憎むべき相手かもしれない。だけど、俺が真っ先にやるべきことは彼らを味方につけることだと思った。父上にばれないように。俺の心は、ずっと奴隷に落とすことに心を痛めていた。だけど、馬鹿みたいに悲観して、父上に逆らえないって決めつけて、行動を起こせないでいた。だけど、今こそ、行動を起こすべき時ではないのか。自分の心に素直に従ってみるべきではないか。
俺は父上のことがずっと正しいと、思い込んでいた。でも父上は奴隷を増やそうとして失敗して、こうして国内がごたごたしている。このミッガ王国は、父上がそういう方針だったというのもあって奴隷と国民で区分されていた。それを、どうにか出来ないか。難しいかもしれないけれども、こういう状況だからこそ、俺は俺の心に従う。
俺は父上の命令に従い続けて、俺の心が拒否していることをし続けていた。その罪は消えないし、俺は自分がやらかしてしまったことも受け入れていくつもりだ。俺は以前、あの神子かもしれない少女が本当に神子であるのならば、いつか俺の事を殺してくれないかと考えていた。俺が楽になるためだけの考えだった。
でも——俺は、もうそんな考えをしていない。
俺は俺なりに、俺の心の従うままに動く。自分が後悔しないように。やらなければ、世の中どうなるのか分からないから。
「俺は、これから——」
俺は配下の存在たちも、信頼していなかった。でもずっと俺についてきてくれた配下の者達は、俺のことを本気で心配してくれていた。
だから俺は、ニーナに叱責されて周りを改めて見た上で信用できると思った人間に自分の意志を伝えた。
――――王子と、令状。
(その第七王子は自分の意志で決意をする。自分の心が従うままに、自分がやりたいように動くと。それは人形のようだった王子の心を、隣国の王女が動かした故の影響だ)