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魔王選定  作者: 華宵 朔灼
五章 少女期・国越え
102/113

07 Dランク昇格試験 中編

近場でやる花火大会がほとんど終わって、屋根の上で眺める花火も見ものだったなぁとか思いを馳せながら、小学校の頃の夏休みの宿題を思い出す。

毎年一枚絵をかいてくること、なんて言われて面倒臭くて大体海の絵か花火の絵を描いてた記憶がある。

花火の絵を描くとき、大抵真っ白の画用紙の上に適当に絵具ぶちまけて乾かしてカラフルになったら、クレヨンで塗りつぶして爪楊枝で削って花火を演出して、全く人を描かずに提出してた。

なんて楽をしていたんだろう。

創作時間、(乾かす時間とか除いて)一時間。


さて、本編開始ですよー

 早朝。

 いつも通り起きたスペーラは、シノの行ってきますと言う置手紙を見て笑っていた。そんな頃。


 「遅いな」

 「ん」

 「いつまで私を待たせるのかしら」

 「早朝って言ったのに………もっときつく言うべきだったか」


 ミズ、シノ、ミーシャ、デリアードは、登ってくる日を見つめながら馬や馬車を停めた正門前で黄昏ていた。

 早朝、というと時間に決まりが無いように思えるが、冒険者同士では丁度日が昇り始める時間を差すことが多い。


 「あ、登ってくる時間だから間違ってないよな」

 「良かった。サズ君だったか。先に馬車に乗り込んでいてくれ。メイがそこに居るから説明を受けていてくれると助かる」

 「分かった」


 あくびをかみ殺しながら、昨日はボサボサにしていた髪をくくって幾分かすっきりした風貌のサズは、ミズの言葉に噛み付きもせずに大人しく馬車の中に乗り込んだ。

 待つのも疲れたと言ってミーシャもサズの後を追って馬車に乗り込む。

 ミーシャが外で立っていた理由は、あまりにもメイがミーシャを怖がり話すことも話せなくなっていたからである。ミーシャなりに気を使ったのか出てきて共に立って待つ姿にミズは少なからず驚いたのだが、背後の馬車からミーシャとサズの怒鳴り声が聞こえてきて頭を抱えたくなるミズである。


 「後はカイラとウーラか………時間通り来なかった場合、どうなるんだ」

 「とりあえず襲撃が午後なので、減点対象ですかね」

 「そうか………」


 聞こえるように鳴らされた舌打ちに、デリアードは肩をすくめる。

 試験官をしているとは言え、Dランクに相応しいかどうかを見極めるのではなく、Dランクを与えて問題ないか確認するのがデリアードの仕事である。別に舌打ちされるだろう事など織り込み済みだ。


 「このまま、来なかったら?」


 ミズが危惧しているのはDランク試験として盗賊の討伐を行えるかどうか。このまま二人が来なければ、試験そのものが流れる可能性だってあるのだから。


 「今回に関しては午後に設定していましたからね」


 今日中に襲撃し討伐することが目標であり、それを今日の午後と設定したのは他ならぬミズであり、他の者もそれに同意した。盗賊の塒まで、馬車でだいたい二刻ほど。別に早朝にでなくとも、日が落ちる頃に襲撃するだけならば、昼過ぎに出ても何の問題もないのだ。

 よって、昼までに来れば減点対象にはなるが、それだけで失格にはならないのである。


 「すーみませーん!! ぎ、ぎりぎりですよね!?」

 「………そうだな」


 ちょうど日が完全に丸く姿を現した時に来たのはウーラ。


 「本当にすみません!」

 「………まぁ、時間はぎりぎりだ。もう少し早く来れればなお良かったな」

 「はぃ………すみません」


 ミズは、作戦は馬車で聞けと騎獣を連れて来たウーラを馬車へ追いやる。

 ウーラが連れてきた騎獣は、恐らく鍛えられたマメロに似た魔物であった。

 体表を覆うのは黒茶で長めの毛。耳の後ろからは立派な角が生えており、広い背には特注の馬具が取り付けられている。騎乗場所より後ろには荷運び用の荷物置き場が設置されており、と程遠くを旅してきたのだろうことが窺える。


 「ウーラ、出身は」

 「あ、俺の出身はフィデリントの村です」

 「ふーん」


 シノとウーラの会話に固まるデリアードとミズ。

 もう一概に子供とは言えない年齢だろうウーラだが、その年齢だとフロウェルの国境を超えることはできない。つまりは、フィデリントとディルエバーズの海路を進み、修行と言う名の旅をしながらこの街に来たのだと言うことが窺える。

