少女と、民族 1
あの民族に出会った日、私は村でいつも通りお祈りをして、自分の家で眠った。あの不思議な人たちのことが気になるけど、ひとまず考えても仕方がないから眠った。
夜が明けて、また状況が変わっていた。
私が目を覚ました時、ドングさんたちが難しい顔をして話し合いをしていた。私が近づいたら、ドングさんがどういう状況なのか教えてくれた。
昨夜、疲弊しているあの人たちが襲われないように見守っていた。そんな中で、襲われたといわれた。襲われたと聞いて頭が真っ白になった。誰に、どんな目的で――そんな私の思考は口にしなくてもドングさんに伝わったのだろう。ドングさんは、険しい表情をしていった。
「あの助けた人間たちの仲間が、勘違いをして襲ってきたんだ」
「勘違い?」
「ああ。俺たちはあの人間達が襲われないように見守っていた。でもそれがあの人間たちの仲間には分からなかった。仲間たちを囲っている獣人たちということで、襲ってきたそうだ」
「それ、どうなったの」
不安になった。襲われるというのは危険な事だ。襲われたということは誰かが傷ついたのだろうか。そう思うと恐ろしかった。
誰かが傷つくのが怖い。――誰かが居なくなるのも、怖い。
「襲撃者たちはこちらでとらえた。そして事情を説明した。誰も怪我もしていないから、そんなに不安そうな顔はしなくていい」
「……そっか。なら、どうしてそんな顔?」
「ああ、あの者達はそれなりの人数がいるようだ。住む場所を俺達と同じように追われてこの場にいる。助けられるなら助けたいという気持ちもある。だが、この村には受け入れるだけの受け皿がない。そんな状態で受け入れることは出来ない。この村が崩壊する恐れがある」
ドングさんの話を聞く。
ドングさんはアトスさんが亡くなってから、一生懸命私たちを引っ張ってくれている。ドングさんは優しい人だ。それを私は知っている。優しいからこそ、ドングさんもできたら助けたいという気持ちはあるのだろう。
「―――俺達がレルンダやランを受け入れられたのは、まずレルンダがグリフォン様たちを従えていたから、そしてランに関しては一人であったということ。そして——俺たちの村が受け皿になるだけの村であったこと。それが理由だ。でも、この村は作りたてて、いつ駄目になってもおかしくないような村だ」
「うん……」
「あの人間達が何を考えているかも分からない。そんな状況で村には受け入れられない。だが、ただ突っぱねるだけでもどうしようもない。あの人間達が俺達から村を奪おうとするかもしれない。――このまま、去ってくれるのならいいが……、この地にとどまるというのならば穏便にはすまない可能性が高い」
穏便に済まない可能性が高い。
私たちの平穏な村を奪うかもしれないと。このままこの場から去ってくれるのならともかく、このままこの地にあの人たちがとどまるのならば問題が起こるのかもしれないと。
そんな風にドングさんを悩ませてしまっていることをこの村に直接的に引き込んだのは他でもない、私だ。
私が助けるだけで終わればよかったのかもしれない。それとも、襲われているからといって助けない方が良かったのだろうか。何が一番正しいのか分からない。ううん、一番正しいっていう選択肢はないのかもしれない。何が正しいのか、何が間違いなのかというのは結局決められないものだと思う。人によってどれが正しいか、間違いかは違うだろう。
その中で私はどんな風に行動をしていったらいいのだろうか。私があの人たちを助けて、そこで村の存在を言った。それはもうやってしまったことだ。やってしまったことはどうにもならない。なら、私は、何をどうしたらいいだろうか。
「ドングさん……穏便にすまない、っていうのは」
「争わなければならないかもしれない。争った上で少なくとも争いが起きたのならあの人間達が二度とこちらにはむかわないようにはするべきかもしれない。中途半端にやる様では、争いが起こった場合は延々と争いが続くかもしれない。その結果、こちらが誰か死ぬかもしれない。――そういう可能性も十分にありえる。襲ってきた襲撃者たちには事情を説明してもらいはしたが、どうなることか」
もし、争いが起きたらと思うと怖いと思う。皆が傷つくのは嫌だと思う。ううん、皆じゃなくても誰かが傷つくのは嫌だと思う。そんな私はやっぱり甘いのかもしれない。
私は神子、という存在なのかもしれない。だからこそ、人が傷つく場面というものをあまり見ずに生きてきた。そうオーシャシオさんもいっていた。でも、私がこれから皆が安心できる場所を作るためには、そんな風に甘いだけではいけない。―――誰かを切り捨てること、誰かが傷つくこと、それは当たり前に世の中では溢れていることなのだ。
私たちと、あの人たち。
どんなふうにするのが良いのか、思考し続けなければならない。
私が、私の大切な人たちを守るために。
そう考えていたその昼、あの人たちが不審な動きをしているとレイマーから報告を受けた。
――――少女と、民族 1
(多分、神子な少女は襲撃の話を知り、また深く考える。そしてグリフォンは、少女に報告をする)




