11 収束した騒ぎ
雪の魔物騒ぎ、これにて終了!
久しぶりにXPのノーパソを起動してポチポチ打って、機嫌の悪いPCで投稿………二度ほど途中で電源切れる(泣)
IBMのThinkPad製品、もう誰にも使われないんだろーな………
五十九話、はじまります
雪は止み、吹雪は収まった。
雪の魔物は、生物を殺し、くっつけ、配下にすることができたらしい。大元の合成獣と目を合わせる以外で殺す対象になる条件は、合成獣の配下の魔物となったモノがそこにいると認知した時だったらしい。目の見えない配下の魔物は、吐く息や体に触れる温かさを求めてさ迷い歩いていたらしい。火を放てる者や、松明を持っていたものが何とか生き延びていることから証明されている。
南の森の領域に逃げ込んだ住人のほとんどは助かったが、吹雪の中領主の命令で走り回っていたものたちのほとんどは死亡。逃げた者の家のほとんどは現存しており、家に残っていた者の家と宿屋が大破していた。
「晴れた! 晴れたぞ!!」
人々の喜びの声は、まだ残っていた魔物たちを蹂躙した。
吹雪の中でしか活動できない残りの魔物たちの強さは、子供にも劣るものだった。
魔物の掃討は簡単に終わり、合成獣が吹雪を起こしていたのだと知らない住民から合成獣と出くわして戦い敗れ配下になってしまった人々を脆弱だと言い、その死体を蹴りまわした。
「アキ! 良かった………」
「とうさま! 迷っていたおれをカールが助けてくれたんです!!」
「おお、君が?」
「はい。エドワルのカールと申します」
「そうか。これからもアキのことを頼んでもいいかね」
「はい、もちろん」
「ありがとう。お礼の方は家に届けさせよう」
「ありがとうございます」
駆けずり回って死体となった人が脆弱だと言われるようになったのも、カールというただの少年がアキを捕まえていたことも一つの原因だろう。
雪の魔物を倒したのも、親方以外エドワルの者だったこともあって、雪の魔物以外に起きた騒ぎはすべてエドワルが引き起こしたものなのではないかと言われたが、動けない治療院の者が証言したことによりそれはない、という結論に至った。納得しているかどうかは別の問題である。
「騒ぎの直後逃げておいて正解だったな」
「そうねー」
前面のまとめ役として抜擢されていたCランク冒険者ノルドの行方は分かっていない。逃げたとか、いろいろ騒がれているが、本人の剣が宿屋に残っていたことでもしかしたら勇敢に戦い魔物の餌食になったのかもしれないと思われたが、いくつか離れた村で本人が見つかり、死亡説は幕を閉じた。
「俺らの狙いは金になる魔物だ」
「腐ったモノはいりませーん」
騎士団長のエンドクは、胴体と剣と鎧だけ見つかった。
ほかの部位はどうなったか分からず、鎧と剣以外はカゾスで燃やされることになった。数人生き残った部下たちは、エンドクの死亡に喜びを感じている節があり、エンドクという人間はさほど信頼を得ていなかったというのが丸わかりだった。
「副団長は町にいるから次の団長はあの人かなー」
「いや、この町での功績をたたえて―とかあるかもしれないじゃんか」
「現状からしてそれだけはないと思うけどな」
町長は片腕をなくしていたものの、何とか生き延びていた。
吹雪が吹き始め、さすがにもう我慢ならないと多くの人々を南の森に誘導し、自分は誘導途中で魔物に出くわし、人々を逃がすために囮となり、片腕と引き換えに振り切ったところで南の森に逃げ延び、熱がある程度下がったタクに助けられた。
自称町長の娘が本当はただの行商の娘であったこと、そのサクラが同じ行商仲間であったことがバレ、その娘たちは今後肩身の狭い思いを強いられることになるだろう。
「エイファ―頼むから機嫌直してくれよー」
「あんなこと人前でポンポン言うなんて………」
「戦闘になると思ったこと言っちゃうの知ってるだろー」
「覚えてないことも知ってるわよ!」
「だったらさー」
「許さない! 許せないの!!」
「そんなー………」
帽子を深くかぶったエイファは周囲の目を気にしながらまとわりつくシーブを払っていた。半端物であることは周囲に知られなかった代わりに、シーブの発言があまりにも多くの人に広まってしまったため、本気で町を移ることを考え始めるエイファである。
「お帰りなさいませ」
「お帰りなさいませ」
エドワル家ではルンルン気分の当主以下家族たちにイライラを募らせながらもメティオノーラとエヴァンスは、家政婦長として執事長としての職務に戻っていた。
エドワルは他の商家と違って被害者ゼロ、負傷者ゼロの恩賞あり、とかなり懐が温かくなっていた。
「回復薬………」