 そして、魔王が住む城があると言われている魔境に近いらしいフィデリントは、海の魔物の被害に苛まれている国でもあり、十数年前まだ燻っていた聖戦が完全に終結するきっかけにもなった魔物の大侵攻は、フィデリントの多くの村を飲み込み噛み砕いたことは誰でも知る有名なことだ。

 村に冒険者ギルドがあることは稀。

 海から魔物が侵攻してくることを知って村に行こうとも、町にも同様の侵攻が行われていた為、間に合い消滅を免れた村は少なかった。

 外見的な年齢だけでも、すでに帰る村はないのだろうと考えてしまえるほどに、その被害は甚大だったのだ。

 シノはまだ固まってもう一人の遅刻者を迎える為にいる二人を置いて、ウーラと共に馬車に来た。


 「あら? 随分遅かったのね」

 「すみません。アイツが言うこと聞いてくれなくて」


 今は大人しくシノとじゃれているウーラの騎獣だが、その気性は魔物らしく荒い。

 いつもあんな風に懐いてくれれば苦労しないのに、とちょっと恨めし気にシノを見つめながらウーラはため息をつく。


 「………あの娘、我が家の馬たちも簡単に手懐けましたから、羨んでも仕方ないと思いますわ」

 「えっ」


 貴族の家で飼われるような馬は、他人に懐かないようにしっかりと調教される。厩舎を管理する者と所有者である主人にしか甘えず、それ以外に食事を出されても食べることはせず、他の者には見向きもしない。

 それが貴族が飼う馬だ。


 「さて、もう一人は来てませんの?」

 「あ、俺が来たときはまだ………」

 「来てない」

 「そうですの………これは先に行ってしまって野営地を作っていた方が建設的かもしれませんわね」


 ミーシャは頬に手を添えて額の青筋をぴくぴくさせながらため息を吐く。

 非常に面倒だとその表情は語っている。


 「なんだっけ? そのカイ………カイなんとかってやつ、置いてってもいーんじゃねーの?」


 面倒くさいとはっきりと顔に書いてある表情でシズが言えば、


 「だ、だめですよ………これは試験なんですよ。置いていくなんて………ごめんなしゃい睨まにゃいでっ」


 と、メイが慌てる。

 ふるふると震えるメイに手は出さないものの、はっきりと浮かべられたイラつきは、馬車の中という閉鎖された空間の中で貴族と一緒に居ると言うことそのものが気に食わなくて、どもりながらも話す年下の少年の態度にも思うところが多々あるからだろう。

 サズの顔は怖い顔ではない。

 怖い顔ではないが、貧民街で舐められない程度に悪い顔つきができる。つまりは貧民街に出入りしないようなメイにとっては恐怖の対象でしかないわけで。


 「睨んでねーよ………おい、ウーラ。その荷台、俺も乗っけてくれねーか」

 「え? ああ、いいですよ。ただ、クッションとかないので………」

 「ん? 上着を丸めりゃ平気だろ、気にすんな。馬車に居たくねーだけだし」


 そう言って馬車を降りるサズ。

 脱いだ上着を手際よく丸めて騎獣の荷台に置き、ひらりと乗る。


 「………ミズから連絡よ。後から追っかけるから先に野営地の設営だって」


 それぞれが頷き、街を出た。

 クロに乗ったシノ、二頭立ての馬車に乗るミーシャとメイと操る執事、それにマメロ似の騎獣に乗るウーラとサズ。

 離れていく姿をミズは見てため息を付き、デリアードは口元に手を当てて笑いながら、もう片方の手で決まった印を作る。

 誰にも気が付かれることは無く、シノたち一行を、一頭の馬に乗った冒険者らしき影が追った。


 □■□■□


 結局カイラが現れたのは、さらに半刻ほど時間が経ってからだった。

 馬も引きつれず、腰の剣だけはしっかりと下げてデリアードとミズの元に駆けてきた。


 「遅いぞっ! 依頼をパーティーで受ける場合時間厳守だ。そんなことも教わらなかったか」


 まだ息が整え終わらないカイラに、ミズは叱る。

 バッと顔を上げたカイラは、確かに腰に剣を下げているしかし、それだけともいえる格好だった。


 「………おい、何があった?」


 Dランク昇格試験。内容は盗賊の討伐。

 冒険者ギルドに入って、Dランクを得たもののそれ以降依頼を受けない者が急増する。Dランク以上を目指す者の殆どは、この試験を受けることがその後の性格に大きな影響を与えたと言う。


 「に、兄さんと姉さんがっ!!」

 「はぁ?」


 そして、Dランク昇格試験を受けた者は誰もが内容をこう言う。


 ―――Dランク昇格試験の内容? はは、あれは盗賊の討伐、かな?


