表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
会社一のイケメン王子は立派な独身貴族になりました。(平成ver.)  作者: 志野まつこ
第2章 おまけのコーナー <その後の二人>
32/32

とある後日談 冷蔵庫とお買い物

 堀ちゃんの家の冷蔵庫は、数日おきに空になる。

「うちの冷蔵庫、ワケの分からない物がいっぱい詰まってるんだけど」

 自宅の冷蔵庫とのあまりの違いに困惑した。

 目の前には調味料とマーガリン等日持ちする物があるだけの、透明の棚板が広く見える冷蔵庫。

 奥には銀色の壁が見えている。

 うちの冷蔵庫であの銀板が見えた事なんて一度もない。

 「よくもここまで詰め込んだものだ」というくらい入っているのだが。


 なんか、広大だ。

 単身者用の小さめの冷蔵庫なのにそう思ってしまう。


「油断するとすぐ賞味期限きれちゃうから、献立を考えて買って、残ったら基本的に冷凍しちゃいますからねぇ。冷凍庫にはそれなりに入ってますよ。でも冷凍だと災害時とかにものすごい後悔しそうなんで、ちょっと心配なんですよね」

 堀ちゃんは途方に暮れた顔をした。


 うん、それは正論だとは思うんだけど。

 非常持ち出し袋と、10年保存の水、乾パンやら缶詰やら水で出来るおかゆのパウチ用意してるよね。

「災害時用にいつかは買わなきゃと思ってたんですよ。カニしゃぶしたいし」

 そう言って最近カセットコンロも買ったよね。

 いいきっかけが出来たと、ものすごく満足そうだった。

 結局、カニしゃぶは堀ちゃんの実家の電気鍋を借りてきたのだけれど。



 買い物に出るといつも思う事がある。

 堀ちゃんの、レジの担当者に言う「ありがとうございます」のタイミングは秀逸だ。

 お釣りを受け取る時。

 どうしてレジ店員より先にその言葉が出るのだろう。


「もうすぐお花見のシーズンですねぇ」

 スーパーの総菜コーナーに貼られた「花見弁当の予約受付中」のポスターを見て、堀ちゃんは口を開いた。

 堀ちゃんと外でのんびり弁当を食べるのは楽しそうだ。

 二人とも混雑は苦手なので、あまりメジャーではない、花見の出来る公園などがベストなんだけど。

 自発的に「花見に行きたい」なんて、これまで思った事はない。

 そんな事に気付いてついまた口元が緩んだ。


「この間、去年の防災訓練で知り合った近所のおばさま方にお花見に誘われたんですよ。駐車場の坂田さんも一緒です」

 また堀ちゃんが面白い事を言い出したなと思った。


◆―――――――◆―――――――◆―――――――◆―――――――◆


 去年の秋、小学校で行われた地域の防災訓練に初めて参加してみた所、「地区別に班に分かれて」と指示され「あのアパート、なんて地区?」と慌てた。

 運よくたろさんが駐車場を借りている坂田さんと、朝いつも犬の散歩をしていて挨拶する仲だったおば様が話しているのを見つけて話しかけたところ、その日は訓練終了まで一緒に行動した。

 若い人間の参加者が少ないためか、32歳ながら大変可愛がっていただいた。


 担架で運ばれる怪我人役などは、貴重な若手女性が片っ端からご指名された。

 若手男性は運ぶ役、高齢者には無理をさせられないので除外、おばちゃんは若い女性に譲るのが目に見えているから初めから声は掛けないみたいだった。

 小さな子供を連れているママさんもいたが、そこは身軽なわたしが行くべきで。

 「足を骨折」と書かれたA4サイズのパウチされたカードを首から下げ、おじちゃんに肩を借りながら歩くという迫真の演技をしましたとも。


 最近、朝のゴミ出しに出るといつも通り散歩していたワンコのおば様に「いつも近所の公園でお花見してるから、決まったら誘いに行くね」と言っていただき━━━自分でもちょっとびっくりするくらい、嬉しかったりした。

 そう言えばわたし、お祖母ちゃんっ子だったなぁ。だからかなぁ。

 母親よりは年が上だろうから50代後半から60代半ばくらいの、決しておばあちゃんと言う世代の方々ではないので失礼な話だけど。

 まあ、さすがにたろさんを付き合わせるのは悪い。

 実際たろさんも動揺していた。

 大丈夫ですよ、もともと一人で参加する気満々でしたから。

 たろさんも本当に付き合いがいいなぁ。



「入れてもらっていいですか」

 そう言ってスーパーのカゴサイズのレジバッグをカゴにセットすると、そこにレジを通した商品を入れてもらえる。

 サッカー台で詰め替える手間が、まるまる省ける。

『レジバッグはカゴにセットしてください』の案内があるお店はいいのだけど、そういった表示が無いお店だとレジの人には「考えて入れなきゃ」的に気を遣わせる気がして申し訳ないと思うのだけど━━━このシステムを考案した人は偉い!

 何か賞とか受賞してたりするのかな、とさえ思う。


 全てレジを通し終えたタイミングで、いつもたろさんがカゴをサッカー台に移動してくれる。

 普段、何かとたろさんが負担するのでスーパーの支払いだけはわたしが頑として譲らなかった。

 数日分の食材だから、たろさんの口に入らない方が断然多いし。

 わたしが支払いを済ませている間にたろさんはレジバッグの紐を縛り、カゴを返却しておいてくれる。

 ここに来ても至れり尽くせり。

 たろさん、気が利き過ぎです。

 レジの方の「いい旦那さんですねー」的な視線がすごいです。


 今日はたろさんが一緒だったから特売の卵が2パック購入出来るので、夜はオムライスの予定。

 オムライスなら他はサラダ位で許されるかな、という気もするし。

 うまくトロトロ卵になればいいけど。



「空っぽの冷蔵庫と、レジバッグ。堀ちゃんってすごいエコだよね」

 アパートに戻り、冷蔵庫の前にレジバッグを置いてくれたたろさんはしみじみと言った。


 いやー、もちろんエコも意識してはいるけど、レジ袋って溜まりまくるんですよ。

 でもってレジバッグは完全にわたしがめんどくさがりなだけなんです。


 サッカー台で袋に詰め直す手間無く帰れる快感を覚えたら、癖になっちゃってもう元の生活には戻れません。


 あ。

 なんかたろさんと一緒だな、なんて思っちゃったわたしは乙女なのか、腹黒なのか。


 春には乙女の方が似合う気がするのはなぜだろう。

 葉桜や、完全に散ってしまってからでもいいから、春にはたろさんと公園にでもピクニックに行けたらいいな。

 ゴザを敷いて二人でぼんやりのんびり過ごせたらどんなに幸せだろう。なんて思っちゃうんだから、やはり春は乙女な時期だと思う。

 





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