「親方さん! 町を救ってくれてありがとよ!! お題は半分にまけとくぜ!」
「ありがとう」
「お、おう」
親方は、自分の手の中にあると極小瓶のようだと思いながら、回復薬が封された小瓶を買って家へと帰る。家で待つ、誇らしいが思ったよりも重大な怪我で悩まされている息子のために。
□■□■□
吹雪が止んだ時、まだ空は曇天だったが、南の森では、雪の魔物は倒されたのだと大騒ぎだった。
熱が動いても平気なほどに下がったタクは、狩人の家々をめぐり、外で周囲の警戒をするように声をかける。雪の魔物は倒されたのかもしれないが、そのおこぼれをめぐってほかの魔物や獣が現れないとも言い切れないからである。
「脅威が去ったと判断できるまで、中で待機していてください」
「何かあったら吹けばいいんだな」
「うん。ほかのとこにも行ってくるから、武器を持って扉の前で待機。倒したという明確な連絡が来るまで中で待機を心掛けさせて欲しい」
「分かった」
タクは全部の家を回って、家の扉の前にある段の前で座って南の門を睨みつけていた。
倒したら治療院にこもっている神父様が南の森に報せを伝えてくれることになっているのである。町で一番安全な場所にいた神父様が南の森まで来れるならば、絶対の安全が保障されているだろう。
「うぎゃあぁあぁああ!」
少し気が緩んだ時に聞こえてきた叫び声。
笛を吹き、待機の命令を周りに伝えると、家の中に駆け込み、仮面をかぶっていまだに子供たちの相手をしている狩人に交代を申し出て、自分は断末魔らしき悲鳴の聞こえてきた場所へと向かう。
当然というかなんと言うか。
そこにいたのは、木の棒と十分に使えないだろう武器を手に持って無残に食い散らかされている人型のものと、頭にかじりつき、引っ張って移動している灰色狼だった。
「まだ家の中にいるのかな?」
灰色狼は単独で行動することはない。
単独で行動する場合はその場で食べることが多く、引っ張って巣に持ち帰ろうとしているときは、母狼が連なって狩りをした場合だ。
「あの家の者たちは捨てるべきだろう………」
差し延ばされた手を取っておきながら牙を突き立てる獣のような人たちだ。そんな奴らを助けてなんになるのか。また同じことを繰り返すだけだろう。
「でも………」
そう思っていても、やはり助けたいという思いが捨てられない。
この世界に置いては掃いて捨てるほど甘い考え。だが、タクはこの世界で過ごした時間より、元の世界で過ごした時間の方が長い。知識になってしまっている記憶の中にある、刷り込まれた博愛主義は、そう簡単にタクに見捨てるという選択肢を選ばせなかった。
「ひ、ひぃ………」
灰色狼に悟られないようにゆっくりと後ろに下がっていたタクの耳に聞こえた声。狩人の家の、壁際にいくつかつけられている排気口から聞こえる声。
人の家によって排気口がどこに付いているかは異なるが、家じゅうに張り巡らされている管のどれかが伝声管の役割を果たしたのだろう。
「おい、誰かいるのか」
生きている者がいる、そう分かってしまったタクに、声をかけないという選択肢はなかった。
「うわっ」
「静かに。俺は今家の外であんたの声を聞いた。大きな声を出せばあんたも食われるだろう」
「た、助けてくれっ」
虫のいい頼みをしてくるその声に、タクは内心、いつか自滅するんじゃないかと思いながら、どこに隠れているのかとか話を聞きながら助ける計画を練っていく。
「そこから絶対動かないように」
「あ、ああ」
助けてくれる、という安堵に塗れたその声に少し眉をひそめた後、タクは灰色狼が家をでてまたどこかに死体を運んで行った隙を見計らって、開けっ放しになっている扉から中に飛び込んだ。
「うっ………」
中は、狩りにある程度慣れ、解体もしているタクにとっても声に出すぐらいはクル光景だった。
どういう風な戦闘が行われたのかがすぐにわかる。
吹雪が収まって安心して外へ出たら襲いかかってきた灰色狼。閉めようとした扉の中に侵入を許してしまい、その一匹を殺すことに成功する。外で唸り声が聞こえなくなったから、と狼の死体を外に出そうとしたら、待機していた狼に襲いかかられ、何度も剣や斧を振り回すが、慣れていない武器を十分に扱えるはずもなく、無防備な腹を食い散らかされ、狭い家の中で逃げ込もうと画策し、一人以外は無残にも食い殺されたのだろう。
「早く連れ出さないと………」
最初に床にあった死体は大きな灰色狼だった。
背骨が折られ、舌が開いた口から床に出ている。恨めしそうに見てくるその瞳は澄んでいて、体についた足跡が人間の物だけなのから察すると、同族から親しまれていた個体だったのかもしれない。