 盗賊の討伐。

 冒険者ギルドの依頼掲示板には盗賊の討伐と言う依頼が常時貼られている。

 貼られているが、詳細には何も書かれず、報酬の欄には応相談と書かれているのみ。

 それを受付に聞きに行けば、報酬は盗賊が溜めこんだ私財全てと、盗賊個人に掛かった懸賞金のみであると言われる。しかも懸賞金を支払うのは冒険者ギルドではなく、領主である。


 「兄さんと姉さんがっ、盗賊に。『エルダンの槍』にっ」

 「何だと!?」


 ルイーデの街付近で活動し、主にフロウェルからやってきた商隊や、向かう商隊を襲う、なかなかつかまらない盗賊団『エルダンの槍』。その頭はエルダンと、聖戦時英雄視され、終り次第切り捨てられた槍持ちの男の名前を名乗っている。


 「助けなきゃっ、今も縄を抜けてきて………」

 「駄目だ。お前は今、依頼を受けているはずだ」

 「なっ!」


 まだ肩で息をするカイラに、ミズは冷たい視線を送る。

 助けを求めようとデリアードに目線を送るが、帰ってくるのは感情のない微笑み。


 「お前は今、Dランク昇格試験を受けているはずだ。お前は依頼より家族を選ぶのか?」

 「依頼より家族が大事なんて当たり前じゃないか!」

 「………そうか。勝手に行け。俺らは昇格試験がある」

 「っ!! ああ、そうするよ!」


 少し視線を彷徨わせたカイラは、ぐっと拳を握りしめて町の雑踏へと戻っていく。


 「あれ? ミズ君、いいの?」

 「依頼は契約の一種。やる気のない奴が隊を乱すよりはいいでしょう………さて、あいつらを負いますがどうします? |彼の保護を優先しますか《・・・・・・・・・・・》?」


 ミズの言葉に、デリアードは笑みを深める。


 「どこまで聞きました?」

 「殆ど聞けてませんよ。………ただ、後味の悪い試験内容だった、とは聞きました」

 「ふふふ、私はあなた方の試験官。あなた方に付いて行きますよ」

 「そうですか」


 馬に跨り街を後にする二人。

 デリアードは小さくなる街を振り返って薄く笑う。


 ―――Dランク昇格試験、一人脱落。


 □■□■□


 シノら五人は、野営地の設営を行っていた。


 「お貴族様はなーんにもできねーんだな!」

 「あらぁ? 私は馬車に馬に、こんなにも協力してあげているのに、他に何を願うの? 不満しか漏らさないのね、貧しい者は」


 ミーシャは確かに馬車の中で寛いでいるが、今サズが広げている布も、用意された軽食も、全てミーシャが馬車と共に持ち込んだ物であり、十分に貢献していると言える。


 「はっ、貴族様は親の金で踏ん反り返るのかよ」

 「違うわ。全部、私が所有している物よ。金銭も、私が自分で稼いだもの。貧民に言われる筋合いはないわ」

 「ぐっ」


 貴族とはふんぞり返って何も気にしない連中ばかり。

 そんな風に思っていたサズは、ミーシャと会話にすらなっていない愚痴を交わすことで思っていた貴族と明らかに違うのだと言うことが薄々分かって来てしまう。

 こんなに貧しいのは孤児院を支えるはずの貴族が出し惜しみをしているせい。教会の信徒が自分のことばかり考えていて十分なお布施をしてくれないせい。そんな、上から言われ下に伝えてきた思いが揺らぐ。


 「あ、あのっ、喧嘩は良くないのでしゅ! うう………」


 喧嘩を止めようとして噛んでしまい、黙々と野営地の準備を進めるウーラの方へと寄っていくメイ。

 思いだろう大杖を背中にしっかりと背負い、木に引っ掛かったりウーラにぶつけたりしながらも、メイは文句ひとつ言わず野営地の準備を進めいていく。

 それを見て、サズは大きく舌打ちをすると野営地の準備を手伝い始めた。


 「お嬢様、何か来るようです」

 「そう………大丈夫よ、彼と試験官だわ」

 「そうでございましたか。出すぎた真似を致しました」

 「いいえ。貴方は私の眼と耳よ、十分にその能力を生かしなさい」

 「御意に」


 のんびりと御者台に座っているように見える執事と会話をして、ミーシャは馬車から降りる。

 文句を言いあいながらも少し距離が縮まったところで、シノが帰ってきた。


 「ただいま」

 「あら、お帰りなさい。偵察お疲れ様、早速報告を伺いたいのですけど」

 「ん」


 見ようによっては、貴族が幼い少女を甚振っているように思える光景だったのだが、生憎とシノとクロはそう軟ではなかった。

 野営地として、火を焚いても盗賊からは怪しまれない場所でありながら、盗賊に何かあればすぐに助けに行ける場所を見つけ、街道から山道まで馬車を運び込む為に道を開拓し、野営地にあった草木を取り払ったのも、全てシノの手柄だ。

