46!
リュウたちがホームに戻ると待ち構えていたのは不満顔の小鳥と、ふらふらとした危ない足取りの蟒蛇だった。
小鳥は自分が除け者にされたと思ったのか、頬を膨らませて非難の視線を向けている。その目は若干うるんでいるような気がする。
蟒蛇はリュウに抱えられているイリスを見て心配そうな視線を向けている。
「ただいま」
「ただいま。じゃないでしょ馬鹿ぁ!」
リュウが笑顔で言うと小鳥は涙を流しながらリュウに抱きついてきた。
「心配したんだからね!」
「それはごめんなさい」
小鳥はさっきのイリスを彷彿とさせる姿で泣きわめく。
その姿を九と宰はやれやれと言った苦笑で眺めているが、小鳥の怒りの矛先は二人にも向いた。
小鳥は泣き顔のまま二人の前に向かった。
「あんたたちもだからね! 私のことを思ってなのか何だか知らないけど私のことを置いていくなんて酷いよ!」
「それはそれは。申し訳ありませんでした」
「すまなかったな」
二人はニヤつきながら謝罪の言葉を口にするが、それでは小鳥の気が済まないようだ。
「謝っても許さないんだからねぇ!」
小鳥は泣きながら二人に説教をしている。
二人は泣いている小鳥の姿を眺めながら、慈しみにあふれた目で小鳥の頭を撫でてやっている。小鳥はその行動が気に入らなかったのか頭をなでる手を振り払いながらも説教を続けている。
それをリュウが見ていると無言を貫いていた蟒蛇が近づいてきた。
「……リュウ」
「ん? なんだい? 蟒蛇」
「……イリスは?」
「問題ないよ。ちょっと泣き疲れて寝ちゃってるだけだから」
「……良かった」
蟒蛇は安心したような表情になって寝ているイリスの頭をやさしい手つきで撫でてやっている。その姿は父親に抱かれた子供を慈しむ母親のようだ。
リュウが蟒蛇とイリスを見ていると、四谷達、他の幹部が集まってきていた。
「リュウ、独断専行するとはいい度胸だな」
「四谷、ボクたちを処分するなんて言わないよね? だって今回の一件で四谷はボクたち以上に怒っていたんじゃないの?」
リュウのその言葉に四谷はため息をつく。反論してこないと言うことはリュウの言葉は的を射ていたのだろう。
四谷の後ろにいる幹部たちもリュウの単独行動に言いたいことがあるようだが、その腹の底では全員がリュウの行動をたたえていた。
《ナインヘッド》は複数のチームが集まってできた連合のチームだ。元のチームとしての繋がりが強い分、灰汁の強いチームかもしれない。だが、他のどのチームよりも仲間を大事にする慈しみの心を持っている優しいチームでもあった。
それだけにリュウの単独行動を表面上は否定していても、全員が内心ではリュウの行動を肯定していた。
「はぁ……。お前の言葉にも一理ある。お前が行かなかったらこっちにもそれなりの被害が出ていただろうからな。だが、事後報告ぐらいはしてもらうぞ」
「それぐらいならね」
こうして、リュウたちの報復の戦争はやっと終わった。
《鮮血の夜》は壊滅。《ナインヘッド》の被害は実質的にゼロ。
この戦争の後では、チームどうしの勢力図が大きく変わるかもと言われていたが、それはまた別の話。
そんな遠いことよりもリュウの身近でわかりやすい変化があった。
それは……
「……よろしく」
「お兄さん! 何で蟒蛇さんがここにいるんですか!?」
今のイリスの憤慨した声からもわかるとおり、蟒蛇がリュウの部屋に住むことになったのだ。
詳細に言うと、蟒蛇は第六部隊のリーダーではなくなったのでリュウの第五部隊に入った。それぞれの部隊員はその部隊にあてがわれた部屋で寝起きすることになる。第五部隊は元々リュウ一人であったこともあって、第五部隊で使えるのがリュウの自室一つしかないのだ。
たぶん、リュウが部屋を増やしてくれと言えば使用できる部屋を増やすことも可能だろうが、そうなると一人一部屋になることが予想される。それはイリスが承服しないだろう。
そうなると、蟒蛇もここに住ませるしかない。
そんな風にイリスにも伝えたのだが、イリスは承服しようとはしない。
「ここは私とお兄さんの愛の巣なんです! そこに他の人を入れることにお兄さんは何とも思わないんですかぁ!?」
「愛の巣って……それはともかくとしても、もう説明したでしょ?」
「お兄さんの力で何とかしてください」
「いや~、ボクは実働戦力で戦うことしかできないからなぁ……。だから、ボクの立場はそんなに高くないんだよね」
リュウはイリスの提案をすべてのらりくらりと躱している。
本当のことを言ってしまえば蟒蛇だけを他の部屋に住ませることはできなくもない。
施設の管理を担当しているのは宰だし、部屋など腐るほどある。多少の無理を言っても《鮮血の夜》を潰した報酬とでも言えば他の幹部どもは口をつぐむだろう。
だが、リュウが蟒蛇を一人にはしたくなかったのだ。
リュウが話が通じないと分かると、イリスは説得の対象を蟒蛇に移した。
「蟒蛇さんはお兄さんと同じ部屋で寝起きしてもいいんですか?」
「……別に……構わない」
「お兄さんに襲われるかもしれないんですよ?」
「……イリス。さすがにそれは酷くない?」
リュウがイリスの言葉を聞いて涙目になる。
同じ部屋で生活しているイリスからそんなことを考えられていたかと思うと、さすがのリュウもちょっと悲しかった。
「私は別にいつでも襲っていいですからね? それでも蟒蛇さんは良いんですか?」
イリスはリュウに笑顔を向けてから蟒蛇に問いかける。
蟒蛇は少しの間の後、なんでもないことのように答えた。
「……別に……リュウに……なら」
「えぇっ!?」
蟒蛇の声はいつもと変わらない淡々としたものだ。だが、その頬は若干、本当に若干朱に染まっているような気がする。
その答えは驚きだったのかイリスが驚いたような声を上げる。
リュウに至ってはそんな過激なことを平然と言われるとは思っていなかったので凍ってしまっている。
そんなリュウの右手にイリスが腕をからませる。
「イリスさーん?」
「お兄さんは私の物なんですからね!? 蟒蛇さんには渡しませんからね!」
「……別に……勝手に……言って……いれば……いい」
蟒蛇はそこで一度言葉を切ると、残っている右腕をリュウの左腕に絡めてからイリスに視線を向ける。
「蟒蛇も!?」
「……リュウは……私の物だから」
期せずして二人はリュウを挟んでにらみ合うような形になった。
二人はしばしの間にらみ合った後、同じタイミングでリュウに視線を向けた。
「お兄さんはどっちが好きなんですか!?」
「……リュウは……どっちが……好きなの?」
リュウは二人の視線を正面から受けて、苦笑いを浮かべながらこの三人で過ごすのは楽しそうだなぁと思っていた。
……できれば修羅場がないといいんだけれど、無理そうだね。