次に見たのは、テーブルの上に散らかった皿やコップなど、血まみれになって無残にも壊されているカトラリーだ。ほぼタクの作品であるため、また作って渡してやろうという気持ちと、なんでここまで血が飛び散ったのか分からないという感想がせめぎ合う。
そして陽光に照らされた床を見て、タクは吐きそうになった。
血の海、そう表現した方がいいのではないかと思われるほどの夥しい血液。地面に転がり無残にも踏みつけられ原型が保たれていない内臓が、雪の季節とは思えないほどの悪臭を放っている。
「なんで………」
それに応える声はない。
一体何をしたらここまでこうなるのかまったくもってわからない。
むしろ、入った瞬間に気づきそうなものだが、近寄らないとその匂いには気が付かなかった。
そんなことよりも人を助けなければと動き出したタクは、その人が隠れていると言っていた場所にたどりつく。
「助けに来ました。今灰色狼は別の死体を持って行ったのでこちらには気が付きません。今のうちに移動しましょう」
「ほ、本当だな!」
「ええ、早く開けてください。灰色狼が戻ってきてしまう」
扉を開けた男は地面に転がる同じ町の住人を見て、サッと顔を青ざめながらも気丈に笑い、その死体を蹴りつける。
「なっ」
「お前らが死ぬのは当然のこと、僕が生き残ることに決まってたんだ、お前らが死ぬのは………」
ぶつぶつと唱えながら死体を蹴る男の様子に、その異常としか思えない光景に、当惑するタク。
「これで自由だ!」
「ちょっと、まって!」
タクの静止も聞かずに死体を踏みつけて出て行った男の絶叫は、最初に聞いたものよりも大きく悲惨だった。
飛び出した男の腹に牙を立てた灰色狼、どこに潜んでいたのか、多くの灰色狼がわらわらと出てきて絶叫する男の首をかみちぎり、腕を引きちぎり、腸を引きずり出し、体を引き裂いた。
まるで恨みでもこもっているかのようなその行為を、タクは動けずにその場でただ見ているしかなかった。
その視線の全てがタクに向けられるまで。
「―――ッ!」
ここから逃げる方法を必死で考えるタク。
しかし、出入口は一つ。たとえ引きこもり隠れたとしても、森に入れば彼らは必ず見つけて目の前の男性と同じ目にあわせてくるかもしれない。
しかし逃げ道はすでに塞がれており、その視線は、今にもタクを食い散らかそうとしているかのように思えて、一歩も動けないでいた。
まだ死にたくない。
その思いだけで、タクはその場に立っていた。
『皆、彼は私を踏まなかった。そう殺気立つでない』
腹を潰され、背骨が折れ曲がっていた、扉の前にあった死体がゆっくりと起き上がった。
『男、夢ではないぞ。私は生きている』
「嘘だ。背骨も、体だって踏まれて………」
一歩その死体だった灰色狼が近づくと、一歩タクは後ろに下がる。
『男、我等の目的はもう済まされた』
「も、目的?」
『ああ、我等の眷属を無残な形で食い物にした裁きだ』
その声に聞かされたのは、狩人が飼っていた仔狼を、ここの連中がもてあそび、最終的には炙って食い、不味いと捨てたのだという。
『仔の恨み、我等が晴らした。男が気にすることではない』
ひどい仕打ち。
それはどちらのことだろう。
『して、男はなぜ私の声が聞こえる? 獣人ならばまだしも、人間が私の声を聞いたなど、本来あってはならぬこと』
「………知らない」
言葉に出しておいて、答えがあっても殺されるしか先はないのではないかと、背中に冷たい者が滑り降りる。
背中が壁に当たり、これ以上逃げることは叶わない。
一歩一歩近づいてくる灰色狼の、ひたひたと言う足音がギュッと目をつぶったタクの頭に響く。
『知らぬと。ふむ、なれば数年後、男がこの町を出立するとき、私の眷属を一頭遣わそう』
「は?」
『一つ伝言を頼まれてくれるかの、この家の住人に、仔を愛してくれてありがとう、とな』
ふと、手にふわふわとした感触が押しつけられ、目を開けると灰色狼がタクの手に頭を押し付け、見上げてきた。
『男の傷は引き受けた。これはその代わりじゃ』
タクはさっきまで感じていた体の重みがなくなったのを感じ取った。
『皆、山へ帰るぞ。もう南に用はない』
呆然と灰色狼の群れを見送ったタクは、ゆっくりと外に出て、今し方起こったことが夢なのではないかと雪にへたり込む。
しかし、タクの後ろにある光景は本物だ。
結局死体は最後の男が蹴っていた数体のみだが、雪の上に引きずられた痕があり、家の床が血の海と化している以上、ここであったことが本当だったのだと、付きつけられる。
「タク」
前へ目を戻すと、そこには懐かしいと思える顔があった。
「どうした」