 いつも年下世話をする側であったサズからすると、大人や偉い奴は戦い、子供や弱い奴は守られるべきと言う考え方であったのに、それが大きく崩される結果になっているのだ。ただ悔しい、そう言う思いが、サズの中に渦巻いていた。


 「地図」

 「あ、こっちに在ります!」

 「シノちゃんってすげーのな! 俺じゃこんな上手く偵察できないよ」


 ここいらの地形を簡単にまとめた地図。

 そこにシノは盗賊の出入口が有る場所に『×』を描き、その横に数字で見張りの人数を書いていく。シノが書き込みを終わり顔を上げれば、馬車の中で涼んでいたはずのミーシャもやって来て、丸太で作った簡易の椅子に座り、地図が置かれている布を引いただけの簡易机を覗き込んだ。


 「随分と見晴が良い場所に陣取っているのね」

 「ん」


 盗賊が居る出口は三ケ所。

 一か所目は、見晴台として使っているのだろう街道に面した崖に空いた横穴。上ることも降りることもできなさそうだが、その穴には常時一人居て、眼下の街道を見下ろしている。

 二か所目は、ルイーデの街を望むことができるだろう山の中腹の、少し開けた洞穴。広い入口である為、馬車で中に入ることも出るだろうし、馬をそのまま中で飼っているかもしれない。

 三ケ所目は、だだっ広い草原に面した縦穴。その上に小屋を建てて中に必ず人がいる。小屋に向かう足跡はあっても、小屋から出る足跡は極端に少なく、玄関扉は最近付け替えたかのように新しく拙い物で小屋と雰囲気が合わなかった。


 「よ、よくそこまで調べられたね………大丈夫だったの?」

 「ん、得意」

 「そ、そう」


 メイが不安そうにシノを見るが、特に何の感情も示さずにシノは答える。


 「どうやって調べましたの?」

 「秘密」

 「同じパーティーを組んだ者同士ではないですの、少しぐらい譲歩してくださいな」

 「………魔術、それ以上言わない」


 シーと口元に指を当ててミーシャを見るシノ。

 何も話さないと言うシノの視線に当てられたのか、ミーシャは一歩下がって、そして気が付いた。


 「貴方の馬、どこですの? 見かけませんね」

 「あ、そういやそうだな! シノちゃん、馬さんどっか行っちゃった?」

 「おい子供じゃねーんだ。そんな気持ち悪い話し方やめろよ」

 「えー………」

 「そ、それは僕もないと、思います………」

 「メイ君まで!」

 「ご、ごめんなさいぃ」


 全否定されたウーラは騎獣の元に行き、蹴られる。

 天然なのか計算なのか、ウーラの能天気さのおかげか、その場は和んでいる。これから依頼を完遂させる為の案を立てなくてはならないと言うのに。


 「すまない、遅くなった」

 「皆さん野営地………野営地と言うよりもお茶会場所ですね」

 「ええ、まぁ。コレなら私が郊外でお茶会がしたくて小さい子供たちを引っ張り出したってことで通るでしょう? いい意味でも、悪い意味でも」


 いい意味は普通の一般人に見つかった場合だろう。

 近隣にいくらでも狩人はいる。盗賊の塒のことは冒険者ギルドから注意が行っているだろうから寄らないかもしれないが、逆に今が狙い時と狩人が来るかもしれない。そんな時に、貴族の道楽と言うのはいい言い訳になる。

 狩人のほとんどは町や村に馴染めない爪弾き者、貴族の道楽に一番気を使わなければならない存在であり、貴族に喧嘩を売れば簡単に居場所を奪われてしまう程肩身が狭い職である。