つっけんどんなその言葉。
頭を心配そうになでる武骨な手。
雪の上にその重さですこし沈んでしまっているハルバート。
「なんでもないさ………おかえり、親父」
「ああ」
タクは痛みのなくなった手で笛を出すと、安全が保障されたと音で知らせる。
了承の笛の音が聞こえて来る中、親方に南の森で何があったか、話して聞かせるタク。家に人を招き入れたことについて怒られるかビクビクしていたが、親方は何も言わず、ただタクの話を聞いていた。
「それで、雪の魔物は退治し終わって帰ってきたんだよね」
「ああ」
「どんな奴だったの? やっぱり大きかった?」
「とても」
親方はタクの質問に答えていたが、やはり長い文章をしゃべるのは苦手なのか、今度シーブを呼ぶからその時に教えてもらえとタクに伝え、それ以降は喋らなかった。
「狩人のタクだ! 開けてくれっと、だからいきなり開けるなよ!」
「お前の手がどういう状態だったか知ってるんだから当然だろ! あ、親方!! 無事でしたか!」
お面を横にずらした狩人は、満面の笑みで親方を迎える。
しかし、家の中にいた女性たちは親方の顔を見た瞬間に顔を青ざめる。
「親父、お前も。俺らは家の外で話してるんで、今のうちに出て行ってください、もう安全らしいですから」
タクは親方と狩人の手首を掴んで扉から出て見渡したら絶対に見える場所に座り込み、二人も座らせ、全員が出ていくのをじっと待つ。
「お前、そんなに強く握って大丈夫なのか?」
「え? あ、なんか、治った」
「はぁ? それはないだろ! 回復薬をぶっかけても治らなかったじゃないか! 見せてみろ」
「ちょっ」
コートを脱がされ、手に巻いた包帯代わりの布をほどかれる。
「本当だ………」
包帯できつく締めていた為、少々うっ血しているが、腫れていた皮膚も、割れた爪も、そんなことなかったかのように綺麗に戻っていた。
怪我と聞いていつもより三倍増しに睨みを利かせていた親方の顔はいつもの顔に戻り、狩人の顔は夢でも見ていたのか、自分が信じられないという顔になっていた。
内心一番驚いていたのはタクだ。
傷は引き受けたと言われたが、こんな綺麗に治ってるなんて思いもしなかったのだ。
「そういえば、お前に伝えてくれって」
「は? 誰が?」
「灰色狼」
「は?」
「仔を愛してくれてありがとう、だってさ」
「もしかして、うちのイヌのことか?」
タクは、家の惨状と、灰色狼にあって言葉を交わしたこと、家に招き入れた男たちが狩人の飼っていた灰色狼の眷属らしきイヌという名前の仔狼を喰ったことなどを話す。
狩人によると、イヌは、怪我をして動けなくなっていたところを狩人に拾われ、今まで猟犬として狩人と共に暮らしていたらしい。
そろそろ寿命で、奥の部屋で余生を過ごさせる予定だったらしい。
「そうだったんだ」
今更になって、灰色狼と言葉を交わした自分が信じられなくなるタク。
本当にあったことなのか、今いち現実味がわかないが、それ以上聞かれることもなかったので、きっと死なずに済んだことが納得いかずに見た夢だったんだろうと無理やり自分を納得させて、家へと視線を戻す。
「そういえば町長どうしよう」
「タクが背負っていけばいいんじゃないか?」
「は? 普通に大人が背負っていけばいいじゃないか」
親方は周りから恐れられきっと町長を誰にも渡せずに背負ったまま帰ってくることになると言い、狩人は町に入る前に脅されてきっと村長をほかの誰かに預けても牢屋行になるかもしれないからやりたくないと言い、結局タクが背負って町まで連れて行くことになる。
「本当に、助けてくれてありがとうございました」
自分と同じくらいの背をした、かなり年上の男を背負うという不思議な感覚を得ながら、結局女性たちに囲まれるようにして町へと行くことになったタク。途中で別の家から出てきたのだろう家族と再会を果たし、一度頭を下げて去っていく女性たちにタクも会釈をして足を進める。
「家をお貸ししただけですけどね」
「それでも、栄養のあるものも食べさせてくださり、本当にありがとうございました」
皆そういって去っていく。
何となく痒くなりながら、町長を無事冒険者ギルドまで届けて、タクは空を見上げる。
半日にも及ぶ吹雪によって白くなった町から見た空は、どこまでも透き通るような青空だった。
さて、多少【豪運】の威力分かっていただけたでしょうか。
え? 説明もないのにわかる分けないじゃないかって?
ですよねー、まあ、他に【運】を持つ奴が出てくるまで説明は保留になるでしょう。
あまり人気のない少年編、あと十話ほど続ける予定なので気長にお付き合いください。