 そして悪い意味。


 「この娘、顔はすっごく可愛いのよ」


 ミーシャはパサッとシノの被っている灰色のケープを後ろに落とす。

 まだ顔を見ていなかったミズは素直に驚き、デリアードは少し顔を青くする。他の三名はすでにシノの素顔を拝顔済みだ。


 「これはまた………将来有望な顔だな」


 シノはミーシャを少し睨みつけると、フードを被ってクロの元へ行く。


 「ああ、その馬には感謝してる。まさかここまで案内してくれるとは思わなかったよ」

 「ん」


 日陰で座るクロの胴体に体を預けるようにしてシノも地面に横たわる。

 少しして、日向ぼっこでのお昼寝時間が始まった。


 ■□■□■


 荒い息遣いが裏道を駆け抜ける。

 駆け抜けた少年の背からして、恐らく奉公期間が終わる頃。腰から剣を下げているのを見るからには冒険者だろうか。


 「おい、どうし………行っちまったよ」


 善意の声すら届かない少年は、速度を落さずに更に奥へ奥へと駆けて行く。


 「なーんかあったんだろうさ。今日は何だか騒がしいからな」

 「そーかね。ま、貧民街の俺らにとってはなーんも変わらんね」

 「だな」


 彼らは無関係。

 街は今日も安全である。


 「あ、そう言や聞いたか?」

 「何だ? 行方不明の貴族のお嬢様か? それとも貧民街のドラゴンって言われているガキか? お前あの手の与太話大好きだからなぁ………」


 片方が昔はこういう話をお前にされたっけか、と楽しそうに振り返っていると、もう一人はその妄想を肩を掴むことで現実に引き戻す。


 「いんや、それじゃねぇ」

 「ほう、新しい噂話でも()っけたのか」


 それが噂話でもないかもしれないと前置きを置いて話し出す。


 「盗賊掃討作戦、そういや今日らしい」


 肩を掴まれた方が青ざめる。


 「嘘だろ」

 「本当だ。今日は街から出ない方がいい」

 「おいおい、領主様が抑え込んでただろ」

 「だが確かに今日は、警備兵が多く門を守ってるし、貴族様は完全に閉じこもってるし、冒険者ギルドはすっからかんだ………」


 顔を青くしながら思い出す。

 確かに今日は街を出ていく者が極端に少なかった。

 出て行ったのは、この街の者ではなく、貴族に伝手がないような小さな商会の者らや、近隣に住んでいる奴らだったりと、普段出ていくような者が極端に少なかった。

 それに、昨晩はあふれかえっているはずの酒場がいつにもまして少なく、飲み仲間は皆首を傾げたのだ。

 そして来なかった連中の殆どが、警備をやっている者だったり、屋台を出してる者だったり、冒険者であったり。


 「で、でもよぉ」

 「だったら冒険者ギルド行ってみろよ………昨日の朝っぱらに居ただろう? 灰色の外套着て、真っ黒い馬連れた二人組」


 貧民街は噂に逞しい。

 誰が彼が彼女が子供が老人が、どこで誰と何をしてどうなったか貧民街ではそれに手が付き足が付き一つの情報として一人で歩き回る。どれが正しいかは聞く人次第だが、金を摘めばどんな情報だって集まる、それが貧民街。

 そんな中、灰色の小さいのと大きいのと、真っ黒い馬の組み合わせは珍しく、誰の耳にも届いていた。しかも、彼らは貧民街の連中とも一緒に酒を飲む珍しい門番の紹介で兵の宿舎に泊まり、昨日は一緒に飯を食べたとも耳に届いている。

 良くも悪くも、有名すぎる話だ。


 「ああ、そういや居たな。あの馬、うっぱらったらいい額になるんだろうなぁ」

 「そうだな………そうじゃなくてだな、あれ妖精族かもしれないって話が上がってるんだ」

 「嘘だろ!?」

 「声がでけぇ!」


 青だった顔が白くなる。

 シシラギヤの街なのに妖精族の恩恵が与えられなかった街、それがシシラギヤ内でのルイーデの印象だ。

 しかし実際そうではない。山向こうの町では、草すら生えない土地なのだ。確かに妖精族による精霊の癒しはルイーデに与えられた。


 「とにかく、あれらが囮だ。近付かねーようにな」


 貧民街の二人はその場から逃げるように消える。

 彼らの頭の中からは、少年が駆け抜けて行ったことなど消えていた。

 誰もいない裏道の、さらに枝分かれした奥から新しい者が出てくる。


 「うーん、コレ聞かなきゃ良かったかな………ギルドで話聞く前にケープの色、変えた方が良いかな………」


 白髪が、日の光に照らされた。

 助けに行くと言う選択肢は、ない。

前後編だと思った? 中編もあったんだよ!

はい、調子乗りました。ごめんなさい。


カイラ君脱落です。

しかもこの中編書いてる間に三回落ちたんですよ。PC。

熱暴走とか起こさないでいてくれるといいなぁ………

エアコンかけないと使えないPCってポンコツだと思うんだ………


さて、また次回お会いしましょー!

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